国家VSダンジョンマスター連合 ⑤
「愛さん……どうして」
目の前で信じられないようなものを見るように、ダンジョンマスターの一人が私を見ている。
ああ、その表情を私は見たかったの。その信じられないものを見る目。助けてくれると思っていた人が、敵だと知った時の絶望。歪んでいるその目が、その表情が、私の心を高揚させる。
オッドーがね、張り切ったの。子供が生まれたからって張り切って、それでいて国民たちも張り切って……なんとか満身創痍で勝利したんだよ。
ダンジョンマスター側が油断させて、村などに襲い掛かっていたから結構人は死んでいるけどね?
結構な人数が死んだんだってオッドーたちが、憤ってたよ。結構親を亡くしたり、子供を亡くしたりした人がいたみたいだよ。孤児も多くなっているんだって。戦争した後だと国が廃れて、貧しい人も出てくるからねー。それを見て心を痛めている表情を浮かべた四!!
でもまぁ、人の底力を甘く見てはいけないんだよ!! ってことだね。ダンジョンマスター側は、なんだかんだ折角異世界にやってきた自分たちがやられるわけがないと思っていたのだろうね。
そんなダンジョンマスターたちの経験値をかすめ取った。
まぁ、全員ではないけれど。ダンジョンマスター連合の何人かは絶望させてころしといたよ。
そういえば迅少年の所のモンスターたちも漁夫の利を狙いに来ていたね。
絶望の顔はとても良いよね。ご飯が進む感があるよー。
で、一旦、ダンジョンマスター連合は解散になったっぽいね。オッドーたちはその残党たちをどうにかしようとはしているみたいだよ。
さてさて、後はのんびり構えておこうかな?
それにしてもダンジョンマスターたちと国の騎士達の戦闘は本当に楽しかった。見ていて心が躍るというのはああいうことを言うんだよ。
本当に楽しくて楽しくて――、ドーちゃんに城のことを任せてうろうろしていたけれど爆笑しそうだったもん。
「アイ……安心していいんだよ。俺が絶対に守るから」
「うん。オッドー」
それにしてもなんだろう。飽きてきちゃったかな!! 『魔人』的感覚だとそんなに時間は経ってないけど、数年はオッドーに時間を使っているからなぁ。
どのタイミングでダンジョンマスターに勝利した国を混乱に陥らせるか。本当に傾国するのもいいよね。
「ドーちゃんはどう思う?」
「マスターの好きなようにすればいいと思います」
「うんうん。そうだよね。私がやりたいようにやるのが一番だよね。ふふ、そのその傾国しちゃおうかな?」
もっと幸せの絶頂に居る時にやるのもいいけれど、こういう国をこれから立て直そうとしているタイミングでぶっ壊すのもいいからね?
私はそう考えて、行動を起こす準備を始めることにした。
目指せ、傾国!! 今だってこの国のためになるはずの正妃ちゃんを処刑させたり、ダンジョンマスターをけしかけて――国を疲弊させてるんだ。
今ね、ダンジョンマスターたちに勝利することが出来て、この国は希望に満ちている。
だからこそ、その希望を完全に打ち砕く。――完全に国をもっと滅亡させるのもいいかもね? それともゴブリンの子供を残していって、それを王にするのも楽しそうだけど。一旦、はじめての傾国活動だし、徹底的に国ごとぶっ潰そうかな? って思ったの。
やっぱりさー、楽しいのが一番なんだよ。
『魔人』なんて、ダンジョンマスターなんて、欲望に忠実である方が断然それらしい。
それにきっと神様も私がのんびりと過ごしているよりも、大人しくしているようなのを見るよりも、私が楽しく大暴れしている方がきっと楽しんでくれるもの。
最近、この国での暗躍活動で忙しくて神様と会ってないからなー。神様もきっと寂しがってるだろうし。
ね、神様。
私が自由気ままに、人を絶望にさせるのを見たいでしょ?
そんな風に考えていたら「そうだな」という神様の声が聞こえてきた気がした。
ダンジョンマスターたちの残党を、国が殺した。
後輩ダンジョンマスターの多くは国につぶされた。
うん、皆が安堵して、皆がこれで大丈夫だと思っている。
そんなタイミングだからこそ、――やり甲斐がある。
――さぁ、始めようか。
「我が国は窮地を抜け出すことが出来ました。此処から国を立て直すことが大事ですね」
「陛下!! ありがとうございます。これで息子も報われます」
「大きな戦いが終わったと安心しかありません」
「此処から我が国は……発展していくでしょう」
皆が、楽しそうに笑っている。
皆が、希望を抱いていて笑っている。
これから、幸せになれると。
ダンジョンマスターとの戦闘に勝利して、此処から立て直せると。
ボロボロだけれど、それでももう大きな戦闘はない。
そして王子も生まれてこの国の未来は明るい。
――そんな風な彼らの希望を叩き潰す。他でもない私の手で、彼らの希望を、絶望にかえる。
さぁ、楽しい楽しい時間の始まりだ。
「――あはっ、私の手のひらで、せいぜい踊ってね?」
私は思わずそんな言葉を発して、笑うのだった。




