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わたしの方が好きでした  作者: 帆々
相違

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「そうね」と応じかけて彼女はちょっとためらった。目の前の愛らしい少女はエルの実の娘ではない。亡兄の子供でそれを実子として育ててきた。傍目にはもちろんだが、彼自身も実子と錯覚する時間は多いのかもしれない。


(でも違う)


 仮に、この先エルが結婚しその妻がこの家に入る。父娘の間に妻が加われば、二人の家庭はどう変わるのか。更にブーケの言うように「下に弟でも妹でも増え」れば、全く別物のようになるだろう。


(その中でブーケは今のまま幸福でいられる……?)


 他人のリゼですら考える不安要素をエルが意識しないはずがない。地位も資産もある彼が独身でい続けるのは、それが理由なのかも……?


 そこまでを考えながら、やはりいい相槌も浮かばない。


「そうね」


 と返してしまう。


「お父様が選んだ人なら、わたしきっと歓迎できるわ。急にわたしみたいな大きな継娘ができるのは、相手にお気の毒かもね」


「気の毒なんて……!」


 思いがけず大きな声が出てブーケだけでなくリゼ自身も驚いた。慌てて詫びた。少女はきょとんとした顔をしたがすぐに微笑んだ。リゼの手を握る。


「リゼはわたしのことを考えてくれているのね。嬉しいわ。でも、これは母を亡くした娘の宿命よ。ずっと二人が正解ではないと思うの。わたしだって数年後社交をして嫁ぐ身だわ。その時お父様が一人のままだと申し訳なくなるかもしれない」


「あなたが家を継ぐ選択肢もあるわ。わたしもそうだったもの。……エルが結婚しないのはご自身の判断よ。女が煩わしいご性分なのかもしれないし」


 そう答えた時、一月近く喧嘩別れしたままの気まずさが甦った。子爵邸の前でのあの件以降、彼と会うことはあったが、仕事上で二人きりではなく会話もほぼなかった。


 彼には助けられたことも多くその感謝は忘れられない。リゼにできるのはブーケに絡んだ手助けだけで、それは絶やしたくない。何よりこれ以上ぎごちない関係でいたくなかった。


 リゼに問題があることなら反省もするし謝って仲直りもできる。しかし、エルが彼女に示したのはテリアへの不信だ。それでもってつき合うなと突きつけてきた。それはリゼも納得がいかない。


 端正でちょっととっつきにくそうな印象はある。今もある。それでも決して理不尽な人ではなかったし、娘や叔母に対しても愛情深くリゼにも親切を尽くしてくれる。そんな彼の無茶な要求に今は不思議さも湧いてきている。単純に彼らしくない。


「……今回の狩りが気晴らしになっていればいいのだけれど。ともかく、お父様が帰ったらまた晩餐にご招待するわ。ぜひ来て。リゼが来るのは大歓迎よ」


「ありがとう、喜んで」

 

 お茶の後で公園まで散歩した。園内に足を踏み入れた時、ブーケが歩を止めた。あちらを指しリゼに示す。


「ミス・クローバーよ」


 リゼが顔を向けた。少し離れた遊歩道に見覚えのある女性が別な女性と二人で連れ立っている。お茶の際もミス・クローバーは不在で、リゼの来る少し前に出かけたとのことだった。休日の他ブーケが『ハーパー・スクール』に通い空いた時間も余暇になっているらしい。


 連れはぱっと目を引く華やかな人だ。遠目からも美人なのがわかる。控えめな印象のミス・クローバーと並ぶと際立って感じられた。


「同じ郷里の友だちがいると言っていたわ。きっとあの方ね」


 距離が縮まりミス・クローバーたちもこちらに気づいた。驚いた顔をしている。


「天気がいいからお散歩に来たの。ミス・クローバー、そちらの方はお友だち?」


「ええ……、そうですの」


 そこで言葉を切ってしまった後を引き取って、連れの女性がリゼたちに微笑みかけた。ふっくらした唇が表情に柔らかい印象を与えた。その笑顔に押されるようにミス・クローバは紹介を続けた。


「こちらは……。同郷のお友だちで、こちらで再会してよく会うように」


「アグネス・ゼノンですわ。まあ、あなたがブーケさんね。お噂はポリーから聞いています。本当にあなたの言葉その通りね」


 アグネスはポリーと呼ばれたミス・クローバーを見やり、また微笑んだ。リゼはブーケが紹介し、知り合って何となくそのまま四人連れ立って遊歩道を歩いた。


 アグネスは朗らかな人でブーケの冗談にころころと笑う。ミス・クローバーとは違い家庭教師はしておらず、親戚の家に滞在しているという。


「こちらはお友だちが少なくて、ポリーと会えて良かったわ」


 二人は休日や余暇に散策したり観劇をしたりなど王都を楽しんでいると言った。


「ミス・クローバーのお友だちなら歓迎よ。家にもいらっしゃって」


 アグネスはブーケの誘いに微笑んで応じた。そうしてリゼに向き、


「ミス・カンパネラはポリーと同じようなお役目の方ですか?」


 と聞く。確かにリゼとブーケとの二人連れは母娘にはリゼが若過ぎ、姉妹にはリゼが年嵩過ぎる。ポリーが彼女を少女の世話係のように見たとしても不思議ではない。


「いいえ。わたしはブーケのお父様の方の知り合いだったの。その後紹介されてお友だちになりました」


 その答えに一瞬アグネスの目が意外さに大きくなった気がした。


「でも今はわたしとの方が仲がいいの」


 ブーケがリゼの腕を取って抱いた。おませで賢い大人びたブーケの甘えた仕草だった。珍しいそれが少しくすぐったい。妹のように見ることも姉として振る舞うことも難しいが、


(姉のような友だち)


 そうありたい。そこから自然に思いが流れた。


(やっぱり……)


 新しく知り合ったアグネスとも和やかに会話しながら、


(やっぱり、エルとは仲直りしなくちゃ)


 強くそう感じた。


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