信仰の贄
いつもありがとうございます。それではごゆっくりお楽しみください。
それは、ゴール村の調査が始まっておよそ1ヶ月が経った頃の話だ。
「あ?奉樹の儀式?」
ヴィオラは、聞き慣れない単語を前にして思わず、マーキュリーが口にした言葉を鸚鵡返しにする。
不意に、彼と視線が合った。
その眼は、呆れの滲み出た冷たい瞳をしている。
いや、感情を忘れた氷河のような眼をしているのはいつものことだが、今日ばかりは、その程度が増しているように見られた。
次いで、深い溜息が個室の中に響き渡る。
「……忘れてしまったのですか?ダリウス殿が仰っていた、太陽派特有の儀式の名前ですよ。ゴール村周辺の森を精査しなければならない理由が、それです」
「あぁ……そういえば、そんなこと言ってたな。森なんて最初の頃に行ったきりだったろ?すっかり忘れてた」
「では、ここで覚えていってください。きっと、ゴール村の潔白を証明する為に、重要なファクターとなるはずですから」
「ふぅん……で?その、やけに日焼けした書類が、それに関するものなのか?」
彼女は顎で、マーキュリーの手元にある、埃と煤だらけの古びた書類を指し示す。
机を挟んでいて見えづらいが、どうやら大きな図と共に、様々な注意書きと解釈が綴られているようである。
「はい。ダリウス殿は、奉樹の儀式という名前に触れこそすれ、その中身については説明されなかったでしょう?」
「あー……そう、だな」
「疑問形で尋ねた僕が馬鹿でしたね」
「殺すぞ」
「シルバーさんにレポートを送るのと同時に、奉樹の儀式について詳説した資料があれば、送付して欲しいとお願いしていたのです」
「ほーん?で、今日届いたってわけか」
「そういうことです。ほら、ここを見てください」
彼は、真っ白な肌を微かに紅潮させながら、資料のある一点を指し示す。
身を乗り出して見つめてみれば、無数の枝葉の突き刺さっている人間が、樹木に括り付けられている図が描かれていた。
それは、ナンセンスなまでに色彩豊かであり、細部に至るまで、脳が理解を拒む程に書き込まれている。
周囲を取り囲む人々からは、今にも厳かな讃美歌が聞こえてくるかのようだ。
「ハッ!アイツら、良い趣味してやがるな。これが、奉樹の儀式なのか?」
「そうです。儀式は新月の夜、28歳以上の6人の男女によって執り行われるとここに記載があります。そして、何らかの方法により内1名を生贄に選び、樹に括り付けるのだそうです」
「んで、残りの5人は周囲を取り囲んで歌ったり、踊ったり、交わったりしながら、贄をそこら辺の枝葉で滅多刺しってか」
「彼らは太陽派と呼ばれていますが、その教えの基底には間違いなく、拝樹教の存在があります。新月、つまりは太陽の恩恵が奪われる夜に、贄を世界樹に見立てることで太陽を慰め、次の1月の幸福を祈願することを目的としているのでしょう」
その儀式においては、灯りの一切が奪われているが故に、悲鳴と嬌声、歌声と足音の狭間で、生と死の境界線が限りなく透過する。
穢れ切った人間が神聖な樹へと昇華することで、内に宿す罪を浄化するという意図もあるのかもしれない。
或いは、集団的な殺人によって、宗徒の離反を許さない強固な束縛関係を作り上げるという組織的な事情もあるだろう。
まぁ、いずれにせよ、頭のネジが外れた内容であることに変わりはない。
「分かってねぇな、アイツらは」
「……と、いうと」
「宗教との付き合い方ってのが、なってねぇよ。信仰ってのはな」
自分の人生を良くする為のツールに過ぎない。
宗教を人生のレールにして上手くいくヤツなんか、1人も居ねぇっての。
ヴィオラは腕を組みながら、どこか哀れなものを見るような眼で図面を眺める。
そう、それは、実に哀れで、滑稽で、無意味で。
蒙昧の海の中で、波の向くままに流され、溺れていくようなもののように思えた。
*
「はぁッ、はぁッ……」
エイラは自分の身体を抱きしめながら、呼吸を拒む肺を叩き起こすかの如く、大雑把に息を吸う。
あまりの緊張によって血管は波打ち、急激に上昇していく体温と共に、麻痺し始める精神に蓋をしていた。
何も聞こえない。
怒りのあまり、頭に血が昇った時とは違う感覚。
騒音という騒音が駆け抜けていき、踏切のような金切り声が脳を揺らす。
「……」
そんな姿を見ながら、ヴィオラはふと息を吐いた。
夜の山の空気は冷たい。
その寒さは、篝火の熱が誤魔化せるレベルを優に超えている。
肌にヒビを入れるような厳しい風が、不意に木々の間を吹き抜けていった。
少女は、サリナの助けを得ながら、必死に呼吸を整えている。
この冷たさは、彼女が平静を取り戻す一助になり得るだろうか?
「エイラさん、息を吐いてください。吸ってばかりでは、酸素が全身に回りませんから」
「ふぅ……ふっ、ふ……」
「……変なヤツだな、お前」
ふらっと、少女の眼がヴィオラに向いた。
「旅人なんだろ?だったら、死体だって、多少は見ただろ。最近は、めっきり対外戦争なんて減ったけどな。紛争には事欠かない。世界連合だって、軽いいざこざなら両手指でも余るくらいだ」
「……ヴィオラさん!言い過——」
「だーっ!もう、分かってるさ。ただ、疑問だっただけだ。私は何も、お前が旅をしていることに難癖つけたいわけじゃあない。ただ、お前。本来は、見知らぬ土地に出かけるなんて興味ないし、したくもないタイプだろ?」
「……」
嗚咽が治まり、呼吸のリズムを取り戻し始めたエイラは、サリナに小声でお礼を告げると、徐に両手で顔を覆う。
焔の中で、枝が弾ける。
一際派手に、火花が周囲を照り付けた。
「……うん」
「そうか。なら、仕方無ぇな」
「何が、ですか?」
「それでも、旅に出なきゃいけなかったってんなら、お前の目的は、人生を棒に振ってでも成し遂げなきゃなんねぇものなんだろう。私は、そういう思い切りの良いヤツが好きなんだ」
「ヴィオラさん……」
「今夜聞きたいことは、もう何もない。無理に記憶をほじくり返す必要なんて無ぇよ。ま、明日、明後日にもなれば、またお前の記憶を必要とするかもしれねぇけどな。それは、私がアンタを守ってる間の駄賃だと思ってくれ」
濃い紫色の短髪が、灰混じりの風に煽られて棚引く。
瞳の奥に揺らめく炎は、あまりにも鮮烈で野蛮だが、その真っ直ぐさが故に、エイラに不思議と安心感を齎していた。
すっかり落ち着いた様子の少女を見て、ヴィオラは軽く鼻を鳴らす。
そして、ゆっくりとナイフを鞘から引き抜くと、徐に丸太から腰を上げた。
「……っと、そうだ。悪ぃが、もう1つだけ聞かせてくれ」
「ハイ、頑張ります」
「お前、誰かに追われてるんだよな?」
「……。……はい」
「そいつ、全身真っ黒だったか?」
「……!」
「ハッ。分かりやすいな、お前!それなら、ビンゴだ」
サリナの目元が強張る。
彼女程、戦場における感覚に優れた者は居ない。
ヴィオラは、それを見てから満足げに笑った。
「蛾ってのは、光に集うもんさ。エイラがエイラなら、あっちもあっちだな」
「……そのようですね。ヴィオラさん、どうしますか?」
「どうもこうもねぇだろ。無抵抗なら、死ぬだけだ」
「ま、まさか……」
少女の瞳に、恐怖の色が宿る。
「ウチのせいで……?」
「あ?いんや、違う」
顔を上げたエイラは、ツギハギだらけのコートに包まれた背中を視界に収めた。
彼女は笑っている。
その表情が意味するところの感情を、エイラは知っていた。
歓喜、或いは快感。
「ある意味私は、お前を利用したんだ。考えてもみろ。仮に、獲物が火の周りで呑気に会話してたらどうする?」
「……」
「エイラさん」
サリナの小さいながら逞しい手が、思考を遮る。
「手を。走るのは、得意ですか?」
「……多少なら、頑張れます」
「充分です。では、ヴィオラさん。ゴール村の入り口で」
「おう。殿は任せろ。カウントダウンが終わったら走れよ?3……」
揺れる闇を睨みつけ、仁王立ちで彼女は蠢く影を見据えた。
無論、その姿を正確に捉えられているわけではないが。
夜に行動する刺客とは得てして、身体を黒いベールの中に溶け込ませるものだ。
「2……」
段々と、音だけが近づく。
枝が、葉が、蔦が、粗い目の何かに擦れて響く音だ。
「1……」
瞬きも許されない刹那、闇の奥で輪郭が震えた。
ナイフを掲げ、2人までの射線を断つ。
ニヤリと口角を上げ——久々の戦いに心躍っている感覚——縦に割れた瞳孔が急拡大する。
「0!走れッ!!!」
そして、急激に強力な重力場が発生したかのような錯覚と共に、ナイフを持つ掌全体に痛みが走った。
ローブを被った何者かが、黒塗りのダガーを握り締めて振り下ろす。
顔は見えない。
仮面を被った、小柄な何者か。
不明、不明、不明。
無慈悲なまでの夜闇にも助けられ、突如として現れた追跡者からは、外見、太刀筋、足捌き、その全てから情報という情報が得られない。
ヴィオラは、その眼でもって追跡者の正体を明らかにすることを、早々に諦める。
しかし、彼女にとって、確からしいことが1つだけあった。
「おいおい、殺意がムンムンと漏れてるぜ?ターゲットにバレちまったら、刺客としちゃあ2流も良いところじゃねぇか」
この追跡者は、かの儀式を眼にしてしまった少女を、殺害するという明らかな理念の下、追い回している。
彼女が誰彼構わず恐怖してしまう理由だって、分かろうというもの。
何分、相手の正体が分からないのだから。
「か弱い女の子追い回して楽しいかぁ?この、ドSロリコン野郎がッ!!!」
ヴィオラは大きく振りかぶってナイフを振り下ろすと、その隙間から銃を取り出し、2、3度引き金を引く。
普通、ナイフを弾いたり、躱す動作をすれば、体勢が一時的に不安定となり、銃弾への対応が難しくなるものである。
しかし、黒いローブの何者かは、身体を反らして無駄なく刃の軌道から身体を外すと、視認することすら難しい弾をいとも簡単にナイフで弾いた。
神業と呼んでも良いレベルの動きである。
舌打ちをしながら蹴りを入れ、距離を取れば、彼女は少々の驚きと共に笑みを溢した。
「オイオイ、存外、やるじゃねぇか。こんなくだらねぇことに使ってたら、アンタの腕も泣いちまうぜ?」
「……」
追跡者は答えない。
ただ、黙して次なる一手を模索している。
きっと、驚いたのは彼の方でもあるだろう。
間髪入れずに繰り出される、即死級の攻撃の嵐。
的確に急所を突くナイフ。
心臓、首、肝臓周辺を狙い澄まして放たれた三発の銃弾。
防がねば側頭部にクリーンヒットする回し蹴り。
数秒と経たない内の出来事であった。
互いに、相手が簡単にはいかない存在であることを感じ取る。
「……ワタシハ、オマエニ、テキイ、ガ、アルワケデ、ハナイ」
「ハッ!やっと口を開いたかと思えば、合成音声かよ。あのなぁ……」
瞬間、彼女の影が視界から消えた。
音もなく、予備動作もなく。
「私を舐めるのも大概にしろよ?」
背後から囁く声。
追跡者は振り返る。
そして、眼の端が紫色の髪の毛の端を捉えると同時に、鈍色の刃が差し迫り、再び煌めくような火花が両者の得物の間で弾けた。
「分かるだろ?私はお前が何者か知りてぇだけなんだよ、なぁ!?」
さながら鍛冶場で槌が叩きつけられるように、幾度となく、鈍い金属音が鬱蒼とした密林の中、響き渡った。
厚い樹冠の下、その戦いを覗き見る者はどこにも居ない。
不意に、ヴィオラの掌底が追跡者の鳩尾に食い込んだ。
しかし、それが動きを止める気配は全くない。
まるで、痛みや苦しみという感覚を奪われたモルモットのように、追跡者は眼前の障害と相対する。
全ては、エイラを殺すためなのだろう。
恐ろしい執念だ。
だがそれを、ヴィオラは嘲笑う。
絶技と戦闘センスによって、少しずつ少しずつ、この黒い何者かをすり潰す。
「……」
二度、三度、打ち合う度に、数メートル、数十メートル、エイラとサリナはその場を離れていった。
「エイラさん!」
「ハ、ハイ!」
「まだ走れますか!?」
走れと言われて、手を引かれて山道に飛び出して。
1分、2分、上がって下がってを繰り返す不安定な山道を走り続けた。
挫きかけたこともあった。
怖くて見られないが、脚全体がヒリヒリとする。
きっと、棘のある植物や樹に擦れて、血が流れ出しているに違いない。
足の裏や指の先はジンジンと痛み、立ち止まれば最早一歩たりとも動けなくなりそうだ。
しかし、生きるためには。
死なないように、このきっと自身を救ってくれるであろう少女に縋り付くために。
脚を、動かし続けなくてはならない。
弱音は、聞き飽きる程に吐いたではないか。
これ以上、かけがえのない恩人の手を煩わせるわけには。
「大丈」
「嘘ですね、エイラさん」
ふと、少女は立ち止まってエイラの瞳を見つめた。
追っ手が1人とは限らない。
前の、左の、右の、後ろの、闇の中から、突然鋭く磨かれたナイフが飛来してもおかしくは無いのだ。
動揺や不安と共に黒い濁流が、何か暗い井戸の中から溢れ出す。
しかし、依然としてサリナは無表情を貫いていた。
「……分かりました」
「な、何が……」
「時間がありませんので。失礼致します」
「わ、わわっ!?」
徐に彼女は屈むと、右腕をエイラの膝裏に通し、そのまま持ち上げて左手でエイラの首を支える。
そして、据わりの良い箇所に持ち方を修正すると、ふと視線を合わせて彼女は告げた。
「少しだけ、思い切り走ります。舌を噛まないように静かにしていてくださいね」
「そ、そんな、サリナさ——」
ぐん、と不意に降り注ぐ反動によって頭が抑え付けられる。
成る程確かに、これは暴れ馬に乗っている時と同じような感覚かもしれない。
少しでも気を抜けば、食われるのは自分の方だ。
ふわふわと、不思議な感覚が少女を襲う。
「後少しで、村に到着します」
「む、むら……」
「ゴール村という、身共達の拠点です」
「……」
「きっと、エイラさんにとっては、不安だと思います」
サリナは前を見据えながら続ける。
エイラはそんな彼女の鉄面皮をじっと眺めていた。
涼しい表情で自分よりも背丈のある女性を抱え、悪路を疾走する彼女の、勇姿を。
「儀式の現場の近隣にある村ということは、その中に当事者が紛れているかもしれないのですから。あなたの命は、危険に晒されてしまうかもしれない」
「……」
「しかし、身共があなたを必ず守りますから。安心してください。……いや、きっと。安心してもらえるはずです」
たったったっ。
軽やかな地を蹴る音と、風を切る音だけが耳に響いている。
エイラは、口を挟む気にもなれず、ただ呆けて眺めていた。
サリナの髪の隙間から見える空はまばらで、お世辞にも美しいとは思えない。
だが、それでも、彼女を覗き込むように浮かび上がる月だけは何よりも美しくて。
ただ、身を任せるしかなかった。
「なぁ、教えてくれよ。お前は誰なんだ?殺し合った仲じゃねぇか、ヒントくらい良いだろ」
最早、2人の気配さえ嗅ぎ取れなくなったという頃、不意にヴィオラは口を開いた。
焚き火を挟んで、ナイフを鍔ぜり合わせる。
感情としては、興醒め半分、満足半分、といったところだが、それでも戦いは終わっていない。
「……ソノママ、ツキススメバ、ラグナルゼンタイニ、サイヤクガ、フリソソグゾ」
「災厄?それは脅しか?なら、残念だが」
彼女は地を蹴り、跳躍する。
何度も何度も見せた、ナイフによる一撃か。
再び黒い刃を掲げる追跡者を横目に、ヴィオラは唾を吐いた。
「私はラグナル人じゃねぇんだ。知ったこっちゃねぇよ」
「……!?」
そう、それは、鈍色の刃にあらず。
心象風景より写し取られた、不可視の絶刃。
万物を切り裂く《恋人》の剣は、無慈悲にも纏う黒衣を、ダガーごと両断する。
「傭兵風情に善性を期待してたのか?あぁ!?」
「グゥ……」
蜘蛛の糸のように細く、風のように疾く、死神の鎌のように鋭く。
縦横無尽に木々を伝って跳躍し、あらゆる角度から無数の刃が追跡者の元で着弾する。
焚き火は砕かれ、炭化した枝と燻る火を宿す灰が巻き上がった。
火の粉はまるで空に輝く星の如く煌めき、輝いては消え、輝いては消えていく。
「ハッ!成る程な……」
煙が晴れれば果たして、黒衣の刺客は3枚下ろしにされて地に伏していた。
ヴィオラは真ん中の、胴体と思わしきモノを右足で踏みつけ、屈む。
足の下にある心臓は、まだ鼓動を放っていた。
それどころか、その身体からは。
「お前みたいな人間を、人様は血も涙も無ぇと言うらしいが。本当に、血が流れてねぇヤツってのは初めてだ。どこで改造された?太陽派の拠点か?」
「……」
「答えねぇのか?役立たずの末路ってのはいつも同じだぞ?」
グッと、刺客の身体が地面に沈んだ。
音を立てて、ヴィオラのブーツが胸の中へとめり込んでいく。
「オボエテ、イロ……!」
ふっ、と足元の感覚が消える。
それから、彼女の足は、勢いそのまま空虚となった緑色の地面へと突き刺さった。
「……ベタな捨て台詞だな、クソが」
足元を見れば、そこには追跡者の姿など影も形もない。
切断された残りの2つの肉片もまた、同様にその場から消えていた。
あるものと言えば、かき消された篝火、ひび割れた地面、哀れにも幹から折れて倒れ込んだ巨木の数々だけだ。
ヴィオラは後頭部を掻きながら、空を見上げる。
否、頭上は葉と枝に覆われており、何も見えない。
「チッ。逃げられたか。調子乗ったか……?」
今更、冷えた頭で考えても遅い。
少し、楽しみ過ぎただろうかと彼女は腕を組む。
しかしその思考は、直後に響いた足音によって遮られた。
軋むような金属音、重々しく重厚な一歩。
その気配によって、音の主が誰であるのか、容易に想像が付く。
「はぁ?」
「……お?おぉっ!」
その男は、果たして樹々の隙間からぬっと顔を出した。
視線が合った瞬間、強張った表情は、溶けたアイスクリームのように破顔する。
「どうしてお前が……」
「ヴィオラ殿ではないか!探していたのだぞ、無事で何よりだ!」
ガッハッハ、とダリウスは、豪放磊落に呵呵大笑する。
というか、この男は力加減というモノを知らないのか。
嬉しさのあまり背中を叩く気持ちは理解できるが、何分力が強過ぎる。
「チッ、痛ぇんだよ!」
「おぉ、悪い悪い。……っと、そうだ。おい、ベルナール!」
「はい!」
「全員に撤収を命令してくれ。遭難者は全員確保した、とな」
「承知致しました!」
いそいそと、彼の背後に立っていた兵士が再び森の闇へと消えていく。
右手に掲げる松明は、今にも消え掛かっていた。
「確保……ってお前ら、私のことを探してたのか?」
「おうともよ。あと、サリナ殿のこともな」
「サリナとは合流したのか?」
「マーキュリー殿が発見したと報告を受けている。先にゴール村まで戻ってるはずだな」
「ってことは、アイツのことも……」
「アイツ?他にも人が居るのか?」
「正真正銘の遭難者だ。そいつの保護の為、少し森に残る必要があった。今はサリナに預けてあるんだが……」
ダリウスは巨大な斧を担いだまま、神妙な表情を浮かべる。
しかし、すぐに思い直したのか、明るい様子に戻ると踵を返して密林へと向き直った。
「うむ、今日は夜も遅い。詳しいことは明日にしよう。ただ、事情は理解した。諸君の臨機応変な対応を賞賛する」
「悪ぃな」
「言うな言うな。こういう時はお互い様と行こうではないか。我々は、ヴィオラ殿の手を借りている立場なのだからな」
森に響く笑い声。
それは、陰鬱で、重苦しい夜の空気を跳ね飛ばす、太陽のよう。
ヴィオラは頬を掻きながら、蔦と蔦の間に分け入っていく大男に黙して続いた。
お疲れ様でした。
今話は少し難産でしたね……その分、長くもなってしまいました。
特に、戦闘シーンに関しては、もう少し表現技法やレパートリーを学んでいきたいです。
と、そんな話は置いておきまして。
内容としましては、奉樹の儀式の全容と刺客の撃退、といったところでしょうか。
特に、奉樹の儀式は非常にショッキングなものだったのではないかと思います。
こんなことを当たり前のように行なっているわけですから、太陽派はとんでもない組織なわけです。
とはいえ、当事者にとって、そうして死ぬことは名誉でもあるのでしょう。
何分、信仰の対象である世界樹になることができるのですから。
問題は、その儀式の被害者が太陽派の信仰者に留まっているのかどうか、そこにあるといっても良いでしょう。
これから、ゴール村編は急展開を迎えます。
少しずつ少しずつ、丁寧に描写していければと思います!
最後になりますが、感想やレビューなどいただけると本当に嬉しいです。
執筆の励みになりますし、1つ1つじっくりと読まさせていただきます。
それでは、りんどうでした。




