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星空の少女は兄の影を追いかける  作者: 白雪
第2幕A

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13 異界、ダンジョン、魔物

 ハイラムはすでに冒険者登録を済ませている。

 全員が冒険者となったところで、アルフとも合流し、顔を合わせた。


 役者が揃ったところで、肩慣らし――ダンジョンに行く準備をしに、店を巡る最中、お気に入りを見つける。


 ワンピースタイプに薄く引き伸ばした鎧だ。

 軽いけど頑丈で、さらりと着こなせる。

 すらっと伸びた脚はレギンスで覆ってある。


 武器はベーシックなスタッフに水晶を取り付けてもらった。

 ダンジョンへ行くことを伝えると過剰に心配され、おまけをつけてもらったのだ。


 いよいよ戦いに行くと考えると、ドキドキする。

 楽しみだけど怖い。自分がうまくやれるのか不安になる。

 対して気楽に構えるエレナ。


「大丈夫よウイユ。あのブラックスターがついているんだから!」


 眉をきりりと上げ、自信に満ちた口調で言い切る。

 玉子の黄身のような瞳が生き生きと輝いていた。


 そうか、彼が……。

 脳裏に浮かべた矛のような杖を携えたアルフ。


 ならいけるかと、根拠もなく確信を得て、安堵する。


「さぁて、土産物の種類を見なきゃ」


 エレナは楽しむ気満々で、カタログを手に頬を高くする。

 テンションが高めな女友達を尻目に、気持ちを落ち着かせたところで、ひと心地ついた。


 とにもかくにも装備は整い、聖女の像の前に戻る。


 先に待っていたハイラムは、青紫のブリオーにガチガチの鎧、タイトな下衣を合わせた格好だ。

 彼が現れるだけでただの市街地が、伝説の舞台に早変わり。

 まるでおとぎ話に出てくる騎士のようだった。


 ウイユの隣に立つエレナ。

 編み込みは変わらず根本には光輝くブルーの蝶を模した髪飾りが見え、トルマリンのようにきれい。

 後ろ髪は普段と違い高い位置でサイドテールにしている。

 ひらひらと揺れる垂れ袖は踊り子風で、動く度に鈴の音が鳴る。

 よく見ると細かな宝石がついており、陽光を浴びて乱反射し、とても華やかに映った。


「実はダンジョンにはいろんな宝石が眠っていてね。掘り出したものが安価でばらまかれているの。中にはダイヤモンドでできた魔窟もあるもの」

「えー、いいな」


 危険性はおいておいて、純粋な気持ちを吐く。


「見た目は無骨なんだけど。でも、あたしは加工もできるから。ほら、この通り!」


 つまり、手作りということか。


「今度ウイユにもわけてあげるわ」

「いいの?」

「ええ! 一緒に掘り出し物を探しましょう」


 声を高らかにし、笑顔を零す。

 以降もエレナが適当に話し掛けてくれたので、談笑が始まり、和やかな時間が流れた。


「そういえばアルフ、いたっけ?」



 数十分待って当の本人がようやく、市街地からやってきた。


 ぼかしストライプのローブに、迷彩柄のマントを羽織った出で立ち。

 ゆったりとしたパンツに、足元はカリガというブーツ丈のサンダルを履いている。

 三角帽子を被った姿は、あからさまに魔術師だ。


 軽装に見えて装備はバッチリ、ミスリルのネックレスには三角に加工したアズライトが輝いていた。


「よ、待った? あそこのカフェ旨かったぞ」


 本人は何食わぬ顔で手を上げる。

 心底呆れた顔で目をそらす二人。

 ツッコんでも無駄なので、移動を始める。



 ギルド内部に設置されたワープ装置を利用して、一旦消失。


 洞窟の前に飛んだ。

 緑深い場所に馴染むようにして、ダンジョンが顕現している。


「ダンジョンっていうのは、自動生成される魔窟でな。魔物が現実に侵蝕するときに開かれる穴みたいなものさ」


 ちなみに本物のゲートが開かれ、魔の領域と繋がることもあるらしい。


「嫌。普通に危険な場所なんだけど」

「だから気をつけろって、言ってるんだ」


 とにもかくにも、中に突入。

 いきなり飛び出してきた影の敵。

 すぐにアルフが前に出て、魔弾を射つ。


 ドゴーン、バゴーンと爆発音がして、敵が散った。


 女子二人が引いて固まる一方、アルフは余裕で口を挟む。


「魔物は本来、俺たちとは交わらねぇ」

「知っているわ。異界にいるのでしょう?」

「現実の裏側に存在するとされる世界。不要とされたもの――負の感情や怨念などが元となって形成される」

「あんた俺の役割かっさらおうとしてね?」


 皆のやり取りを聞き流しつつ、ダンジョンも異界と同じものなのだろうかと考え、闇に覆われた天井を見上げる。

 洞窟はひんやりとした空間で、墓場のように静かだった。明らかに魔が充満している。


 びくびくしながら進むと、不意に冷たい感触が背を撫でた。

 張り詰めた顔で振り向けば、刃を持った敵が飛び込む。


「きゃああああ!」


 トレジャーハンターのような見た目。もしくは辻斬り。

 夜道に襲われたような心地で、悲鳴を上げる。


 とっさに割り込むアルフ。

 影から飛び出たように見え、気配すらなくて、気づけない。

 敵も味方も意表を突かれた。


 相手が目を剥いた隙に、闇の力を発動。

 革の装備をまとった体が飲まれ、地の中へ沈んだ。

 漆黒の沼から吐き出された男は倒れ伏し、動かない。


「大丈夫か? ディギル」

「うん」


 おずおずとうなずく。

 引きつった表情の裏で、声を押し殺した。


 なんか、聞いていたのと違う。

 いや、こんなものだとは覚悟をしていたけれど!

 冒険ってもっと遊園地のアトラクションに乗るような心躍るものじゃなかったのか?


 やっぱり兄の言うことは宛にならない。だから帰らぬ人になるんだよ!


 内心勝手に怒りつつ、青ざめる。

 念のためにガチガチに防具を固めてきてよかったと思いつつ、全く安心できない。


「引き返そうか?」

「ううん大丈夫」


 ウイユはかぶりを振る。 

 アルフの力があれば、恐るるに足らない。

 彼はきちんと守ってくれた、約束通り。

 鼓動が加速するのを感じながら、アルフを見上げる。

 少年は視線をずらした。



 次のフロアへと進む。先導するアルフが頼もしい。

 ギミックへ挑む。

 鍵を開け、碑文を解く。正しいルートへ進むのだ。

 さらに宝を守る硬貨の敵が揺らめきながら攻めるも、全員で撃ち落とす。


 投げたチャクラムをキャッチしたエレナを前に、おずおずと固まったままのウイユ。

 バリアを張って、攻撃を防いだだけ。一見するとなにもしていないように見える。

 落ち着きもなくキョロキョロとしつつ、視線を止めた。

 近くに宝箱があったので、のそのそと近づく。

 開けゴマ。


「あ、ウイユ、ちょっと待って!」


 慌てて呼び声が掛かる。


「ん?」と固まるも、もう遅い。

「きゃあああ!」


 飛び出したのはミミックだった。

 モンスターの出現をスイッチに、ゾゾゾと重たい音。

 目の前に壁が立ちはだかる。


 フロアに閉じ込められた。


 即座にハイラムが前に出る。

 長剣を抜き、斬撃がひらめいた。

 ガンッ。

 硬い音が鳴り、反動で下がった。


 ならばと両手で剣を握りし直した、王子の後ろ。


 奥でカチッと音が鳴る。

 エレナはきちんと壁にできたスイッチを押していた。

 解除。

 扉が開いた。


 ほっと一息、肩を下げた。

 ハイラムは涼しい顔で剣を下ろす。


 先ほど物理で突破しようとしていた彼。

 ずいぶんと脳筋なんだなと思い傍観すると、相手の目がこちらを向く。

 切れ長で涼しげながら、妙な圧があった。


「ディギル嬢は外したほうがいい。場違いだ」

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