【第16話】藤島綾香編・9
(藤島綾香編・9)
お盆時期、病院の中は一日中、人の気配が無くなり静けさに満たされる。
重病患者以外、殆どの患者は外泊許可を得て家に帰るのだ。
重病患者は殆ど病室から出歩かない為、人の気配が途絶える。
綾香は、一日だけ外泊して、病院へ戻らなくてはならなかった。
母が病院までタクシーで付き添って来た。
薄暗いロビーを抜けると、エレベーターの前には高校生らしい男の子達が3人待っていた。
二人は完全な茶髪、残りの一人も黒っぽい髪だが完全な黒髪では無かった。
勿論、それは、潮焼けと言っても通用する程度だったが。
「肺気胸ってなんだよ?」
「知らねぇよ。俺に訊くな」
「岡本、タバコ吸わなかったよな」
「俺も、吸ってないぜ」
「関係あんの?」
「さぁ・・・」
3人の男の子達はガヤガヤとそんな話をしていた。
アロハシャツや派手なプリントのTシャツを着ている。
少々ガラが悪そうだが、何処の学校だろう。
まぁ、夏休み中だし最近はこんなものか・・・・
綾香の母親は3人の男の子達を見て、少しだけそんな事を思っていた。
一階にエレベーターが着いて扉が開いた。
茶髪の一人がサッと中へ入ったかと思うと、
「どうぞ」
綾香とその母親を促した。
どうやら、先に入った彼は、待ち人の人数を考えて「開く」の延長ボタンを押していたようだった。
外で待っていた、二人も綾香達を先に促したので、二人は小さく会釈してエレベーターに乗り込んだ。
全員エレベーターに乗り込んだ時
「お前、外の矢印ボタンでも開放延長できるんだぜ」
やや黒髪の男の子が茶髪の彼に言った。
「マジ?・・・先に言ってくれよ、ヒロト」
茶髪の彼は、テレ笑いを浮かべ、もう一人も笑った。
その光景に綾香とその母親も笑いを堪えるのが大変だった。
3人の男の子達も3階で降りるようだったが、勿論、綾香と母親を先に降ろしてくれた。
「ほんと、人は見かけによらないのね」
病室の近くまで来て、母親が笑って言った。
「そんな事言ったら悪いよ」
綾香も少し笑っていた。
「窓開けないと、ここは暑いわね」
母は病室に入ると、直ぐに窓を開けて「ああ、いい風」
お年よりの患者などは、裏山から吹く風が寒く感じるらしく、何時もは気を使っている。
しかし、同室に他の患者がいない今は、好きなだけ窓を開けられるのだ。
「夜、寝苦しくない?」
「もう慣れた」
綾香が笑うと、母親も笑った。
「お母さん、お店戻って。お父さん、一人できっと大変よ」
綾香は気を使ってそう言った。
「そうね・・・・」
綾香の母親は、少し笑って、それでも、それから20分は綾香のベッドの横に腰掛けていた。
4人部屋にいるのは自分一人、そんな病室はこの時期珍しくない。
母が帰って行くと、再び病室は静けさに包まれた。
日中だと言うのに、看護婦の歩く、パタパタという足音が、やけに廊下で響いている。
「来年、百武彗星が・・・」
何となく点けっぱなしのテレビから、そんな言葉が流れていた。
「ヤッホ!」
母親が帰って間も無く、病室の入り口から、ゆかりの笑顔が覗いていた。




