【第2話】
【2】
僕が友達の病院に見舞いに行く回数は、極端に増えた。
「皆川、おまえ最近やたら来ないか?」
「いや、まぁ・・・暇だからな」
僕は、ついでとばかりに岡本の病室にも立ち寄ったが、友人の彼にも彼女の事は内緒にしていた。たいした理由も無いが、何故だか、教えるのが勿体無いような気がしたのだ。
彼の病室は、ナースステーションの在る中央通路を挟んで彼女の病室とは逆側に位置していた為、気付かれずに済んでいた。
それに、岡本はトイレ意外では立ち歩けない安静患者だったし、その後自由に歩き回れるようになるとすぐに退院を希望した。
「かわいい看護婦のネェチャンでも見つけたんだろ」
「そんなんじゃねぇよ」
岡本は、三日に一度は来る僕を不審に思ったが、退屈が凌げて嬉しそうでもあった。
共働きで忙しい彼の両親は、殆ど病院には来ないようだった。
彼女の名前は藤島綾香。市内で最高学力を誇る県立女子高校に通う二年生で、荒くれの工業高校生から見れば高値の花だ。と言っても、二年になった春からこの病院に入院しているらしい。
僕は、彼女の病気に付いては尋ねなかった。
そんなに長い期間入院しているくらいなのだから、簡単な病気ではないだろう。
今にも倒れそうな、彼女のか弱い容姿を見て、訊くのが怖かったのかもしれない・・・・
岡本の肺気胸は、順調に回復して間も無く退院したが、勿論僕は一人で病院に通い続けた。
少しだけ院内を散歩して、休憩室で雑談を交わす。それが、何時もの二人のデートだった。
一階の渡り廊下の途中からこっそり抜け出して、中庭を歩く事もあった。
好きな食べ物に嫌いな食べ物、誕生日、得意な科目・・・・・僕が体育と電気工学実習が得意だと言ったのに対して、彼女は数学と古文が得意だと言った。
さすがは市内一の学力校生徒と言ったところか・・・・それでも、そう言った相反した僕に彼女も好意を抱いてくれた。
彼女の事を少しずつ知っていく僕がいて、僕の事を少しずつ知っていく彼女がいる。
彼女はアイスクリームが大好きだと言ったので、僕はしばしば差し入れに持って行った。しかし、時には両腕に点滴を受ける痛々しい姿に遭遇する事もあり、そんな時は締め付けられるように心が苦しくなった。
心配そうに見つめる僕に、彼女は両腕に針を刺したまま暖かく微笑んだ。




