11 永久立方
1
「ふぅ……」
烏丸千星(からすま・ちほ)は足を止めた。廃墟の一室にて都築一誠(つづき・いっせい)と別れてから結構な距離を走ったと思ったが、ここしばらくは周りの景色に大きな変化はない。
廃墟ビル街を抜けると、今時珍しい木造の集落があった。そこを抜けると少しの野道があって、また次の集落が見える。その光景はもう四度目。集落の入口にある不気味な動物の像までそっくりだ。
「どこまで続いてんのかな、引き返したほうがいいか?」
シャツの襟元をはたはたとさせ、内部に風を送る。徒歩に切り替えてはいたが、暑い。時刻は正午くらいだろうか? 体育館で目覚めた時、普段つけている腕時計は外されていた。
一刻も早く目的を達成したい。そう考えている千星にとって、見覚えのない景色が延々とループするのは大きなストレスだった。
――そう言えば、地図があったな。
リュックサックを身体の前に回し、中からA3サイズ程の地図を取り出す。廃墟群と書かれているのは地図左上の辺りのみで、恐らくここがそうだろう。この集落も廃墟にカウントされているらしい。南に下れば病院、住宅街があり、西に行けば墓場、山があるようで、そのどれも見えて来ないということは、千星はどうやら反対側に走ってきたらしい。
「に、しても……。もしかするとこれは……」
いくら廃墟群が大きいとはいえ、相当な距離を走ったはずだ。それなのに一向にこの地図の端にたどり着く気配がない。地図に書かれていないここより北の部分がどうなっているかは分からないので、なんとも言えないが……。
「いや、まさかな……」
ふと思い立って、集落の入口の不気味な動物の像に、支給品にあった豆大福をお供えしてみた。角はシカのようで、顔はたぬき、くちばしはワシのようないびつな像で、その足元にティッシュを敷いて大福を置く。そして。
「嫌な予感があたってなきゃいいんだけどな」
次の集落へ向けて、走りだした。
2
「はあっ……はあっ……くそっ! やっぱりかよ!」
その集落は、そんなに大きくなかった。だから駆け抜けるのもすぐだ。そして案の定、少しの野道が続いて次の集落が見える。
その入口には勿論、あの奇妙な動物の像があった。そしてその足元に、先程置いた豆大福も。
「どうなってんだよ!」
個数も色も同じもの。他人が置いたなんてことはほぼないだろう。千星の予感は的中してしまった。地図の端はループしているのではないか? という疑問が確信に変わる。錯覚、空間の歪み、どういうトリックかは分からないが、確かにここはループしている。
早くに目的を達成したい千星にとって、その事実は心に衝撃を与える。何故なら自分は、無駄な時間を過ごしてしまった。繰り返される空間を走破しようとしていた。妹を探すための時間が減ってしまった。たった一人の家族を探すための時間が、浪費されてしまった。
「くっそ! 戻ればいいんだろ……戻ればさ」
明らかに何者かの手が加わっている。「ここから先には入るな」と、強大な意思がひしひしと伝わってくる。自分には今それの相手をしている力も時間もない。守るべき人間のほうが、優先度は上だ。
その帰り道、四回通ったその像の足元には、全て豆大福があった。千星はそれを横目に見ながら走りぬけた。
No.8 烏丸千星(からすま・ちほ) 18歳
【能力名】インビジブルヒーロー
【能力】 任意のタイミングで、全身を他者から見えなくする能力。各種制限有り。
【タイプ】アクティブ
【系列】 身体変化系
3
エターナルキューブ。範囲最大。
「あーあ、もう気付いちゃったのかあ」
会場を創る時に、神永祐奈は設定した。
「誰? ……烏丸千星くんかあ、さすがだね!」
その暗い部屋で、人間の頭サイズの水晶球を前にして、ゲームマスターは静かに微笑む。
「殺さなくて、いいのか?」
「ああ、ダメダメ。今回はぜーんぶ見届けるって決めたからね、あはは」
「まあ、それも一つのルールだよな」
「そういうことー」
「そうか」
「キミのとこは、もう終わったの?」
「ああ。生き残ったのは……」
「あー、やめてやめて! 後でじっくりみたいから。ネタバレはなしだよ。ふふふ」
「そうか、悪趣味だな」
そう言うと、もう一人は部屋を出て行った。
GM 神永祐奈
GM 仙波久弥




