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アナザーワールド  作者: りんどう
二部 青薔薇の太陽
46/114

洗礼

いつもありがとうございます。それではごゆっくりお楽しみください。

 窓から、月牙泉の広場に響く喧騒を見下ろす。

 モンテドーロを取り巻く不穏な噂が集結を迎えた今、モンテドーロと月牙泉を通ってラグナルと世界連合、ハダーシュ砂漠を行き来する商人たちが、寝る間も惜しんで商業に勤しんでいた。

 一際声の大きい初老の男が、競りのように数字を叫んでいる。

 最初こそ、その泥臭い光景に懐かしさまで覚えていたものだが、見慣れた今ではただ耳に響くだけだ。

 黙れとまでは言わないが。よくもまぁ、ここまで活力が長続きするものである。


「……」


 こめかみから流れ下る汗をインナーの裾で拭う。

 身体が熱い。

 多少、夜風に当たれば冷えるだろうと思っていたが、どうやらそんなこともないようだ。

 トレーニング直後の重たい脚を上げて、階段の段差に脚を掛ける。

 先日、安売りされていたサンダルを買っておいてよかった。

 こんな汗だくの中でいつものブーツを履いていたら、きっと大変なことになっていただろう。

 いちいちこまめに洗うのも、いい加減面倒くさかったところだ。

 アウトレット品の安物がどれだけ長持ちするかなど、ヴィオラのいい加減な扱いを考えれば高が知れていることだが、せいぜい使い潰してやろう。

 しっかりと踏ん張りながら階段を登っていく。

 目指すは、月牙泉自慢の、広大な浴場だ。



 噂によると、月牙泉の宿泊施設の大浴場は常に満員御礼であるらしい。

 ある意味当然のことだろう。

 何せ、数百人規模の人々が一斉に寄ってたかって汗を流すのだから。

 管理するスタッフも、中々な激務に違いない。

 とはいえ。

 それは、客用の風呂の話。

 ヴィオラが今、引き戸を開けたのは、身内用の浴場の扉だ。

 脱衣室の広さに反してそこはどこまでも静かであり、じっとりとした湿度の高さだけがその向こうにある湯船の存在を主張している。

 そして、素早くトレーニング用の服を脱ぎ捨て、仕切りの布を潜ると。


「げっ」


 タオル一枚を片手に、ヴィオラは素っ頓狂な声をあげた。

 先客だ。

 しかも、このパターンは。


「フフ」


 初めてかもしれない。


「げ、とは酷いものですね。これでも、君に対する待遇はこれ以上ないものにしているつもりなのですが」


 アルカヘストは右腕を上げながら、滴る雫を顔で受け止めた。

 暖色の光を浴びて、かれの長髪は微かな照りを帯びている。

 改めて思うことだが、外見では性別がどちらなのか全く分からない。

 まぁ、声と顔だけであれば、単なる美人に見えるかも知れないが。少しでも会話をすれば、その奥底に潜む複雑な深淵を窺い知ることができるだろう。


「それとこれとはちげぇだろ。旦那と風呂入るくらいなら、マーキュリーの方がまだマシだっつーの」

「マーキュリー君とご一緒になったことが?」

「同じ風呂使ってれば、一度や二度くらいはあるさ」

「一段と可愛らしいでしょう。入浴中の彼は」

「……」


 風呂の縁に腰を下ろし、肩にお湯を掛けながらヴィオラは天井を見上げた。


「ノーコメントでいいか?」

「否定はしないのですね」

「黙っとけ」


 いつも通り。

 月牙泉のバスルームは超一流だ。

 サリナが惚れ込むのも分かる。1日の疲れを癒すように、ヴィオラは息を吐いた。


「ふぅ……ハッ!ただ、この風呂に関してはいつも感謝してるぜ。お陰で、心置きなく汗を掛けるからな。そこらのホテルは、どこも風呂が中途半端でいけねぇよ」

「同感です。私も世界中、ある程度の数の温泉に入りましたが……私のデザインしたこの浴場が一番ですね」

「そりゃあ、アンタの趣味嗜好に沿ったものなんだから当然だろ。っつーか、旦那の言う温泉って本当にただの温泉か?風俗じゃねぇよな?モンテドーロでもいくらか巡ってたんだろ?」

「巡ってはいませんよ。行きつけの場所に、いくらかお金を落としただけです」


 爽やかな笑顔で何を言う。

 涼しい顔をしている反面、どこまでも性欲に忠実なのだから。


「行きつけって……まぁ。旦那の相手なら、喜んで担当するヤツも多いか。アンタ、良い身体付きしてるしな。良く褒められるだろ。どんなトレーニングしてるんだ?」


 チラリと、ヴィオラはアルカヘストの身体を覗き見た。

 普段は着痩せしているのだろう。

 裸になって初めて分かる。2.5mの身長に似合う、重厚な肉付きだ。

 可動域を阻害する程の量ではなく、ただ最適な部位とバランスで、最適な量の筋肉がついているかのような。それでいて、顔も声も羽振りも良いのだから、風俗の嬢たちにとっては垂涎ものに違いない。

 快楽と利益が約束されているようなものである。

 ぱっと見、コスパが良いように見えるだろう。


「然程、ヴィオラ君と変わりないかと。それに、身体の起伏を気にしていられる程楽な仕事ではないと思いますよ?私の相手をするというのは」

「そりゃあな。どう考えても、普通の体力じゃあ旦那の相手は務まらねぇだろ。マーキュリーでさえへばるような底なしの獣相手にどうしろってんだよ」

「それは言い過ぎです。マーキュリー君は、概ね役割を全うしてくれていますよ。これでも、かなり我慢しているのですから」

「あぁ?そういうところだろうが」


 我慢の2文字を辞書で調べ直してほしい。

 その上で、付箋でも貼っておけ。

 朝食時、マーキュリーが渋い顔をしながらパンを頬張っている姿を見たのは何も1度だけではない。

 ……まぁ、アルカヘストとマーキュリーの関係性に、とやかく言うつもりは毛頭ないのだが。


「てか、股間のそれはなんなんだ?穴っつーか、空白っつーか……」

「これですか?」


 アルカヘストは、股を覆う黒い靄……モザイク……空虚……表現はなんでもいいが、そういった何かに視線を落とした。


「“門”です」

「は?」

「普段は邪魔ですから。中に仕舞っているんですよ」

「……」


 今まで、どこにでもワープできるなんて便利な能力だ、なんて思っていたが。

 こんな使われ方をしているなんて、知りたくなかった。


「“門”を同時に開くことができるのは7つまでなのですが……常に1つ開いている為に、実質的な上限は6なのです」

「アホか?アホなんだろ?」

「心外ですね。君は元より男性器を持たないからこそ、そのようなことが言えるのですよ?」

「仮に付いてても、フツーそんなことは考えねぇっての」


 どこか自慢げに眼を瞑るアルカヘスト。

 この感情は、呆れ以外の何物でもない。

 ヴィオラは縁に肘を付いて、大きく溜息を吐いた。


「はぁ……。チッ、私は休みに来たんだよ。旦那の話し相手になりに来たわけじゃねぇんだ」

「それは残念です。私と同席した時点で、諦めていただくほかありませんね」

「さっさと上がれっつってんだよ」

「フフッ。長風呂好きな私には、出来ない相談ですよ」


 浴槽の端の給湯口から、音を立てて温泉が流れ入る。

 ヴィオラはしばらくの間、絶望を噛み締めるように天井を見つめていた。

 細かい木目の中に湯気が吸い込まれていくのを眺めていると、どことなく戦場に立ち昇る硝煙を思い出す。

 まぁ。

 鼻腔をつく香りは、焦げたような特有の異臭ではなく、依然として芳しい木材の香りなのだが。


「なぁ」


 唐突に、それでいて静かに、彼女は話題を切り出した。


「クラリアは……どうやら、あちらさんの仲間の1人らしい」

「……」

「イブリースって知ってるか?」

「マーキュリー君の報告書で読みましたよ。《死》のオルガン、影と闇を操る不死の怪物。痛みに生を見出す生粋の狂人、と」

「そうだ。アイツがな。クラリアのお願いを聞くことがあるってな。馬鹿げた話さ、死んだはずの彼女が、今や蘇って怪しげな組織の一員ときた。夢にしても、取り留めがなさすぎると思うだろ?」


 やれやれとヴィオラは肩を竦める。

 その行動は、果たしてなんのためだろうか。

 悩みを、冗談めかして伝えるため?

 風呂場では煙草を吸えないことが悔やまれた。


「ま、要はな。取り敢えず一発ぶん殴って、事情を聞き出さなくちゃいけねぇらしい。その為にはまず、アイツに会わねぇと」

「先に殴るんですね?」

「当然だ。さっさと私に会いに来ねぇのもムカつくが、何より、私を差し置いて悪巧みしてるのもな。何から何まで、今の私にはアイツをぶん殴っても許される理由があるだろ」

「ふむ……」

「なーにが“ふむ”、だよ?先に旦那から殴り倒しても良いんだが」

「おっと。君はそういうタイプの方でしたね。無論、遠慮しておきますよ」


 かれは、優しく微笑みながら黒髪を手櫛で流した。

 気持ちよさそうにリラックスしやがって。


「しかし、言いたいことは分かります。力を欲しているのでしょう?」

「あ?」

「アレキサンドライト殿はトランプスを覚醒させ、本来適うはずのない相手に致命的な一撃を与えた。“紅き血潮の天輪アクワルタ・クワルナフ”を討伐できたのは、彼女の貢献があってのことでしょう」

「……」

「君はきっと、初めて手柄を譲る体験をしたはずです。無論、天輪そのものを撃ち落としたのはヴィオラ君ですが」


 かれの赤色の左瞳が、そうして初めてヴィオラの方に向けられた。

 当の彼女は、天井に視線を遣ったまま動かそうとしない。

 ただ、どこか悔しげな色を帯びながら、ぼうっと遠くを見つめている。


「結局の所。私とサリナだけじゃ、等活すら抑えることができなかった」

「そうでしょうか?彼を撤退に追い込んだのは他でもない皆さんのお力があってのことでしょう」

「だとしても、だ。アンタが事前にペリドットを利用した罠を張っておいたお陰で、充分な時間を稼げたという事実は変わらない。アイツらを、オストラコンを、乗り越える為に私は強くなる必要がある」

「全てはかつての愛人の為、ですか」

「そういうんじゃねぇよ。……いや」


 そういうのか。

 吐き捨てるように投げ出された言葉が、白くぼやけた視界の中を漂う。


「今の私は、どうすれば良い?どうすれば強くなれる?少なくとも、次に等活に出会った時。アンタの力を借りずとも、私はアイツを殺し切れなきゃなんねぇ」

「……強いて言うのであれば。練度を重ねることでしょう」

「練度?」


 聞き返したは良いが。答えは既に分かっていた。


「アテュが齎す祝福を。オルガンとしての能力を。君は、手にして日が浅い。どれだけ戦力差があろうと、相手の隙を効果的に突く力と、自身に対する高い理解度があれば、善戦できるものです。それこそ、マーキュリー君のように」

「結局は、経験か。……旦那。トランプスってのは、一体なんなんだ?」

「……」


 たった1つの答えはない。形而上学的な質問だ。

 アルカヘストは、波打つ水面に手を翳す。


「敢えて言葉にするとすれば。それは、星々が纏う可能性の具現化、といったところでしょうか」

「……チッ」

「分かりにくいですか?」

「そんな言葉で分かるほど、私は賢くねぇんだよ。マーキュリー相手だと勘違いしてねぇか?私は、言葉の意味を考察して汲み取ったりはしねぇからな」

「フフ。仕方がありませんね」


 かれは立ち上がり、浴槽から出る。

 そして、備え付けられた椅子に腰を下ろした。

 蛇口から、ぽたりぽたりと桶に雫が落ちている。


「ヴィオラさんもどうですか?まだ、身体を洗っていないでしょう?」

「……」


 彼女もまた、無言で立ち上がり、アルカヘストの脇に座った。


「どういうつもりだ?」

「意図などありませんよ。ただ、浸かったままで長話をしていては、いつかのぼせてしまうというだけのことです」


 石鹸を手に取り、丁寧に泡立てる。

 瞬く間にきめ細やかなムースを形作ると、かれはそれを気持ちよさそうに肌の上で滑らせた。


「このような言葉を聞いたことは?曰く、“全ての男女は星である”、と」

「ねぇ、と言いたいところだが。それっぽい言葉を聞いたことはあるな。確か、「星たる人」だかなんだか。よく分からねぇ比喩だろ?」


 シャワーを浴びれば、瞬く間に髪の毛が相応の重さを孕んでいく。

 重々しい感情と共に、頭まで沈んでいってしまうようだ。


「アレイスター=クロウリー殿ですね?」

「あぁ。それ以外に居ねぇだろ」

「そうとも限りませんよ。君が今し方口にした比喩は、本来、人口に膾炙しているべき表現なのですから。少なくとも、オストラコンに属する人々やナラゴニアの高位聖職者であれば、このような表現を用いてもおかしくはありません」

「……それはまた、厄介な人選だな」


 ヴィオラは蛇口を閉め、髪をかき上げた。


「もう少しマシな奴らの口から聞いてみたいもんだが」

「全くもって、反論のしようがありませんね。さて、話を戻しましょうか。トランプスとはつまり、人が人としての可能性を最大限に発揮できる瞬間のことを指すのです。世界樹の視線を浴びながら、人間が絶対的な意思を貫徹する。この行いそのものが、トランプスの定義です」

「じゃあ、なんだ?アレキサンドライトは、彼女の思いを貫く為にトランプスを呼び覚ましたってか?」

「その通りです。トランプスとは、技術ではありません。一度発現したところで、当人の意思が弱まれば再びそれは眠りについてしまう。トランプスとは、人間の意思に共鳴して現実が歪曲される、一種のシンクロニシティなのです」


 石鹸の泡が、肩を伝って床に落ちる。

 ヴィオラは、アルカヘストの言葉を聞きながら、ふとシャワーヘッドを持つ手を止めた。


「つまり、一朝一夕で身につくようなもんじゃねぇってことか。アイツのように、人生を賭けた何かと向かい合って、全力で戦い抜けば、いつかは……ってことだな?」

「概ね、その認識で問題ありませんよ。君が、自らの鍛錬に手を抜かないと信じての助言ですが……ヴィオラ君は、近い内に大いなる試練と対面することでしょう。さすれば、きっと。絶技は、あなた様の手の中に」

「……。楽して生きてぇんだがな、本当は」

「戦場で殺し合う人生の、どの辺りが気楽なのでしょう?」

「私にとっては気楽なんだよ。何も考えなくていいからな」


 どこかネジが外れている……のは今更か。

 汗やら泥やらをしっかり落とすと、数段と気持ち良さが勝り、視界がふわりと和らぐ。

 そうだ。今日は、酒でも買いに行って飲むことにしよう。

 きっと、広場にはいくらか商人が残っているはずだ。


「ま、何もすることがないよりはずっと良いさ。単なる休暇は、性に合わねぇ。それこそ、ギャンブルくれぇしかやることもないしな」

「……休んでいると、焦りが出てきますか?」


 視線が合う。

 ヴィオラは答えなかった。

 彼女自身、心を掻き乱すこの形容し難い感情に困惑を覚えていたのだ。

 やはり、クラリア=スカーレットという存在が、本来落ち着きのある彼女の思考にノイズを与えているのだろう。

 少しでもこの特別な焦燥感から逃避するには、がむしゃらに打ち込める何かが必要なのかもしれない。

 例えばそれは、都市を覆う陰謀の打破であり。

 例えばそれは、己が技術の鍛錬であり。


「であれば、私も迷いを捨てるほかありませんね」

「ハッ!旦那も、迷うことなんてあるんだな」

「当然です。私もまた、この大陸を生きる生命の1つ。逡巡するなど当たり前のことでしょう?」

「その言い方が、既に非人間的なんだよ」

「周りには誰も居ないことですし。話してしまいましょうか。実は、オストラコンとの取引を断絶したのです」

「……」


 まぁ、当然だろう。

 あれだけのことをされ、あれだけのことをしているのを目撃したのだ。

 仮に、等活やイブリースの行動が、独断によるものだったとしても、公的な組織である月牙泉が表立って彼らとつるむわけにはいくまい。

 そもそも、オストラコン自体、どのような立ち位置の組織なのか未だにつかめてなど居ないのだが。


「しかし、皆さんがオルガンとして契約し、四獣に纏わる問題を解決する立場にいる以上、私が皆さんを手放すわけにはいきません。加えて、お三方とは、それぞれの約束がありますから。少なくとも、これを果たすまでは満了とはならないでしょう」

「クラリアのことだな」

「はい。そこで……近い内に、皆さんにはラグナル王国に向かっていただこうと考えています」

「ラグナル王国……」


 モンテドーロを挟んで大きく東西に分かれる大陸の、西側の盟主。

 7つの共和国で構成される東の世界連合とは異なり、単一国家として最大の面積と武力を誇る、由緒正しい大国家。

 ここ数年は、良くない噂を頻繁に聞くようになった。

 特に評判が悪いのは、ラグナルの外務局だ。

 横柄かつ、国力を背景とした強圧的な外交で良く知られている。


「あまり、良い印象はねぇな。何回か行ったことはあるが」

「彼の国は何分、傭兵を頻繁に雇いますからね。国内の紛争解決や、国外の戦線維持など、様々な場所で使い潰されたご経験が?」

「私の時は内紛が多かった。世界連合とのいざこざに駆り出されたこともないわけではなかったが」

「であれば、今回もまた君の記憶に沿った任務になることでしょう。ラグナルは今、歴史に残る宗教的な対立に頭を悩ませていますから」

「宗教対立……拝樹教とナラゴニアか?」

「いいえ。今回に関しては、拝樹教内での対立です」

「拝樹教内。そうか、異端か。ラグナルは軍部の伸長が著しいと聞いてたが、まさかそっちでも何かあったのか」

「或いは、軍部の台頭は、異端が頭角を現してきたことによるものなのかもしれませんね。深いことについては、現地に赴いて調査をする必要があるでしょう」


 頭が痛くなるような話だ。

 だから、政治の話は苦手なのである。


「まぁ、やることが決まったなら助かる。このまま籠っていても、成果は得られそうになかったしな」

「そう言っていただけると、嬉しい限りです。私としても、気兼ねなく送り出せますから」

「送り出せるって……今回もアンタはお留守番か?」

「そうなりますね。少なくとも、序盤の地道な情報収集に関しては、皆さんにお願いすることになります」

「ふぅん?ま、雇い主は旦那だしな。私に文句を言う権利はねぇ、な」


 そう言うと、彼女は髪を纏めながら立ち上がった。

 身体からは、ほかほかと湯気が上がっている。

 アルカヘストは、泡を流しながら笑った。


「フフ。詳しいことは、後日お伝えしますから」

「おう。ま、そうでないと仕事にならねぇしな」

「ただ、今回ばかりは、君を驚かせてしまうかもしれませんね」

「驚かせる?」


 前回の雇い主だって、大陸唯一の完全な中立都市、モンテドーロの長だ。

 冷静に考えれば、とんでもないビッグネームである。

 たまたま、彼女がまだボスとしては若い部類に入る、等身大の少女だったというだけのことで。

 ヴィオラは、絞ったタオルを肩に掛けた。

 

「簡単そうに言ってくれるじゃねぇか」

「そうでもありませんよ。ただ、送られてきた書簡の署名欄を見た時、この私でも驚きを隠せなかったものですから」

「驚いた?アンタが?」

「ええ」

「どんなヤツだよ?」


 顔を上げたアルカヘストを見つめながら、彼女は顔を顰めた。

 名前はまだ口にしていないのに、既にどこか不快そうだ。


「それは、公王より軍事の最高指揮権を譲り受けたアズール公国の護国卿。バルタザール=エステベス将軍です」


 バルタザール=エステベス。

 ヴィオラでも耳にしたことのある、傭兵業界では非常に名の知れた重鎮中の重鎮。

 そして。

 

「……はぁ。また、あのオッサンか……」


 驚き以前に、溜息が先行する。

 彼は、以前の彼女の雇い主でもあったのだ。

お疲れ様でした。

今日は、ほのぼの……と言いつつそこまでほのぼのではない回です。

でも、お風呂でリラックス回といえば、中々に緩く聞こえるのではないでしょうか。

また、アルカヘストさんの貴重な裸が描写される回でもあります。

どこまでも最適化された筋肉と言ったら良いんでしょうか。

ヴィオラさんが褒めたくなるのも分かる、抜群の身体つき。

それでいて、特筆すべきは底なしのスタミナ。

相手をするマーキュリー君は本当に大変ですね。

しかし、彼もそこそこ楽しんでいるようですので、ある意味でウィンウィンなのでしょう……。

ちなみに、ご安心ください。しっかり、腹筋割れてますよ。


最後になりますが、感想やレビューなどいただけると本当に嬉しいです。

執筆の励みになりますし、1つ1つじっくりと読まさせていただきます。

それでは、りんどうでした。

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