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星空の少女は兄の影を追いかける  作者: 白雪
第2幕A

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12/29

11 兄の置き土産

「秘島?」


 虚を突かれた顔で聞き返す。

 なにか、特別な扉を開けてしまった感覚がした。


 シャツワンピにレギンスを合わせたウイユ。

 噴水近くの休憩所で、座り込んでいる。


「正確にはナティアです」


 隣でファッション用の軍帽が傾く。

 カーキのつなぎを着た冒険者がこちらを向き、藍の瞳が暗髪の少女を映す。

 ベンチに真っ赤なマントが吸い込まれている。



 彼と会ったのは数分前。

 郊外で反抗がてら冒険に出かけたら、一般人が魔物に襲われているところに出くわした。


 助けなきゃ。

 逸るように思いつつも、身構えてしまう。


 代わりに別の影が飛び出した。


 前方にクォーツの幻想がキラキラとしながら舞い、マントがひらめく。

 赤水晶の大剣が陽光を浴び、ギラッと閃く。

 同時に軍帽が王冠の形に変形し、トリコロールに塗りつぶされた。


「おらっ!」


 一刀両断。狼人間のような容姿の筋骨隆々の魔物は、あっけなくちりと化した。


「おお、助かった……」


 一般人は青ざめた顔で後退った後、相手が振り向いたのを確認するなり、猛スピードで駆け出した。


 満足げに大剣を担ぎ、胸を張るフェトゥレ。

 真っ赤なマントをなびかせた彼の後ろに、ウイユはぼんやりと立っていた。


 今は広場までやってきて、鳩に餌をやりながら、二人で話をしている。


「ある偉大な魔術師であり冒険者。彼が遺した秘宝が奥地にあるとのこと。ウイユさん興味ありませんか?」


 偉大な魔術師兼冒険者といえば、王国の歴史においては二人いる。


 真っ先に浮かんだのはエウリック・ボーデンの名。


 どちらだろう。

 急に気分が引き締まる。

 足下では鳩がなにも考えずに、小さな食べカスを拾っていた。


「彼は言っていました。見つけ出した者には全てを与えると。僕はそこに興味があったんです」

「えー、私でも聞いたことがないのに」


 フェトゥレが熱く語る一方で、気難しげな顔をしてしまう。

 ウイユの複雑な表情に気付いたらしい相手。


「あの、その人と知り合いだったり?」


 眉を寄せて尋ねる。

 静かな湖面を思わせる瞳と、視線が合った。

 彼は普通を取り繕った表情になる。


 妙な間が空いた。

 餌を食べ終わった鳩が一斉に飛び立ち、バサッと羽ばたきの音。


 口をつぐんだまま、目をそらす。

 否定も肯定もできず、頬に汗をかいた。


「秘島の魔術師と聞くと思い浮かぶのは、普通一択です。それも何百年も前の。会えるわけありませんよ」


 今のでウイユが思い浮かべたのは、エウリックのほうだと確定した。


「確かにエウリックは宮廷魔術師でしたが、世間ではもっぱら、勇者と扱われてますね」


 蕩々《とうとう》と述べるフェトゥレは、ウイユから魔術師への思い入れを察したらしい。

 つり上がった眼差しが、少女をとらえる。

 心臓がバクバクと音を立て始めた。


「ウイユさん、エウリック・ボーデンの妹ですよね」


 真顔のまま指摘を繰り出す。


 さらに心拍が跳ね上がった。

 顔が熱くなり、じわっと汗が浮かぶ。


 やっぱり透けてたじゃないかと、内心で悲鳴を上げる。


「そうだけど」


 怖ず怖ずと答え、視線をそらす。

 引きつった顔になった。


「ですよね。似た雰囲気があります」


 フェトゥレは爽やかな笑顔を向け、声色を明るくする。


「似てないよ」


 うつむき、もじもじ。

 本当は血の繋がりがないが、口には出さなかった。


「いえいえ。よく聞かされましたよ。立派な娘。幸せになってほしい相手だって」


 直球なことを言われて、恥ずかしくなる。

 顔を真っ赤にさせて、固まった。


「おっと、僕と彼の関係でしたね」


 話を戻す。


「実は昔、助けられたことがあるんです。冒険に出かけたとき、強い魔物に襲われてね。そのときに」


 フェトゥレはウキウキと話し出す。


「ヒーローみたいだったでしょう?」

「はい。もう凄かったですよ。あれが本物なんだって思いました。舞うように戦い、派手な魔術で爆発させる。星の輝きをまとったような出で立ちで」


 大きなつり目を輝かせながら語る。


「星……」


 ウイユはぼんやりと呟く。


「それから僕らは一時的に旅をしました。でも、すぐにあの人は置いていったんです。なんでも、気まずいんだと。彼の思惑は分からないけど、きっと力不足だったんだのでしょう」


 しゅんと肩を落とす。

 真面目に聞くウイユ。


「本当? なにか裏がありそうだけど」

「裏ありありですよ。なにせ、こんな置き土産を残していったんですから」


 フェトゥレは声を張り上げ、トーンをやや高くする。


「秘島に隠した宝がある。いつかそれを渡せる日がくればいいと」


 神妙な面持ち。引き締まった口元。


「僕だってやればできるんだって教えたいんですが。でも、お呼びじゃないんでしょう」


 彼は視線をそらした。



 虚空を見つめるウイユ。

 彼が話した内容を振り返って、ふとハッとなり、視線を上げた。


 秘島。


 アルフもその話題を出していた。


 くわえて地下室の引き出しに収めてあった切符。

 まるでナティア島への行き先を示しているようではないか。


「って、あなたは諦めたの?」


 急に我に返ったように問いかける。

 目を丸くしたウイユの隣には、曇り顔の冒険者。


「僕なんか因縁があるわけでもなし、行っても意味ありませんよ」


 下を向き、ぽりぽりと頬をかく。

 なんとなく、らしくない態度だと感じた。

 フェトゥレなら意地でも挑戦するというところなのに。


「それに彼が待ってるのは僕じゃなくて、あなたなんですから」


 顔を上げ、ウイユを見澄ます。

 透き通った湖に藍を溶かした色合いの虹彩。

 放心している彼女。


「ウイユさんは、秘島に行きたいんですか? 兄が託したものを受け取る覚悟はあると?」


 ウイユは眉を寄せてから、こくん頷き。


「エウリックの遺したものを知りたい。もっと、お兄ちゃんを知りたい」

「そうですか」


 フェトゥレは満たされたように笑った後、なにかを握り込み、差し出す。

 渡されたのは鍵だった。

 空を投映したようなライトブルー。


「頼まれてくれますか?」


 身を乗り出し、目線を合わせる。

 無言になるウイユ。


 ぞくぞくと鳥肌が立つ。

 吹く風に髪が揺らぐ。

 今、話が動き出す気配がした。



 ウイユはこっそりと視線を彼からズラす。

 フェトゥレは自分じゃ無理だと言ったけど、こちらこそ資格があるとは思えない。

 でも、兄がナティア島で待っているとしたら……。

 ドキドキと鼓動が加速する。頬に汗が浮かぶ。


「やってみたい」


 顔を背けたまま、頷く。

 視界の端で青年が晴れやかな表情になった。


「助かります」


 重荷を手放したように、雰囲気が軽くなった。


 ベンチから立つフェトゥレ。

 真っ赤なマントが背中に落ちる。

 役割は済んだと言わんばかりの潔い態度だった。


「そろそろ日が暮れます。早く帰ったほうがいいですよ。最近物騒ですから」

「怪しい人でもいるの? 例の蒼白のローブの人たち?」

「ヴァニタス教団については知りませんよ」


 彼方を向きつつ零す。

 やや食い気味の反応だった。


「ただ、このごろ魔物が多く出没していましてね。くだんの無限湧きもその一巻とのこと」


 奥のほうを見つめたまま、口だけを動かす。


「これにはきっと黒幕がいる。いつかそいつの正体を突き止め、倒すんです。ほかでもなく、この僕が」


 拳を握りしめ主張する。

 熱い思いを表に出した彼を、じっと見つめるウイユ。

 応援したい。でも、無理はしないでほしかった。


「頑張って」


 かろうじて振り絞った呼びかけ。


「あなたもです」


 二人は目を合わせ、笑い合う。


「じゃあ、土産話を期待してますよ」


 約束を交わし、冒険者は手を振った。


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