2013/ 4/ 10 (4)
窓の外で、満天の星空が僕を覗いていた。
憎らしいほどに勇ましく輝く星々から、逃げるように目を逸らす。
行かなきゃならない。
逃げちゃいけない。
わかってる。
そんなことはわかっているのに。
怖くて、
逃げ出したくてたまらない。
恐ろしい。
一歩が踏み出せないのはきっと
彼女達を信じきれていないからだろう
下腹が、ひやりと冷える。
窓から差し込む風が、汗ばんだ肌に触れ、いつも以上に寒く感じた。
鼓動が脳裏にまで反響する。
もう何十分も身動き一つ取れていなかった。
部屋には音一つない。
それなのに、頭の中だけが喧噪に満ちている。
理屈を持たない言葉ばかりが、頭の中に浮かんでは、すぐに溶けていく。
本当は、何一つ考えたくなどないのに。
苦しい、
辛い、
痛い。
リアに託けて、殉死していれば。
ただ、幸せになりたかっただけなのに。
知りたかっただけなのに。
目指したかっただけなのに。
まだ、答えはでない。
ただ、それらしいことを考えていないと心がもたない。
わからない。
もしかしたら、確かな事実が欲しかっただけなのかもしれない。
世間一般において、自分の生活こそが至高だと示したかったのかもしれない。
もしくは、単純に暇だったのかもしれない。
青春ごっこが、僕もやりたくなったのかもしれない。
あるいは、逃げていたのかもしれない。
ずっと苦痛だった人間関係を断ち切ることで、解放されたかったのかもしれない
ないしは、嫌いだったのかもしれない。
自分が見下している人達が、この僕を困らせているという、
その現状自体を許せなかったのかもしれない。
それとも、リアになりたかったのかもしれない。
明確な理由を作って、この命を捧げたかったのかもしれない。
鼓動の音が頭を歪ませる。
めまいがする。吐き気がする。
これから、人と対等に触れ合い、
自分の本性を曝け出さなければならないと思うと、
気持ち悪い。
何もかもが見えるような
何も見えないような
憂鬱だ。
憂鬱。
憂鬱なんだ。
この日記ももうすぐ書き終わってしまう。
そうしたら私は、彼らの元へ行かねばならない。
果たして、そんなこと自分にできるだろうか
帰りたい。
この部屋も、僕の居場所じゃない
誰かの元へ、
人肌が恋しい。
無理だ。
僕には無理だ。
わからない。
きっとどうしようも無いことなんだよ。
3/31
結局、部屋を出ることができなかった。
ただの一歩さえ動くことができなかった。
一睡もできないまま、
瞬きもしないまま、
僕は時間が止まったように、静止していた。
携帯なんて見れるわけがなかった。
その場に立ち尽くし、終わってしまったのだと悟った。
辛くて辛くて。
責任が暗くのしかかる。
今私が動けているのは、一重に君に私の全てを託すという利己的な感情でしかない。
心が明確に消費されているのを感じる。
僕はきっともうダメなのだろう。
頼むからダメと言わせてくれ。
そろそろいいだろう。
もう、生きたく無いんだ僕は。
そうだ、最後に理華子君。
君に会いに行こう、
なぜかはわからない。
けれど、何をしても動かなかった両足が、ふと息を吹き返した。
思えば、不思議なことだ。
どんなに気が進まないときでも、君のもとへだけは、すっと歩いていけた。
3/31 (昼)
ありがとう。
歪んだままの僕でも、君にだけは、変わらず信頼を向けられる。
久しぶりに人と喋った気がした。
最後に君と出会えて良かった。
正直を言うとね、実は僕は君を見下していたんだよ。
物静かで、浮いていて、
人に、ろくに相手にされない君のことを。
深そうで、薄っぺらい。
薄っぺらそうで、深い。
そんな君を嘲笑っていたんだよ。
だけども君を知っていくにつれて、
君との人間的な差にってやつに気づいてね
最悪な気分だったよ。見下している人に見下される気分は。
まぁ仕方がないのかもしれないが、
結局みんなそうだ。
僕より優れていない人などいない。
みんながみんな憎いほど輝いている。
見難いほどに眩しい。
醜い僕は。
ようやく消える理由が見つかった気がする。
全く羨ましい限りだ。
崇敬するよ。
さようなら。
ps
あとこれは余談だが、ルシアくんが言っていたよ。
自殺の管理に意味などないって。
自殺をする人は、全員自己中なんだから、他人への迷惑なんてどうだっていいんだと。
実の姉が自殺した直後に、
よくもそんなことが迷いなく言えるものだと思ったが、
僕も今ならそう思うよ。
自殺をする人間は自己中だ。
だがしかし、
僕は彼が大っ嫌いだ。
だからこの遺書を君に託すんだよ。
君が、僕の人生を望んでいたから、
だから僕はその希望に答えようとこれを残す。
少なくとも、この部分においては、僕は自己中じゃないと胸を張れるように。
まぁ結局は自己満にすぎないのかもしれないけどね。
その辺は君が考えといてくれ。
そういうの得意だろ。
これが、私に託してくれた彼の全て。
周りと違う在り方に怯え、
他者に自分を投影しては、失敗し
それでも、それでもと
足掻き続けた彼の人生。
自分を信じられないから、
自分なりの、関係を信じられない。
幸せなんてTPO次第で、いくらでも変化しうるのに、
それでも、世間的な幸せを目指してしまう。
何とも哀れな、
そして何とも美しい人生だ。
君にさえ、答えがでていない問いに、
私がとやかくいうのは不躾かもしれないが、
それでも私は賞賛したい。
人はどうやったって他人にはなれない。
人は皆、自己を中心に、
家族、友人、知人、などの様々な要素を形成するが、
それ以外を中心に生きる人生など、
単なる精神疾患としか言えないだろう。
そういった意味ではこの遺書も、利己的なものだといえよう。
しかし、君は利己心の他に、世間的な幸せを求めた。
自分的な人間なのに、他者に自身の幸せを委ねた
結果的に、その矛盾が君の死に繋がったわけだが、
それでもやはり、その人間らしさというのは
頗る評価しなければならない。
少なくとも、私のように何もやらず、
他者を娯楽として観察しているような人間よりかは、
幾分ましな人生といえよう。
存分に見下したまえ
私のことなんて。
君にはその権利がある。
羨ましい限りだ。
この日記を見ているみんながどうかは、わからない。
彼に共感するもの。
彼を否定するもの。
千差万別の受け取り方があるだろう。
しかし少なくとも、
少なくとも私にとって、
彼のその生き様は幸せだったといえよう。
Name: 田中理華子




