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オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
プロローグ
1/54

1 世界の犠牲者

1


「ふふふ。とまあ、こういう訳だ」


 壇上の女の子が言う。微笑む彼女はとても可愛らしくて、その無邪気な笑顔は思わず見惚れてしまうほどだ。だが彼は、目を背けた。いや、その場にいた四十一の内のほぼ全ては、正面を視界から外しただろう。


「やだなあ、キミらが言ったんだろう。リアリティに欠けるって。ホント、勝手だよねえ……あはは」


 赤い液体の付着したその指を舐めながら、ニコリと笑う。


「まあ、そういう訳だからさ。せいぜいその無価値な命を散らせて頂戴な、ええと、なんだったかな……あ、あれだ! 不幸な実験台諸君!」


 不幸な実験台と銘打たれた四十ニ、否四十一の生命体は、一様に沈黙。所詮は状況に流されただけの人間達、それでもその価値観は多様なはず。


 時は、十分程前に遡る。



2


「あの……」


 見知らぬスーツ姿の男が声をかけてくる。何度目だろうか。


「さあ、知らない」


 相手の質問を待つまでもなく、先に答えた。


「……」

「……」


 しばしの沈黙が二人を包む。


「いや、すみません……ええと」

「何」

「これは、一体……」


 ふぅ、と、小さく息を吐く。

 逢坂秀都(あいさか・しゅうと)は、それを返事の代わりとした。どうせこの男が次に聞いてくることは決まっている。「この状況が何か」だ。困惑と疑念の入り混じった男の顔が、それを裏付けている。……とても面倒臭い。


「一体、いつまで待てばいいんでしょうかね……」

「ん?」


 だが、投げかけられたのは意外な言葉だった。

 予想外の問いに、秀都は思わず相手の目を見る。

 静かだが真摯な色を纏った視線が、真っ直ぐこちらを見据えていた。


「うーん、何ていうのかな。貴方もここで目覚めたんでしょう? 周りを見ても恐らく皆そう、だから、状況が動くのを待ってるんです」

「そっか、なるほど」


 思いの外、その男は他の奴らと違って冷静だった。悪くない。


 秀都が目を覚ましたのは、今から更に十分ほど前。背中の痛みを堪えつつ上体を起こすと、周りが見覚えのない景色だと言うことに気がついた。一見すると、最も近い施設名としては体育館が挙げられるが、窓も扉もなく、あるとすれば正面に位置する少し高くなったステージのみ。人が周囲に倒れているという事実も、その異様さに拍車をかけていた。


 時間の経過と共に人がチラチラと身を起こし始め、真っ先に起きたであろう自分に事情を聞いてくるも、秀都とて何も知らない。それを伝えると、人々は周囲に散っていった。だから今回もそうだと思ったのだが、案外冷静な人間もいるものだ。


「葛西です。呼び捨てで構いません。ここで何かがあるのなら、呼称が無くては不便ですから」

「……そうだな。俺は逢坂、何とでも呼んでくれ」

「分かりました。今の僕らに出来る事は特にないみたいですね、もう少し人を集めておきますか?」

「いや……いいんじゃないかな」


 何が行われるのか分からない。この異常事態に、これ以上のイレギュラーは抱え込みたくなかった。

 ともかく今、秀都は状況が動くのを待っている。



3


「ふふふ、皆起きてるのかな」


 ふと、ステージの上から声がする。視線をやると、桃色の髪を肩まで垂らした女の子が無邪気な笑顔を携えて、人々を見下ろしていた。

 状況変化の初動を察知した秀都は、壁にもたれながらも話を聴く態勢に移る。


「えーっと、何から説明するのが手っ取り早いかなあ、そういうの聞いとけば良かったな、あはは」


 唇に手を当てて、彼女は何かを考えているようだ。


「何か、知っているのなら……教えてほしいのだけれど」


 ステージの下、人々の比較的に前方に位置する場所から声が挙がった。それこそ誰もが聞きたかった質問で、秀都が先程何度も浴びせられたものだ。


「そうだね、結論から言っちゃうと……ふふふ、キミ達には……殺し合いをしてもらいます! ってね、あはははは」

「ん?」

「お?」


 その発言のみでは、特に空気は変わらなかった。

 何故なら未だに人々の頭に浮かんでいるのはクエスチョンマークのみで、かくいう秀都も言葉の意味を汲み取りかねていた。何かの比喩表現だろうと、大方の目星を付けるくらいの判断しか出来ない。


「すみません、一体……」


 今度は秀都の隣から声が投げられる。先程のスーツ姿の男だ。


「まあまあ、質問とかは後で聞くからさ。とりあえずを話させてよ! ね、ふふふ」

「そう、ですね……。では清聴することにします」

「ふふふ、素直な子は好きだよ、私」


 また無邪気で無防備な笑顔を振りまいて、彼女は笑う。誰もが現状の説明を求めている。場が自然と静かになっていくのを感じていた。



4


 殺し合い、そう、まあ殺し合いだね。

 この試合を任されたのは私だけど、キミ達を哀れで不幸な実験台達と銘打ったのは私じゃないよ。だから安心してね。そんなにひどいものじゃないから。私達はゲームって呼んでるくらいだしね。


 たった三十九の命を刈り取るだけの作業だからね。しかもそれらを見知らぬ誰かと分担するんだ。まあ要するに、最後の三人になるまで殺しあえってことさ。至ってシンプルでしょ?


 まあキミ達も非力なもんだ。会場にはそれこそ努力次第で殺傷能力を見出だせるアイテムもなくはないけれど、それだけの力に頼るとしたら本当に不幸だもんね。だから今回は、キミ達の体にちょっと細工をさせてもらったんだけど……。


 あ、怒んないでよ。ゲームが終わったら元に戻してあげるし、それにそんなに悪いものじゃないよ。言うなれば特殊能力ってやつさ! ほら、心踊るよね。


 四十ニだから四十ニ通りの特殊能力があるよ、十人十色ってやつだ。あ、言葉の使い方違うかな? ごめんね、能力創ってる時に出てきたからさ。


 まあ全てに威力があるわけでもないけど、全部使い手次第かな。当たりと外れの差は結構激しいかもしれないね。それでも、頭と体をフルに使うんだよ、頑張って! おっと、この場にいる内は発動しないから、大丈夫だよ。血気盛んな子も居るみたいで嬉しいよ。


 殺し合い、といってもこんな狭い中じゃすぐ終わっちゃうし、密閉空間だと能力の有利不利が大きすぎるから、私の話が終わったらみんなを会場に「飛ばす」から安心してね。便利な荷物も一緒にあげよう、こんなサービスしてるのゲームマスターの中じゃ私だけじゃないかな。恩に着てもらってもいいよ、是非。


 とまあ、こんな感じなんだけど。うーん、思いついたのはこれくらいかなあ、後は成るように成るって、誰かが言ってたし。



5


 彼女はそこで一旦言葉を切った。

 それだけの言葉を、一度も笑わずに喋りきって。


「あの」

「何」

「駄目ですよね、止めないと」

「ん」


 葛西が、人混みをかき分けて前へと歩いていく。


「ああ……勝手にしたら」


 秀都はそれの後を追う気にはなれなかった。

 だってどう考えてもあの女は、普通じゃないから。


「あの、貴方」

「ん? あ、先刻の素直な人か、どうしたんだい」

「止めときませんか、これ以上は」

「……。……と言うと?」

「殺し合いとか……そう言うの。人としての理性があるのなら、そう簡単になし得る話ではないと思うんですが」


 彼女は一瞬、壇上に上がってきたその男の目を見つめた。

 それからゆっくりと周囲を見渡す。


「まあ、そうだよな」

「急に言われてもね」

「現実味に欠けるって言うの? こんな子供に言われても」

「いいから早く家にかえしてくれ」


 葛西の言葉に、前方に立っていた人々が同調した。誰も彼も、この時点では自分たちが不幸な実験台と言われたことすら水に流せる程に、何も受け入れてはいなかった。どこか呆れ気味な雰囲気が充満していく。それは当然の事で、一体誰が現時点、何が正しいかを判断出来ただろうか。


 一瞬だった。彼女の手が、男の胸を貫くのは。


「は――」


 壁にもたれたまま黙って前を見ていた秀都は、思わず目を疑った。

 だが何度見ても同じ。桃色の髪の女の子の右腕が、葛西の身体を貫通していた。


「違うんだよね、もうそういう次元の話じゃないんだ。キミ達は現に今ここにいるじゃないか。なのに今更何を騒ぎ立てようって言うのかな? 誰か一人でも、これだけの人数がこの場に集められている事態を満足に説明できるのかな? 出来ないよね。私はこれでも親切なんだよ、最後の三人になれば、黙ってお家にかえしてあげるんだからさ……」


 胸を貫かれた葛西は、四肢をダラリと垂れ下げている。


「ん? この子は……。あーあ、もったいないなあ、ある意味最強クラスの能力を貰っておいて、ははは」


 彼女の喋る言葉の意味は分からない、だが状況は理解した。先刻まで隣に居たあの男はどうやら、もうこの世に居ないらしい。たった数回会話を交わした人間とはいえ、こうもあっけなく死ぬものか。震える右手を握りしめ、思わず唇を噛んだ。



6


「ふふふ。とまあ、こういう訳だ」


 壇上の女の子はそう言った。その手に人が突き刺さってなければ、その無邪気な笑顔はずっと見ていたいくらいなのに。目を背けずにいられない。


「やだなあ、キミらが言ったんだろう。リアリティに欠けるって。ホント、勝手だよねえ……あはは」


 腕を無造作に引き抜いて、血の付着したその指を舐めながら、笑う。悍ましさが加速していく。


「まあ、そういう訳だからさ。せいぜいその無価値な命を散らせて頂戴な、ええと、なんだったかな……あ、あれだ! 不幸な実験台諸君!」


 誰一人、喋らない、嗚咽、すすり泣き程度の発声はあれど。恐怖と疑問が充満していく。頭の中を整理するには、圧倒的に時間不足。


「あ、それと、言っておくけど、これは嘘でもドッキリでもないからね? 躊躇してたら死ぬよ? 知らないからね、ふふふ。……じゃあ、質問もないみたいだから、さっさと始めようか。こういう時はなんて言うんだったかな?」


 唯一彼女だけが、その口を動かし続ける。 


「そうそう。あれだあれだ。ご武運を! ってね。あはは」


 その言葉を最後に、秀都の意識は唐突に切られた。






GM 神永祐奈(かみなが・ゆうな)

能力名【災厄付与】一を代償に、五十の能力を自由に付与出来る能力。アクティブタイプ。

能力名【剛腕】素手に寄る突きの威力が強化される。パッシブタイプ。

他多数。



No.6 葛西優一(かさい・ゆういち) 27歳 退場

能力名【聖者の誇り】言動、行動が多数派である内は生存を確約される能力。パッシブタイプ。


残り41/42

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