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オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
一日目
3/54

3 空想少女

1


 空の彼方には別の世界が広がっている。そんな他愛もない空想を、いつも彼女は夢見ていた。彼女とその理想のみが幅を利かす唯一無二のその脳内では、彼女は確かに幸福だった。


「ここ、どこ……」


 彼女の「飛ばし」位置は至って異常な住宅地。涙するのも無理は無い。


「やだ、お家は……? お兄ちゃんは……?」


 烏丸千尋(からすま・ちひろ)は不幸な子だった。存在そのものを知っている人間は、実の兄以外に居るのだろうか。その唯一の肉親が千尋の味方だったことは、現実世界の彼女にとってのただ一つの救いだった。


 もしも、世の中の人間の不幸指数なるものを数値化したとしたら、きっと千尋の数値は平均値を大きく上回るだろう。幼くして両親を亡くし、長らく学校にも行っていない。

 太陽が昇れば起きて、沈めば寝る。起きている時間はひたすら机に向かって紙と鉛筆を相手に、自分の世界を作り上げていた。たった一人の兄は、そんな千尋に何も言わずに千尋のために働いてくれていた。


「そこのお前! 悪いが、いくつか物を尋ねたいッ!」


 突如聞こえたその声に顔を上げると、恐らく同年代であろう少年がいつの間にか千尋の目の前に立ち塞がっていた。

 身体はそこまで大きくなかったが、逆立てた髪が彼の背丈を大きく見せる。


「一体ここは、どこなのだッ!?」


 屈みこんでいた千尋の顔を覗き見るように、その少年は問いを投げてくる。

 無論、千尋とてここがどこか等知る由もない。


「えっと……私も……」

「ふむ」

「わかんない……です……」

「ほう、そうか! 成程成程。であればお前も、俺と同じであるのだなッ!」


 少年はそう言いつつ、千尋の背中を指差してきた。そこには、支給品である黒一色のリュックサックが背負われている。


「いいだろう、では今からお前は俺の従者となれッ!」


 目を爛々と輝かし千尋の両肩に手を置く少年。

 千尋の目には彼がこの状況を楽しんでいるようにしか見えなかった。



2


「それにしても奇妙な場所だな……」


 静かな住宅街を歩きながら、道を歩く少年が呟く。名は武仲壮士(たけなか・そうし)とのこと。聞いてもないのに名乗りあげ、千尋が困惑したのは言うまでもない。


 壮士は、住宅街ともなれば標識、表札の一つや二つ有ると踏んだらしい。電柱の一本でもあれば、そこから地名を読み取れると思ったのだが、そんなものはない。立ち並ぶ家々は一見普通だが、それでもどこか違和感を感じずには居られなかった。


「む? 下がれ」

「ひゃっ」


 次の曲がり角まで目算で三メートルと言ったところで、突如壮士は足を止めた。千尋を大きく後ろに下がらせて、自らも少し距離を取る。


「そこに居るのは分かっているぞッ! 姿を見せてみろッ!」

「ほう」


 角から姿を現したのは、身長二メートルにも届こうかという大男。手には鉄パイプ。何かの作業途中、といったわけでもなさそうだ。明らかに敵意を纏っている。


「何故分かった?」

「気配というものは簡単には消せんぞ? して、何か用か」

「いや、何。少し死んでもらおうかと思ってな」


 言うが早いか、大男は一気に距離を詰め鉄パイプを振りかぶる。だがその時点で、既に壮士はその場には居なかった。


「おや?」

「ぬるいッ! 遅いッ! いいだろう、言葉ではなく武で語り合おうと言う訳かッ! それも一興、何故ならこの俺の能力は、非常に俺向きであるからだッ!」


 信じられない速度で回避行動をとっていた壮士が手を地面に向けて構えると、そこから一振りの刀が浮き出る。大男の身の丈の半分はあろうかという立派な得物は、何故か壮士にとても良く似合う。


「何時如何なる時であろうとも、愛刀を瞬時に呼び出せる能力……だったか? ふは、そんなものはどうでもいい! 来いよ、武の頂点を極めるのであればッ! まず俺が貴様を屠ってやるッ!」



3


「そうか、暑苦しいやつだな、お前は。やれやれ……面倒くさい事になったな」


 やる気満々、といった壮士を見て大男は鉄パイプを手放した。そして腰を落とし、壮士に向かって右の掌を掲げる。その掌の中心には、漆黒の穴が空いていた。場違いではあるが、野球の捕手の様な構えに見える。壮士の後ろで震えていた千尋は、思わず近くの民家の門の中へと身を隠す。


「む、何の真似だ? 貴様」

「さあな。だがまあこれで勝負アリだぜ」

「何を言っているッ!? まだ何も――」


 一閃。いや、この場合は一線と言うべきか。背後から飛来した何かが壮士の身体を貫いた。その何かは、目の前の男の掌に吸い込まれる様に消える。それと同時に男の掌にあったはずの漆黒の穴も消えていた。


「なッ――に……!?」

「はーっ。回数制限があるっつっただろうが、無闇に使わせんじゃないわよ」


 壮士の背後から歩いてきたのは女だった。位置関係を考えるに、壮士と千尋は挟まれていたようだ。

 金色長髪の髪を翻したその女は、指を銃の形に構えると壮士に向かってそれを撃つような仕草をする。


「ばーん、ってね」

「背後からとは……卑怯なッ!」

「くくっ、馬鹿かお前は。これはそんな崇高なもんじゃ無いだろうが」


 特殊能力。現状を説明できるのはそれしかない。男の掌に、銃弾を誘導する能力だろうか。壮士の腹部に空いた穴はビー玉程度の大きさであったものの、満足に動ける状態ではないのは誰の目にも明らかだった。


「そいつは放っといても死ぬわよね? もう一人女のガキが居なかった?」

「ああ、恐らくまだその辺りに――お、いたいた」


 身の毛がよだつ。いくら殺せと言われたからといって。いくら殺らなきゃ殺られるからといって。こんな簡単に、人が死ぬのか。千尋はまた目に涙を浮かべ、その場にへたり込んだ。


 そもそも一般人たる少女は、満足に現状を理解しておらず、それ故状況に適応することなど出来るはずもなかった。流され続けた結果として、頭の混乱を収められない。



4


「悪いな、お嬢ちゃん。これが何だか分からんが、俺らは俺らで生活があるんだわ」

「そーそ、こんなことしてる場合じゃないっての」


 鉄パイプを拾い上げて、男がこちらに歩いてくる。ああ、私の人生はかくも不幸だ。ずっと家に引きこもって、世界を創っていたかった。頭の中でなら何をしても自由だ。涙が止まらない。恐怖だろうか、それとも何年も千尋のために身を粉にして働いてくれた兄への申し訳無さだろうか。


 泣き崩れて死を待つだけの少女の耳に、凛とした声が響く。


「待てッ!」

「あ?」


 男の足が一瞬止まるも、すぐにこちらへ歩き出す。

 女の方は、下品な笑みを浮かべて傍観しているだけだ。


「待てと言ったぞッ! 貴様ッ!」


 千尋が顔を上げると、刀を支えに起き上がる壮士の姿が見えた。


「チッ、死に損ないが……」

「もうアタシは弾使いたくないわよ」

「いらん。まともに相手する必要もない」

「そう、だよね……」


 恐らく三人の誰にも、千尋の小さな呟きは聞こえていない。


 大男は、壮士と距離を取ると鉄パイプを構える。その間合いこそが、手出しの出来ない絶対の距離。壮士よりも千尋の方が距離が近い。つまりそれは、実質上の人質だった。


「くッ……卑怯な……ッ!」

「それは違うよ、壮士くん」


 声が低くなっていく。それと同時に意識も遠くなっていく。千尋はなんとも言えない不快感を感じながら、初めての感覚に身を預けた。


「ジ・エンドだ、お嬢ちゃん」


 大男が鉄パイプを振りかぶる。襲撃者たる彼らは、意外にも前のめりではなかった。実は大男の能力は、剣を主体として戦う壮士の能力とは抜群に相性がいいものであった。だから壮士が自分の能力を口にした時点で、既に勝ちを確信している。この場における戦力差は絶大だった。


 不意打ちによって負傷させたこと。非戦闘員を人質にし得る状況であること。それに加えて能力による相性、心の余裕。全ての要因が、その勝敗を決定付けている。鉄パイプによる肉弾戦で勝てればそれで良し、反撃を喰らいそうならば飛び道具で仕留める。襲撃者たちは、それら全てを計算していた。勝ち目しか無かった。……たった一つ、「烏丸千尋の特殊能力」という不確定要素さえ無ければ。


 確かに、この場における戦力差は絶大であった。



5


「そうだねぇ、殺しちゃおっか」


 突如、大男――馬原大輔(まはら・だいすけ)――の耳に小さな声が響く。悍ましく、それでいて冷淡な声。新手か、と周囲を見渡すも、新しい人影は見当たらなかった。


「絞殺刺殺圧殺殴殺。何がいっかなあ」


 声の出処を理解した時には、何もかも遅かった。


「は……え?」


 大輔の身体は、真っ二つ。

 気付けば、パートナーの女もいつの間にか居なくなっている。


「高いところから落とすのってぇ、なにさつ?」


 心の芯から冷えきるほどに悍ましく、体の芯から震撼するほどに恐怖を煽るその声。その声が発し終わる頃に、落ちてきた。何がかと言われれば、人……であったもの。辛うじて確認できるのは髪の色のみで、それは真っ赤に染まりつつも太陽光に煌めいて金色を呈していた。


「な……ッ!?」


 壮士は、状況を理解できない。先程腹部を貫かれた時よりも頭が混乱していた。何が起きたのか。何が起こったのか。何が、おこったのか。


 その生命体はもう、人ではなかった。


「なん……何なんだッ! お前はッ!」

「あれぇ、壮士くん。わたしだよ」


 怒りではなかった。その少女は、確かに以前の性格を内包している。

 だが、あまりにも悍ましく、正視出来ないほどに歪んだ笑顔。

 そう、烏丸千尋の変わり果てた姿がそこにあった。



6


 十人十色のころしかた。受動的バージョン。


「やっぱりあの能力は、チートだったかな。あははは」


 会場を創るときに、神永祐奈は懸念した。まあそれでも、あくまで実験なのだから――。


「まあ、あの子だけがチートって訳じゃないからね。ふふふ」


 ゲームマスターは、暗い部屋で笑っていた。





 

No.31 馬原大輔(まはら・だいすけ) 21歳 退場

能力名:アイアンマン

能力 :拳を握りしめている間、身体を鉄のように硬くする能力。

タイプ:アクティブ

系列 :身体変化系


No.32 水原玲奈(みずはら・れいな) 24歳 退場

能力名:正撃必中

能力 :事前にマーキングした場所に、右手の人差指から発射した弾丸を最短距離で着弾させる能力。使用可能回数10。

タイプ:アクティブ

系列 :銃撃系


No.7  烏丸千尋(からすま・ちひろ) 14歳

能力名:十人十色のころしかた

能力 :???

タイプ:パッシブ

系列 :規格外


No.16 武仲壮士(たけなか・そうし) 16歳 

能力名:剣聖の誓い

能力 :何時如何なる時であろうとも、愛刀を瞬時に呼び出せる能力。更に「???」

タイプ:アクティブ

系列 :物質操作系


残り39名

続きは恐らく9話で執筆予定です。

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