未知の技術と防衛計画
【2058/8/21】
アンドレイは元ツァイトヴェトリーブから、ふと何気なく外に出ようと時間跳躍機のある部屋を出ると、リナが床で寝ていた。
周りに本が散乱しており、その本は現在のヴァストークで取り扱っている技術書だったり歴史書だった。リナなりになにかできないか模索していたのだろうが、ここで寝られると邪魔だし風邪を引く可能性がある。
「おい、そんなところで寝ると風邪引くぞ」
「ん・・・あ、兄?ケーキどこいった?」
「はぁ?寝ぼけてないで、本を片付けてくれ」
「え?あ、うん」
大体どうして借りている家があるのにこんなところで現地の本を読み漁っているのかよくわからない。技術的なものに関しては大したものはないように見える。ただ一冊を除いて・・・
その本には”魔法”という技術について書かれていた。オカルト本かと思ったがどうも違うように感じられる。この魔法という技術は一体なんなのだろうか?
「リナ、この魔法ってなんだかわかるか?」
「いや、今日詳しい人がいるって聞いたからちょっと話聞きに行くと思ってたんだけど」
「そうか、なにか分かったら教えてくれ」
「わかった」
詳しい人、それはその魔法の技術者なのだろうか?それともただのオカルト狂信者なのだろうか?どちらにしろ話を聞いて減るものといえば時間ぐらいだ、シガールとは連絡がすでに取れているため突如攻めてくるという危機感は今はない。何かあれば連絡が来る手はずになっている。
どちらにしろ、もし攻めてくるなら間違いなくヴァストーク最強の戦闘艦である”母艦”がやってくるだろう。それに備えて母艦を撃退、ないしは轟沈させるべく兵器の製作と配備が必要だ。
「それじゃあ行ってくるよ」
「ああ、気をつけろよ」
地上へ簡単に行けるように簡易的な階段を設置したため、いちいちタイムマシンで地上に戻る必要がなくなっていた。また、現地の人には危ないところがあったからそれの調査をしていると行って警戒させるようにしてある。誤って落ちてきたら洒落にならない。
一方リナは魔法に詳しい人物に会いに教会へ向かっていた。教会の主である神父が魔法に詳しいということだが、会ったことはないため面識がない。とりあえず町長の紹介状を手にしながら教会へ到着した。
「わぁー・・・大きい・・・」
現代で言うところのゴシック調の巨大な教会だ。しかし、入り口らしき門から教会まで距離があるように見える。入り口はここであっているのか不安になった頃に神父らしき人物が現れた。
「これはこれは、お客さんとは珍しいですね。私になにか御用ですか?」
「あ、初めまして!私リナ・ワーグナーといいます。あなたが魔法に詳しいという神父さんですか?」
「これはこれはご丁寧に、私がこの教会の神父ヴィンセント・C・クラークです」
黒いローブに何故か学ラン姿で顔がクリーパーのよくわからない異様な姿だった。クリーパーとは1000年前のヴァストークにもいた俗に言うモンスターである。ヴァストークでは野生動物というくくりであったが、近づくと爆発する性質があり、かなりの危険動物という認識で通っていた。
「・・・それはマスクか何かですか?」
「いえ、私はクリーパーです。ちょっと訳ありでして」
「え、クリーパー?でもこうして私と会話できてるし、爆発もしてない」
「ええ、極端な話クリーパーなんですが、半人半クリーパーって具合です」
「え?」
「まあとりあえず、魔法について訪ねに来たとのことですから、中にはいってください」
「わかりました、でもどうやって教会へ行くんですか?」
「お手を拝借、テレポート!」
神父が手を合わせたあとにそう唱えた瞬間一瞬で教会らしき室内に移動した。リナもわずかながら覚えている、これはナビのスキルそっくりだ。
「びっくりさせてしまったなら申し訳ありません。今のが魔法です」
「今のが・・・?」
「はい、魔法というのは己の生命エネルギーを消費して発動する技術です。生命エネルギーというのは本来持つ生物の根源というべきもので、例えるなら寿命です」
「ということは使うとその分寿命が縮まるということですか?」
「理解が早くてうれしいです。ただし寿命といっても病気や怪我、事故などで死んでしまう場合もあります。それは寿命で死亡したとはカウントされませんのでそれとは別です」
「???」
「種別ごとに生命エネルギーは決まっています。例えば人なら100年で、ネズミなら3年などです」
「人でも100年以上長生きする人いますよね」
「ええ、その人達は例外的に生命エネルギーが多い人です。人の場合最大140年と聞いたことがあります」
リナは頭の中を整理した。魔法は生命エネルギー、つまり衰弱死を迎える年月を生き続ける生物本来が持つエネルギーを使う技術。人の場合は100年で、たまに例外が居てその例外の観測上最大値が140年ということになる。
「話が長くなり申し訳ありません、続きは中でお茶をしながらにしましょう」
「え、いいんですか!!」
「ええ、それにしてもお嬢さんはこの顔を見てよく逃げませんでしたね」
「いざというときは戦いますから」
そういうとRM剣を取り出した。今の所敵意はないように見えるため、取り出しただけで特に剣先を向けたり構えたりはしなかった。
「ハハハハハ、これはこれはずいぶん頼もしいですねぇ。ところであなたが持っている剣ですが、もしやRM製の剣ですか?」
「え?RMを知っているんですか??」
「はい、私こうみえて500年生きているんですが、過去に何度か見たことがありますよ」
「そうですか・・・」
「何やら落ち込んでいるようですが、どうかしましたか?」
「ええ、ここに来る途中で頭を打ってしまって記憶が一部曖昧なんです」
「それはそれは・・・では魔法を用いて治せるか試しますか?」
「そんなことできるんですか?」
「わかりません、試してみる価値はあると思います。準備に少々時間をとることになりますが、それでもよろしいですか?」
「是非お願いします、兄にも迷惑かかってると思うので」
「お兄さん思いの良い妹さんですね、それではしばし準備をします。お茶とお菓子を先にお持ちしますので、それを食べながら待っていてください」
「ありがとうございます!」
リナは、魔法のことを聞きに来ただけだったが記憶が戻せるかもしれないと聞くといても立ってもいられなくなった。500年生きる半人クリーパーを信じていいのか心のどこかでは思っていたが、可能性にかけてそこは無視していた。
そのころアンドレイは、一つ悩みを抱えていた。時間跳躍機が思いの外早く直ったため、レーダー設備などを作っていた。そのレーダーで惑星付近でワープ反応を感知したのだ。山本が乗っていた戦艦”大和”に非常によく似ている艦体だったため、日本軍のものだと予想していた。
「まずいな、山本の行方がまだ掴めてないというのに。まさか山本は自分だけ日本に帰った・・・なんてことはないだろうな」
そもそも時間跳躍機はいつ不時着したのかがはっきりしていないし、開いていたドアも気がかりである。行方不明になってからすでにアンドレイが置きた地点から数えて10日経っているのである。もし遭難していたなら運良く街を発見していない限り餓死は免れない。そう考えながらレーダーを監視していたとき後ろから声がした。
「おーやっと見つけたぞ、まったくおいらを置いて何をしてらぁ?」
「や、山本!!探したぞこの野郎!!」
「ありゃー、すまねぇ。おいら頭打ってたみてぇでよ」
「三人共頭打ってノビてたってことか・・・とにかく無事でよかった」
「今はもう大丈夫でい、そんでおいらは何をすればいいのかな?」
「そうだ、今レーダーを監視してたら惑星のすぐ近くに日本艦っぽい戦艦がいるぞ、ちょっと見てくれないか?」
「あー、コイツぁ武蔵だな、日本軍連合艦隊総旗艦だぜ?なんでこんなところにいらぁ」
「まあいい、日本軍であるとわかったなら早速コンタクトを取ってみよう。味方につければ大きな戦力になる」
「あ!すまねぇがおいらがココにいること黙っててもらえねえか?無断で来ちまってるからバレるとまずいんだ」
「じゃあ聞かれたら帰ったと伝えておくよ」
「すまんな、頼んだ!」
そう言い残すと山本は再びどこかへ行ってしまった。忙しないヤツだ、もっと腰を据えることはできないのだろうか?そう思いながら日本軍へコンタクトを取るべくタイムマシンに搭載されている通信機を使って日本軍へ連絡した。
「こちらは近郊の惑星のヴァストークから通信している。日本軍の戦艦武蔵応答せよ」
「こちらは太陽系第三惑星地球、日本国所属軍艦武蔵、ヴァストーク聞こえるか?」
「応答感謝する。使者として送ったナビを丁重に迎えてくれて感謝する。折り入って話がある、事情がありそちらに出向けないことを詫びる」
「了解した、着陸座標を指定されたし」
「座標を転送した、要請に応じてくれて感謝する」
ナビが接触していなかったらもっと面倒な手順を踏む必要があっただろう。特に苦もなく日本軍とコンタクトを取ることができ、いよいよ直接会談する手はずが整った。
「指定座標に着水完了した、連絡者の名前を問う」
「アンドレイ・ワーグナーだ、今から向かうから迎撃しないでくれよ」
「了解した、こちらは日本国国軍統合幕僚長日野泰蔵だ」
どうやら本当に総旗艦がいたらしい。山本の話だと軍の統合幕僚長というのは軍の全ての指揮を任されているヴァストークでいう国防軍司令長官と同じ立ち位置らしい。あまり目上に敬意を払うことをしてこなかったアンドレイだが、今回ばかりはしっかりと敬意を払い対応しようと思った。
指定した座標までタイムマシンを動かし、戦艦武蔵の甲板に着艦した。甲板には数人の軍人と、眩しい少し違う服をした人物がいた。おそらくあれが幕僚長だろうか?白い軍服にかなり大柄な筋肉ムキムキのハゲだ。
「やあどうも、先日はびっくりな体験をさせていただきました、日野泰蔵です」
「これはご丁寧に、元ヴァストーク国防軍技術研究所レベル5区画主任のアンドレイ・ワーグナーと申します。突然の呼び出しに応じてもらい感謝いたします」
「ナビさんからお話を聞いていますよアンドレイさん。敬語とかそういうの苦手なのでしょう?堅苦しいことは抜きにしていいですよ」
ナビ、抜かりなくアンドレイのことをしっかりと説明していた。ここまで事が進むことを理解していたような対応だ。さすがは幼馴染といったところだろうか?
「では遠慮なく。日野さん、唐突で申し訳ないんだが大問題が発生したので報告に来た」
「なんでしょうか?大問題とは」
アンドレイは総司令部の作戦「レジスタンス」について説明した。日野は真剣に聞き入り、話が終わると切り出した。
「なるほど、あなたの国はあなたの素晴らしい研究を悪用しようとしているわけですね」
「そのとおりだ、俺の研究がきっかけでこんな事になってしまい本当に申し訳ない・・・」
「いえ、時間跳躍という技術はそれだけ危険ですが科学者にとっては夢のようなものです。私も昔挑戦したことがあるのですがうまくいかなかったものでして」
「え?日野さん科学者なのか?」
「はい、科学者というか技術者ですね。強化石材お渡ししたと思うんですがあれは私が開発した建材です。使い勝手いいでしょう?」
これは驚いた。バリバリの軍人だと思っていた人物がまさかの技術者だった。今の所日本軍は技術者しか会っていないがまさか技術者で軍人というスタイルが一般的なのだろうか?
「日本軍というのは技術者であるというのが前提条件とかあるんでしょうか?」
「いいえ?例えばココにいる佐藤少将と青木中佐はバリバリの軍人ですよ」
そう視線を向けた先には二人の人物が居た。一人は佐藤一馬少将、黒服の将校服に身を包み茶髪で前髪をセンター分けしている。もうひとりは青木来花中佐、黒服の左官服で金髪のストレートボブショートで七三分けに青いピン留めで髪を止めている。三人共青い虹彩をしている、山本も青い虹彩だったことから日本人の特徴なのかもしれない。
「佐藤です」
「青木です、よろしくおねがいします」
「ふたりともよろしく頼む、ところで日野さん、聞きたいことがあるんだが」
「なんでしょう」
「山本吾一大佐を知ってるか?」
「山本吾一・・・ナビさんもおっしゃっていましたけど知り合いなのですか?」
「ああ、知り合いだ」
「そうですか、彼には謝罪しないといけないことがありまして、今どちらにいるかご存知ですか?」
「いや、もうココにはいない。本国に戻ったんじゃないか?」
「そうですか、わかりました。山本のことはあとにします」
山本は怒られると言っていたが、日野の対応を見る限りどうも違う気がする。二人に何かがあったのか、日本軍でなにかがあったのか?今は気にしている暇はないので、頭の隅においておくことにした。
「とりあえず、今後についてですが簡単に通信ができるようにこちらをお持ちください。我々はこの星に敵勢力とみられるのを防ぐためにもこの戦艦をおおっぴらにしておくわけにはいきませんので」
「ああ、それもそうだな・・・」
アンドレイは国防軍の戦力、特に戦闘母艦について詳しく説明した。迎え撃つためには何が必要なのか、どういう対応をすればいいのか。対抗手段はなにかなど様々なことを話し合った。
その話し合いの最中、シガールから連絡があった。
「アンドレイか?映像通信に成功したようで安心したよ」
「シガール!?映像を飛ばせるようになったのか?凄いじゃないか」
「ふふふ、僕は1から1万を作る男だからな、もっと褒めろ!」
「あとでいくらでも褒めてやる、それより現在の状況はどうなってる」
「戦闘母艦の改装工事中だ、あと1ヶ月で完成する」
「ということは攻めに来るのか」
「ああ、王族暗殺はなんとか食い止めてやったが戦闘母艦がそっちにいくのは防げなかった。そっちでなんとかしてくれ」
「了解した、今日本軍と話をつけたところだ。なんとか迎え撃つことはできるだろう」
「あともう一つ、お前の親父さんからの伝言を伝える」
「親父の伝言?そういえば調べておくとか言ってたな」
「アンドレイへ、司令長官アルフォード・エルディアは何者かに洗脳された可能性が高い。ちょうどナビが時間跳躍して戻ってきたタイミングから様子が一変したという報告を受けている。日本軍に怪しい動きがないか監視してくれ」
「洗脳されている可能性が高いだと?どういうことだ?」
「僕にはわからない、分かり次第報告はする」
「了解、1ヶ月後だな?それまでに準備をしておく」
アルフォードの身に何があったのかは気がかりだが、ひとまずは攻められた場合を想定して防衛施設や周辺住民の避難。そして母艦が搭載する兵器への対抗策を講じなくてはならない。あと1ヶ月、あまりにも短い準備期間だが日本軍が味方にいる以上なんとかなる可能性が高くなった。
アンドレイと日野は互いの技術を出し合い、なんとか防衛策を講じることに同意した。




