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オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
一日目
21/54

20 千堂新という人間

1


「つまりお前は、真実を知りたいと言うんだな」

「そう……です……」

「そして、そいつに謝りたいと」

「はい……」


 千堂新(せんどう・あらた)は、目の前の血まみれの少女、烏丸千尋(からすま・ちひろ)から受け取った紙を眺める。要領を得ない内容ではあったが、なんとか事の顛末を聞き出した。


「お前がどれほどの距離を走ってきたかは知らないが、戻ってみる価値は有るかもな」


 新は思う。初めに出会った三人と言い、この少女と言い、この会場には一癖も二癖もあるような奴らが集められている気がすると。それに、烏丸千尋と言う名前にはどこかで聞き覚えがあった。同じ中学、同じ部活だった烏丸千星(からすま・ちほ)と、名前が似すぎている。妹がいるのかどうかといった話をするほどの仲では無かったが。


「おい、行くぞ」

「は、はい……!」


 それに、武仲壮士(たけなか・そうし)なる少年にも興味が沸いた。


 自らは重症を負いながらも、最後まで千尋を助けようとした少年。そんな正義感に溢れた心の綺麗な人間が居るのなら、一目見てみたい。新にとって、好奇心をくすぐる事象はすこぶる珍しい。



2


「ねえ、ねえってば」


 場所は変わって、南側住宅街の民家の中。


 布団には一人の少年が横たわっている。先程外で見つけた満身創痍の少年を軽く治療してここまで運び込んだのだが、なかなか起きてくれない。何度か声をかけたが、未だに眠ったままだ。微かな胸の上下と発汗、それに苦悶の表情。死んでいると言うわけではなさそうだけど。


 それを見守る女性、六弦優癒(ろくげん・ゆうゆ)は過去を思い返す。つい二年ほど前まで、自分は看護学生だった。実家は大きな病院を経営していて、その長女として生まれた私は当然の様に看護過程へと進まされる。……だがよくある話で、長女たる私は失敗作だった。徹底した医者思想の両親は、愛情で子供を育てるという概念が無かったらしい、医者なのに。当たり前のように優秀であるはずだと、ある意味全幅の信頼を置いた放任育成。それでも私は精一杯の努力をした。結果は挫折。


 家を飛び出して、友達の家を渡り歩く生活。両親は探しに来なかった、何故なら両親はもう既に妹達に夢中だったから。愛情が育成成功の最大の要因だと知ったらしい。私にはもう、関係ないことだけれど。


「皮肉だよね、こんなさ」


 そんな自分に与えられた能力が、他者の傷を癒やすものだっていうんだから、この世はどうしようもないほど残酷だ。いや、こんな殺し合いに巻き込まれている事自体、既に意味不明なことではあるけれど。


 優癒は、布団で寝る少年へと目を移す。とても苦しげな表情をしている。一体何がどうなれば、こんな大怪我をするんだろう。生憎優癒は、その瞬間を目撃していなかった。「飛ばし」から目覚めて民家を出ると、見るも悍ましいいくつかの肉片と、怯える少女、そしてそれを必死になだめる少年が居た。女の子を守って大怪我するだなんて、かっこいいじゃないか。たぶんだけどさ。


「早く起きてよ、話相手がほしいんだってば」


 頬をつついて、眠れる少年の顔をじっと見る。すると突如、その目が開いた。


「あ、起きた?」

「ここはッ……! くそッ!」

「あ、ちょっと待ってよ!」


 優癒の言葉に耳を貸さず、少年はその部屋を飛び出していった。


「まだ絶対安静なのに!」


 慌ててその後を追う。



3


「……あそこか?」

「はい……」


 烏丸千尋と千堂新は、目的の地に近づいていた。何の変哲もない住宅街の一角。だが千尋にとっては、思い出したくもない場所だった。人間だったものが二つ転がっているであろう場所、そして千尋が壮士から逃げてしまった場所。


 逃走という選択をしたことを、後悔している。兄以外の人間と久しく口を利いていなかったせいでまともな会話も出来なかったのに、まともな別れも出来なかった。血まみれの自分と、二人の人間を「俺が殺したッ」と言い張る壮士への畏怖が頭の回転を妨げた。


 徐々に近づいてくる。凄惨すぎるその場所は、千尋が逃げた時と何も変わっていなかった。地面に広がる多量の血液も、真っ二つに割れた大男の遺体も、原型を留めていない女性の死体もそのままだ。だが――


「あれ?」


 既にその場に壮士は居なかった。


「移動したんじゃないのか? にしてもこれは……ひどいな」


 千堂新と名乗った隣の青年は口元を抑えて眉をひそめている。移動した? あの状態で? あの怪我で? どれ程の胆力があればそれが可能だというのか。


「これを、その武仲がやったって言ったのか?」

「はい……」


 実は新も、既に身体を貫かれた死体を体育館と民家の中でニつ見ているのだが、それ以上にこの場所の死体は目を背けたくなる程の圧倒的な惨たらしさを見せつけていた。血の匂いが充満している。


 そこへ――



4


「あら? 貴方は……」


 不意に千尋達の後ろから女性の声が聞こえた。

 千尋が振り向く前に、新の舌打ちが耳に入る。


「思い出したくもない声だな……」


 新の纏う空気が変わる。明らかに良いものではない。

 その証拠に彼は今、顔全体に嫌悪感を貼り付けていた。


「うふふ、さあ、早く、あの方たちを救ってあげて?」

「……」


 そこにいたのは白いブラウスを着た髪の長い女性と、静かな目をした巨漢の二人組。女性の透き通る様な白い肌と、慈愛に満ちた笑みに思わず引き込まれそうになる。それに加えて優雅な声、優しい発言。一体この人達は誰なんだろう、と千尋は新の顔色を伺う。知り合いのようだが。


「……まるで操り人形みたいじゃないか、なあ、獅子島さん」


 だが新は一瞬たりとも顔を綻ばせる事はない。

 険しい目つきのまま、女性の後ろに控える巨漢へと声を投げていた。


「……」


 新の挑発を受けても尚、その巨漢は言葉を発さない。まるで機械のように黙りこんだまま、一歩一歩とこちらへ近づいてくる。その全身から吹き出す空気はを感じた千尋は思う。……あの時と同じだ。

 突き付けられる殺意。

 今まで十四年間生きてきて、こんなにも短時間で二度も殺されかけることがあっただろうか。否、あるわけが無い。そもそも「殺されかける」とい経験自体を、普通の人間なら持ち得ないのではないのか。


 気付けば、千尋の目にまた涙が溢れていた。そして、何故か意識が飛びそうになる感覚に襲われる。殺意に晒されると不意に自分を襲うこの感覚。思わず意識を手放してしまいそうになる。


「駄目だッ!!!」


 朦朧とする視界に頭を抱えた時、突如凛とした声が響いた。

 その声を、千尋はよく知っている。



5


「あら? 今度は誰かしら?」

「やめろッ! もしもお前らがその子に手を出そうとしているのなら、即刻やめろッ!」


 突如、立ち並ぶ民家の中の一軒から少年が姿を現す。

 その少年は、こちらへ走りながらあらん限りの声で叫んでいた。


「どうして? このような哀れな場所から救ってさしあげないと……」

「やめろッ! その子だけは……ッ! どうしてもと言うのなら俺が相手になるから、だからその子はやめてくれ……ッ!」

「相手になるってなにいってん……絶対安静だってば」


 遅れて同じ民家からもう一人、茶色い髪にウェーブのかかった女が出てくる。

 だがその女の制止も聞かずに、少年は千尋と新の前に滑り込んできた。


「一体何がどうなって……」


 新は、目まぐるしく移り変わる状況を頭の中で整理する。


 千尋に出会う少し前、民家で一方的に別れてきた男女。

 坂本神久夜(さかもと・かぐや)と獅子島慎之介(ししじま・しんのすけ)。この清楚極まる女と、静かな目をした無口な巨漢というアンバランスなコンビが、今千尋と新に殺意を放っていた。


 別れ際神久夜は死亡志願者だった筈だが、どうやらその考えよりも「救う」というスタンスで他人を殺すことに比重が傾いたらしい。獅子島慎之介は、感情もなく神久夜の声に従っている、と言ったところか。


 そして、息も絶え絶えながら新と千尋を守るように目の前に立つ少年、これがおそらく武仲壮士だろう。千尋によれば、命を賭して千尋を守ってくれた少年。二人の人間を殺害し、彼自身も大きな傷を負った。そんな状態の壮士を、怖くなってこの場所に置いてきたと千尋は言っていたが。民家から出てきたもう一人の女については、新の脳内に情報はない。


「救いの邪魔をするだなんて……貴方、もしかして悪いお方なの?」

「救い……だと? それはよく分からんが、悪者でも何でもいいッ! だがこの子だけは手をだすなッ! これは……理由は言えないが、お前たちの為でもあるッ! だから……ッ!」


 この少年は何を言っているのか。お前たちの為である……と、この期に及んで「人殺しは良くない」とでも言うつもりなのだろうか。それとも、他になにか理由が――

 今現在、新の知りうる限りの知識では理解できなかった。


 獅子島慎之介は未だ、静かな目で壮士を見つめている。

 まるでそれは、次の指示を待つ戦闘機械の様に見えた。



6


「なんで……なんでえ……?」


 千堂新と同じように、烏丸千尋もまた理解に苦しんでいた。

 何故ここまでして、壮士くんは私を守ろうとしてくれるのだろう。


 この殺し合いの場で最初に出会ったというだけ、それもたった数回会話を交わしただけの仲。それ以上でもそれ以下でもない、有象無象の他人のはず。


「何故、だと? 決まっている、お前が俺の従者だからだッ……!」

「え……」


 その凛とした声に、思わず放心しそうになった。だがそれは先程のような記憶に無いほど抗いがたい意識の喪失ではなく、単純な思考停止。従者だからだとか、そんなものは理由になっていない。正式な契約も、信頼を培う長期間に渡る付き合いもないのに。


 それでも千尋は、その言葉を信じかけていた。心がほつれていくのを感じる。数年に渡って心を閉ざしていた少女は、無条件で他人を信じることの心地よさを僅かながらに感じ始めていた。



7


 実際は、武仲壮士にはもう一つ理由がある。


 あの時、今と同じように二人組の男女のペアに襲われて、自分の油断で形勢を持っていかれた。すると、それまで戦闘に参加していなかった千尋の様子がおかしくなって、あっという間に二人を惨殺したのだ。あんな残酷な行為をこの少女がやったなんて信じられない。だが、目の前でそれを見た壮士には、否定するだけの材料が圧倒的に足りなかった。


 恐らくあの惨殺行為を引き起こすことこそ千尋の能力で、その記憶すらも残らないのだろう。本人の意思とは無関係に他人を殺してしまう能力だなんてあっていいはずがない。外れも外れの大外れだ。その想いが、壮士をこの場に立たせる原動力になっている。


「ほら、どうしたッ! 来いよッ!」


 壮士は刀を構える。能力とやらで、何時如何なる時であろうとも手元に呼べる刀だ。正直言って今にも倒れそうだが、この二人を退けるまで自分はここを下がる訳にはいかない。千尋には二度と、あの能力は使わせない。


「……」


 目の前の巨漢はまだ一言も発していない。戦法も、性格も、声質さえも分からない正真正銘初対面の他人。そんな男と今から殺し合おうというのだ、これでは、元いた世界と変わらないじゃないか。


「手だよ」

「ん……?」

「あの手が、人間の体程度なら容易に貫通する」


 千尋の隣で状況を伺っていた青年――千堂新――が、壮士へと声をかけてきた。


「誰だか知らんがありがたい……、恩に着るッ!」

「いいよ、それと」


 そして、その青年は壮士の前へと身を乗り出してきた。


「あいつらは俺がああした様なもんだ。だからここは俺がやろう、お前は下がれ」

「な……だがッ……」

「いいから、そろそろ俺も能力を試してみたい。ほら、あの女が先刻からお前を睨んでいるぞ」


 青年はそう言って、民家の前で頬を膨らます女の人を顎でさした。



8


「さて……」


 少年が自分の後ろへ下がったのを確認すると、新は緑色のリュックを地面におく。そして、獅子島慎之介の後方で様子をみる神久夜に声をかけた。その長い黒髪は風になびいて揺れていた。そして芸術的とも言える顔立ちの良さ。この容姿で15歳とはいまだに信じられない、まあ今は関係ないが。


「坂本さん」

「はい?」

「江戸川さんの遺体は、置いてきたのか?」

「うふふ。ちゃあんと、供養しましたよ?」

「そうか」


 別にそれは気がかりだった訳ではない。そもそも自分が殺させた人間だ、だからこれはただのリズム取り。


「獅子島さん」

「……」

「相変わらずだな。話したのはあの時だけ、か」


 今は亡き江戸川唯介(えどがわ・ただすけ)の取捨選択の概念のくだりから、坂本神久夜殺害の計画を話した時に、獅子島慎之介は激昂した。その怒りを利用して、江戸川唯介殺害計画へと話を操縦した。簡単なことだった。


「もういいでしょう? 救ってあげますよ、貴方も。死ねば、こんな哀しい場所から救われる、簡単な」

「その口上はもう良い。破綻した論理に付き合う気もない、さっさとその男をけしかけて、他人任せの救いとやらを実行したらどうだ」


 神久夜の言葉を遮って、新はまくし立てた。


「うふふ、じゃあ、やってさしあげて?」

「……」


 獅子島慎之介は、また距離を詰めてくる。後数歩というところで、その右手を振りかぶった。


「おいッ! お前、避け――ッ!」

「い、いやあぁぁあ!」


 後ろに控える少年少女の声がこだまする。民家の入口で様子を見ている女は、言葉も出さずに目を見開いていた。それも当然、新はその剛腕を真正面から食らってしまったのだから。


「あははははは!」


 坂本神久夜の高らかな笑い声が響く。



9


「……!」


 だが、吹き飛ばされたのは慎之介の方だった。確かに慎之介の突きは新に当たったはずで、新の身体に穴が空いててもおかしくはない。慎之介は、それなりの距離があったはずの神久夜の隣まで吹き飛んで、そのまま天を仰いで動かなくなった。周囲の人間の驚嘆と不理解の入り混じった空気に、無傷の新は一人だけ言葉を紡ぐ。


「いつか正気に戻ってくれるなら、その時また話をしよう。なあ……獅子島さん」


 新は、獅子島慎之介の事が嫌いではなかった。人を殺して頭がどうにかなってしまうなど、プラス要素以外の何物でもない。どうにかならない方がどうにかしている。


 新は、他人を動かすのが好きだ。支配とまではいかなくとも、操縦するのが好きだ。いかんせん自分がどれ程打算的で表裏のある人間かを分かっているので、余計に他人の純粋さに心が惹かれる。だから、獅子島慎之介が嫌いではない。


「そういうことだ……坂本。お前はさっさと獅子島さんを連れてここから消えろ」

「せっかくの救いの機を……。馬鹿な人……」


 唇を噛み締めて、微かな不機嫌さを纏った神久夜は、獅子島慎之介を起こしてゆっくりと去っていった。結構な威力を「返した」筈だが、それでも動けるとはなんと強靭な肉体だろう。


 新の能力は、俗に言うカウンター。威力の調節は不可能だが、効果のオンオフは可能だった。今もし効果をオンにしていたら、獅子島の上半身には大きな穴が空いていた事だろう。


「さて」


 新の後ろで言葉を失う少年武仲壮士と、更にその後ろで小さくなっている少女烏丸千尋。そして少し離れた民家の入口で様子を見ていた名前も知らない女の人。この場に残った人数を見て、新は小さくため息をついた。


「……また四人、か」



No.7 烏丸千尋(からすま・ちひろ) 14歳

【能力名】十人十色のころしかた

【能力】 自分に明確な殺意が向けられた時、潜在意識が具現化し、願った通りの現象が起きる。ただし「顕現可能な現象は殺害のみで、能力発動中の記憶は一切残らない」

【タイプ】パッシブ

【系列】 規格外



No.14 千堂新(せんどう・あらた)19歳

【能力名】魔法鏡

【能力】 相手の戦闘行為を認識している時のみ、その攻撃手段と威力をそのまま返すことが出来る能力。更に「能力による効果は付加選択可能」

【タイプ】アクティブ

【系列】 能力操作系



No.19 武仲壮士(たけなか・そうし)16歳

【能力名】剣聖の誓い

【能力】 何時如何なる時であろうとも、愛刀を瞬時に呼び出せる能力。更に「???」

【タイプ】アクティブ

【系列】 物質操作系



No.41 六弦優癒(ろくげん・ゆうゆ)22歳

【能力名】献身中毒

【能力】 患部に手をかざすことで、能力による負傷を治癒する能力。ただし「自分の傷は治せない」

【タイプ】アクティブ

【系列】 支援回復系



10


「あの人達は……救われたく、ないみたいですね?」

「……」

「うふふ。別にそれでも、いいんですけど」


 坂本神久夜と獅子島慎之介は、元いた民家に戻ってきていた。江戸川唯介の遺体は、勿論そのまま。特段気にする風もなく、その部屋へと入って椅子に座る。未だに目を見開いたままのその遺体は、あれから手を付けられても居なかった。


 神久夜の思考は、今生きている人間にしか向いていない。


 そっと、慎之介の背に触れる。やはり何も、流れ込んではこなかった。



No.15 坂本神久夜(さかもと・かぐや) 15歳

【能力名】叙情読了(-)

【能力】 他人の背に触れる事によってその心を読み取ることが出来る。ただし「読み取れるのは負の感情のみ」

【タイプ】アクティブ

【系列】 情報系



No.12 獅子島慎之介(ししじま・しんのすけ)20歳

【能力名】剛腕

【能力】 素手による突きの威力が強化される。

【タイプ】パッシブ

【系列】 身体変化系


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