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海色の瞳  作者: 徳次郎
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【第5話】

 ある日、綾香の病室に向かう途中、一階にある休憩室の前を通った時だ。

 彼女が休憩室の椅子に座ってこちらに手を振っていた。

 僕は、家族の誰かが来ているのかと思い、遠慮気味に彼女に近づいた。

「こんにちはぁ」

 衝立の陰にいた女子高の制服を来た娘が、横からいきなり声をかけてきた。

「あ、学校の友達。ゆかりちゃん」

 綾香に紹介されたゆかりは、大きな目を細めて笑いながら僕に会釈をした。

「あ、俺・・・」

 僕がそう言いかけると。

「皆川ヒロトくん」

 綾香がゆかりに向かって僕を紹介した。

 僕も、笑って軽い会釈をした。

 その後三人で少し話したが、女性二人を相手にするプレッシャーに負けて、僕はその場を後にした。



「この前はゴメンね」

 次に会った時、彼女が言った。

「えっ?」

 僕には最初、意味が判らなかったが、学校の友達が来ていた時の事らしい。

「せっかく来てくれたのに・・・・・」

 僕は全然気にしていないし、むしろ学校の女友達が時々来ていると知って、少し安心したくらいだ。

「全然気にしてないよ。それより、本当に女子高だったんだね」

「あははは、今度、あたしの制服姿も見たい?」

 彼女は、ちょっと挑発的な笑顔で僕に言った。


 病室に彼女を送っていくと、隣のベッドに入っていた大原のオバサンが身支度を整えていた。

「アヤちゃん、元気でね。あなたも早く良くなるといいわね」

 大原さんは、今日退院するそうだ。彼女は綾香の手を握り締めた後、僕の腕を横からパンッとたたいて、

「アヤちゃんを宜しくね」

 と、笑って言った。

 僕は、ただ笑って頭をかくのが精一杯だった。

「オバサンも元気でね」

 綾香は、そう言って病室の外に出ると、大原さんが廊下から見えなくなるまで手を振っていた。




(十月五日)

「あたしも海見たいなぁ」

 談話室で雑談していた時、アイスクリームを食べていた彼女は、突然僕に向かって呟いた。

 彼氏と共に夏の海に行った話を、ゆかりから聞いたらしい。

 僕は、正直困惑した。彼女の前では笑顔を装ったが、多分引き攣っていたに違いない。

 連れて行くのは不可能ではないし、普通なら何でも無い事だ。しかし、この前、少しの間外を連れ回しただけで、彼女は、かなりの体力を消耗していた。

 僕は、しばらくの間、学校にいてもその事ばかり考えていた。

 もともと疎かにしていた勉強は、尚更手に付かない。

 綾香は、気が置けない僕に向かって、なんとなく口に出したのだろうが、普段の閉ざされた生活環境を思うと、願いを叶えてやりたかった。

 何となく口に出した言葉だからこそ、おそらくそれは、彼女の本音だろう。

 僕自身も、出来る事なら彼女と外へ出かけたい気持ちはある。

 その時の僕には、誰に、どう相談していいのかも判らなかった。



「岡本、頼みがあるんだ」

 二時間目が終わった休み時間に、僕は学食で彼に声を掛けた。

「どうしたよ」

 てんぷらうどんをすすりながら、岡本は振り向いた。

「RZ貸してくれ。半日」

 僕は、綾香の事を話した。

 体力の消耗が激しいのに、海へ連れて行けるものかどうか・・・

 うどんを食べ続けながら、僕の話を聞いていた岡本は、

「皆川、連れて行ってやった方がいいかもな・・・・」

と、コップの水を一口飲んで続けた。

「いや、ほら、彼女の願いだろ。叶えてやれよ。俺のバイクなら何時でも貸してやるから」

「でも、病気が良くなってからの方がよくねぇか・・・・」

 僕は、彼女が途中で具合が悪くなったら面倒だと思っていたのかも知れない。

「でも、彼女は今行きたがってるんだろ」

 岡本は、行きたがっている彼女を連れて行けと言う。

 しばらく悩んだ僕は、再び彼女に翼を与える決意をした。

 今度は、より遠くへ飛べる翼だ。

 禁断の風切り翼・・・・・・・岡本にRZ250Rを借りた。

 前日の夜に、バイクを借りる為、岡本の家を訪ねた。

 キーを手渡す岡本は笑って

「ニケツで捕まるなよ」

 この夏に自動二輪免許を取得したばかりの僕は、勿論一年以内に二人乗りをすると違反になってしまう。

 そして、もし違反キップを切られたら、学校に免許と違反の事がばれてしまい、間違いなく停学になる。

 警察から学校に、交通違反の事で連絡が行く事は無いが、生徒指導の担当教師が月に一度、警察へ出向いて生徒の違反者がいないか調べるのだ。

 今までにも、そうやって見つかって停学になった連中を何人も見ている。が、今はそんな事は問題ではなかった。


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