表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海色の瞳  作者: 徳次郎
7/21

【第7話】

 海岸線沿いに続く道路をゆっくりと流して、大きな駐車場にバイクを停めた。

「こんなに長い海岸線が在ったのね」

 彼女が、ヘルメットを脱ぎながら言った。

「俺達は、いつもバイクで遊び回ってるから、少しだけ行動範囲が広いんだよ」

「ふふふ、工業高校の人達って、放課後はみんなバイクに乗ってるよね」

 綾香は笑ってそう言いながら、防波堤の階段から砂浜に降りようとしていた。

「みんな、学校には内緒で免許を取ってるけどね」

 僕は階段の横から直接砂浜に飛び降りて、階段を歩く彼女の白い手を取った。

 少しの間、二人で砂浜を歩いた。

 彼女が疲れないように、ゆっくり、ほんとうにゆっくりと・・・・

 その世界には、うみネコと僕達しか存在しなかった。

 この時、綾香とは初めてまともに手を繋いだ。

 白く細長い彼女の指が、僕の指と絡み合った。

 華奢で少しひんやりとした手は、何故かとても新鮮で、まるで仔兎を抱いているような気持ちになる。

 海から吹く潮風が、片手でかきあげた彼女の黒い髪を大きく揺らしている。

 大きく打ち寄せる波しぶきが、風に乗って微かに二人の頬に触れる。

 防波堤に腰掛けて、流れる時間を二人で感じた。

「ねぇ、ヒロは誕生日に、何が欲しい」

「え、まだずいぶん先だよ」

「判ってるけど、訊いておきたかったの」

「う〜ん。今は何も浮かばない・・・・綾香がいるから、それでいいや」

 僕は、今思ったことを素直に言葉にした。

「そう・・・・」

 彼女は少しだけ寂しそうに笑った。

「じゃぁ綾香は?クリスマス、何が欲しい?」

「う〜ん。まだ先だし・・・あたしも、ヒロがいるから・・・でも、何か一つ願いが叶うとしたら、元気な体が欲しいな。そして、ヒロと旅行に行きたい」

 彼女は笑っていたが、その水平線を見つめる深い海色のような瞳には、寂しさが映り込んでいる。

 底知れぬ深い海のように、寂しく澄んだ彼女の瞳は、瑠璃色ではなく、海色だ。

「じゃ、退院したらまずは、旅行だね」

 僕は、彼女に向かって精一杯明るく言った。

「泊まりがいい」

 綾香が海を見つめたまま言った。

「泊まり?」

「あ、ヒロ今、やらしい事考えたでしょ」

「そ、そんな事ないよ」

 彼女の笑顔が何時もの明るさを取り戻したように見えた。

 塩辛い風に吹かれながら、キスをした。

 彼女の唇は、少しだけ乾いていたが、僕の唾液で潤いを取り戻した。たぶん僕の唇も乾いていただろう。それは彼女の唾液によって、潤った。

 この夢のような時間が永遠に続けばいい。

 このまま時間が止まって全てが無くなっても、こうして彼女と一緒の時間を二人で過ごせるなら、僕は何も惜しくは無い。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ