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オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
一日目
2/54

2 試合開始

1


「ふぅ……」


 眩しい。真っ先に感知した感情はそれだった。手に触れている土の感触から察するに、どうやらここは屋外らしい。それも見渡すかぎりの木、木、木。生い茂る葉の隙間から辛うじて漏れ出る日光が視界を確保させてくれる。先程の眩しさはそれのようだ。


 自分は今、意外にも冷静だ。

 先程は目を覚ましたら知らない場所にいた。体育館のようなその場所で謎の女に殺し合いを強要され、もう一度失神。そして起きたらここ、という訳だ。その「飛ばし」とやらの拍子に記憶や気力を失うこともなく――。


「まあ、潰すか」


 思わず口を突いて言葉が出た、それは無自覚か無意識か。結論を考えもせずに静かに立ち上がって歩き出す。

 先程からずっと視線の先に居る少女へと目を向けて。



2


 時は同じく、場もほぼ等しくして森の中。

 明るい茶色の髪を肩辺りまで垂らした、小柄な少女も同じ状況に立たされていた。


「いっつ……意味わかんない」


 「飛ばし」の酔いで朦朧とする頭をかかえ、側の木へと身体を預けて座り込む。


「なんなのマジ。血ぃかかったし」


 先程の「開会式」での一件により、返り血を浴びてしまった。飛沫程度の汚れだが、白を基調とした制服にはよく目立つ。幸先の悪さを感じつつ、もしかしたら今日の運勢は悪いのかもね、と余計な不安を心に宿す。


「君」


 だから震えた。背後、しかも頭上から聞こえたその声に。


「ひっ……」

「声はあまり出さないで」


 淡々と告げられる。既に優先権はあちらにある。なので彼女はもう、黙るしか無かった。


「素直でいいな、じゃあ早速だけど――」


 続く言葉を考えて、覚悟を決めた。もういい、殺されるならそれでいい。

 夢なら覚めるだろうし、夢じゃないのなら、せめて一思いに終わって欲しい。


「ちょっとさ、一緒に荷物確認しない?」

「……へ?」


 見上げた先には、静かに微笑む顔があった。



3


「なんで? なんでなんで、あんな角度で声かけるわけ? 意味わかんない」

「悪かったって、それは。でも最速でコンタクト取りたかったんだよね」

「それもなんでなの? マジ、納得させてくれなきゃ怒るから」

「はいはい」


 森林地帯。木々の生い茂る中でも、少しスペースのある場所に座り込む男女がいた。逢坂秀都(あいさか・しゅうと)と、彼が森の中で見つけた少女、高坂星華(こうさか・せいか)。どことなく違和感を感じつつも、秀都は星華との意思疎通を図ることに成功した。


「まあ、なんでかな。例えば君、自分の特殊能力ってやつ、わかる?」

「いや、全く」

「だよね。俺もまだわかんないし、でもさっき体育館みたいなとこにいたあの女の腕力なんて、普通じゃないでしょ」

「うん。マジ意味わかんない」

「語彙力……」

「は?」

「いや、それでさ。あんなの見せられたら、他人が能力とやらを把握しちゃう前に接触したいじゃん」

「あー……頭いいね、アンタ」

「まあそれと……この荷物? の中身の確認をさ、同時進行したくて」


 秀都は、殆ど嘘は言っていない。星華が初めに目に入ったからこそ声をかけたのだし、荷物の確認を同時進行したかったのも本心だ。

 それでも、最初に見つけたのが星華ではなく、例えば屈強な体格の男性等であった場合は、声もかけずにやり過ごしただろう。初めに声をかける相手として、最悪の場合を考えた時に肉弾戦になっても難なく制圧可能な存在、というのが、秀都が決めていた条件でもあった。


「まあ……そういう事なら……納得してあげる」

「じゃあ、開けますか。この派手な荷物」

「行動早っ」


 ゲームマスターとやらに支給された荷物。それはリュックサックの体を成していて、秀都と星華では色が違っていた。秀都のものは黒、星華のものは青。


「つーかあたしのリュック、クッソ目立つんですけど」

「それは同感」



4


 コンパス、名簿、メモ帳、ボールペン赤黒、うちわ、500mlのペットボトルに入った飲料水が二本。これが、秀都のリュックサックから出てきた物品の内訳だった。


「へえ、意外と……」

「なに?」

「いや、なんでもない。ウェットペーパー的なものでもあれば良かったんだけどな」

「え? あたしの荷物の中にはあったよ?」

「えっ」


 見ると星華は、既に何枚か取り出して左腕の肩付近の血を拭いている。


「取れるんだ、それで」

「超強力! って書いてるし」


 星華のリュックの内訳は、地図、ウェットペーパー、乾パン、時計。

 返り血を浴びた彼女の荷物にウェットペーパーが入っていたのは不幸中の幸いか。


「人によって中身違うんだね、ってかうちわって、絶対ハズレじゃんダッサ」

「うるさ。いつか役に立つ可能性もあるかもしれないじゃん」

「ないない」


 ケタケタと笑う少女を見て、吊られて頬が緩む。


 体育館で目の当たりにした不気味な少女の目論見を「潰す」と決めたはいい。さぞかし大変な道のりになるだろうと思っていた。だが今、目の前の少女と緩慢な会話をしていると、どうにも現実味が失われていく。本当に俺達は、殺し合いなどに巻き込まれているのだろうか。この少女の肩の血は、もしかしたら何も関係のないもので――。


 秀都は自分の置かれている立場をまだ十分に理解していなかったのかもしれない。星華は、荷物をまとめて立ち上がると、さも当然かのように言い切った。


「じゃあ、そろそろ殺しに行きますか」



5


 開幕していた。

 不可解、横暴、加えて理不尽な殺し合いは既に、意識の中に埋め込まれていた。


「ごめん、なんて?」

「ああ、言い方が悪かった? だからさあ……」


 星華は「はぁ」とため息一つ。

 何を今更、やれやれとでも言わんばかりに口を開く。


「命を――刈り取りに行こうって言ってんの」


 あの不気味な怪腕少女と同じ口調、同じトーンで、命を刈り取るなどと平然と言い切る目の前の少女。

 秀都は僅かに面食らった。


「まあ、アンタと喋ってある程度落ち着いたし、こっからは気合入れていかなきゃね!」

「いや、待って待って」

「なによ」

「お前……、……乗ってんの?」

「乗って……? え? 何言ってんの? ルール聞いてなかったの?」

「まあ、そうだけどさ。殺すって、お前。良いのかよそれで」

「ごめんアンタが何言ってるかわかんない。あたしと組みたくて声かけてきたんじゃないの?」


 会話が成り立たない。このゲームへのスタンスの相違が生み出す会話の軋み。秀都は理解できない、自分よりも恐らくニ、三は年下であろうこの少女が、何の躊躇も葛藤もなく、人を殺そうなどと言うのだから。


「ああ、だからか……」


 星華と話す中で生まれていった違和感。初見の際、想像以上に驚かれた事。どちらも今思えば納得がいく。

 恐らく彼女が至近距離で目撃したであろう体育館での男の殺害を経てなお、平然と会話が出来るこの胆力は決して「誰かに殺されるかもしれない」という恐怖からくるものではないのだ。この少女の頭の中はきっと……。


「殺らなきゃ、殺られるんだよ?」


 有無を言わさない好戦的な視線。その眼差しに、徐々に敵意の色が混ざっていく。想像以上に驚かれた事も、ここが既に人殺しが起こりうる状況だと理解していたからこそなのだろうか。あの時点にはまだ、彼女の頭の中には「殺されるかもしれない」があったのかもしれない。

 だが、会話によって敵意を排除していく事によって、今こうなっている。状況の認識が真に甘かったのは、星華の方ではなかったのだ。



6


「分かった、分かった」


 ふぅと小さなため息をつき、秀都は両手をあげてギブアップの意を示す。


「何? 何が分かったの」

「君のことを誤解していた。ここは別行動にしよう」

「は、そう来るんだったら、もうアンタはあたしの敵なんだけど。敵対するんなら殺すよ」

「……とは言ってもさ」


 秀都は、この少女の頭脳のレベルにある程度察しを付けている。それは会話の節々から読み取る事も出来たし、今この状況にまで彼女が持っていったことからも判断がつく。


「君は一体、どうやって俺を殺そうって言うんだ?」

「それは……」


 体格差、かつお互いに未だ特殊能力とやらを確認できていない。そんな状況下で宣戦布告をかましてくる女の知能など、たかが知れている。最も、それら全てを概算し、勝ち目の有る能力を既に把握している上で演技をされているのなら大したもんだが、生憎「飛ばし」直後から星華の姿を視認出来ていた秀都はその心配はしていなかった。


「分かった、分かったわよ……。で、アンタはこの殺し合いに乗らないっての? じゃあどうするの? 残り三人になるまでどこかで隠れて待ってるって訳? ハッ、ダッサ」

「ははは、それじゃあ本質的に一緒だな。俺は……」


 そこで一旦言葉を切って、星華の目を真っ直ぐと見る。

 ここまではあえて目を合わせなかった。


「この殺し合い自体を、潰す」


 最も重要な一言を、強く深く意識付ける為に。



7


「マジ? いや、無理っしょ……意味わかんないし」

「十中八九そういう反応だと思ったよ」

「分かってんなら、分かるでしょ」

「まあ三十九人殺す方が恐らく簡単だろうな。別に俺は、正義感に駆られた訳じゃない。でも奴……あの女は俺らの事、実験台とかって言ってなかったっけ。勝ち残ったところで本当に家に帰れるのかな」

「……」

「その辺は憶測だからなんとも言えないけど、この殺し合い自体が実験って可能性だって大いに有るし」

「まあ、それもそうね。いいわ、決めた。あたしアンタと一緒に行く。ほら!」

「ん?」


 差し出された手をどうしたもんかと見つめていると、業を煮やした星華が秀都の右手を掴んできた。


「これからよろしくねって事で! 握手よ握手。期待してるからね」

「ああ、なるほど」


 そういえばそんな文化もいつかの時代にはあったなと、思わず口元が緩んだ。



No.1  逢坂秀都(あいさか・しゅうと) 21歳 

能力名:???

能力 :???

タイプ:???

系列 :???


No.10 高坂星華(こうさか・せいか) 17歳 

能力名:???

能力 :???

タイプ:???

系列 :???


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