シュメル国の人々
気がついたら、なんだか周りが騒がしかった。老若男女の声があわただしくかわされている。
「おお、とうとうじゃな」「やっと来てくださった」「有りがたい限りだ」「しかしまだ目を覚まさないぞ」「大丈夫かしら」
僕はしばらくその会話をただ聴くことにした。手を少し動かして見る。なんだか草のようなものが僕の周りにあるようだ。それに、肌寒く風がヒューヒューと音を立てて吹いている。もしかして僕は今、外にいるのだろうか。いや待てよ、僕は確か自分の家にいて・・・・。
あっそうだ・・!あの女の子が僕の腕をつかんで・・・・。そのあと僕は・・・僕は、どうなったんだ?
ガバッと起きあがった。
「やっと目を覚まされた」
目を開けると、僕の周りには30人ほどの人だかりができていた。僕の下にだけ干し草のようなものが敷かれ、僕の周りの人々は皆地べたに座っている。左右には松明のようなものがあり、どうやら今は夜のようだった。
「どこだ、ここ」
乾いた声しか出なかった。どう見ても僕の知っている場所ではない。それに人々はみんな一様に民族衣装のようなものを着ている。あの時の少女とよく似た柄だった。
「ようこそいらっしゃいました。お待ちしていましたよ。あなたがいらっしゃったおかげで我ら一族は安泰でございます」
目の前にいた老人が口を開いた。顔はものすごくニコニコしているが、手や足には包帯が巻かれ、ところどころ血がにじんでいる。
「どういうことですか。というか一体ここは・・・?」
「ここは我々ライラ一族が納める、シュメル国でございます」
その隣にいた30代くらいの男性が言った。老人のように包帯が腕や足に巻かれている。よく見渡すとここにいる人たちのほとんどがけがをしているようだった。
「シュメル国って・・・。そんな国聞いたことないぞ」
「落ち着いてください。あなたはこの国の勇者様ですぞ」
老人がまた言った。なだめるようにそそくさとフルーツの入ったバスケットを持ってくる。
「これでもお食べになってください」
老人は赤い実を進めてくるが、僕は食べる気にはなれなかった。
「今、なんて」
「あなたはこの国の勇者様でございます」
老人はゆっくりと話しだした。
「この国は今、近隣の国から武力攻撃を受けているのです。今はいったん引きましたが・・・。しかしまた再開されますとこの国はもう終わりなのです。見ての通りたくさんの負傷者がいます。たたかえる戦士はほとんどいません」
そのとなりの男が後を続ける。
「この国の女王は特殊な力を持っています。敵は女王様を狙っているのです。最近は雨も降っていませんので今はどこの国も農業は上手くいっていません。しかし、この国だけは雨も降り、この通り木の実もとれております。これもみな、女王様のおかげなのです。女王リア様は天気を自由に変えられるの力を持っておられ、鏡を使って雨を降らせて下さるのです」
「女王リア様・・・?」
男は大きくうなずいた。そして身を乗り出し、続ける。
「リア様は先日鏡を使い、占いをされました。その鏡にあなた様が映っていたのです。リア様はおっしゃいました。あなた様がこの国を救ってくださる勇者様だと。そして、使いの者を出させ、この国に連れてきたのです」
皆がうなずいた。皆、僕をすがるような眼で見ている。
「待ってください。僕は勇者じゃないですよ。僕はただの一サラリーマンで」
「黙れ」
この声には聴きおぼえがあった。後ろで腕を組んで立っている少女だった。周りにいた人々が振り返る。
「ミア様!」
老人がたちあがり、頭を下げた。それに続いて人々は一斉に頭を下げ、一歩後ろに下がった。
「お前は勇者だ。姉さまがそう占ったのだから間違いはない。ぐちゃぐちゃといっている暇がったら、さっさと修行でもしろ」
僕をここに連れてきた少女だった。僕を見る黄色の目は鋭く、そして強い意志が込められているように見えた。
少女は僕に近づき、胸ぐらをつかむ。
「いいか。お前はこの国の勇者だ。その仕事はきっちりと果たしてもらう」




