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海色の瞳  作者: 徳次郎
16/21

【第16話】藤島綾香編・9

(藤島綾香編・9)


 お盆時期、病院の中は一日中、人の気配が無くなり静けさに満たされる。

 重病患者以外、殆どの患者は外泊許可を得て家に帰るのだ。

 重病患者は殆ど病室から出歩かない為、人の気配が途絶える。

 綾香は、一日だけ外泊して、病院へ戻らなくてはならなかった。

 母が病院までタクシーで付き添って来た。

 薄暗いロビーを抜けると、エレベーターの前には高校生らしい男の子達が3人待っていた。

 二人は完全な茶髪、残りの一人も黒っぽい髪だが完全な黒髪では無かった。

 勿論、それは、潮焼けと言っても通用する程度だったが。

「肺気胸ってなんだよ?」

「知らねぇよ。俺に訊くな」

「岡本、タバコ吸わなかったよな」

「俺も、吸ってないぜ」

「関係あんの?」

「さぁ・・・」

 3人の男の子達はガヤガヤとそんな話をしていた。

 アロハシャツや派手なプリントのTシャツを着ている。

 少々ガラが悪そうだが、何処の学校だろう。

 まぁ、夏休み中だし最近はこんなものか・・・・

 綾香の母親は3人の男の子達を見て、少しだけそんな事を思っていた。

 一階にエレベーターが着いて扉が開いた。

 茶髪の一人がサッと中へ入ったかと思うと、

「どうぞ」

 綾香とその母親を促した。

 どうやら、先に入った彼は、待ち人の人数を考えて「開く」の延長ボタンを押していたようだった。

 外で待っていた、二人も綾香達を先に促したので、二人は小さく会釈してエレベーターに乗り込んだ。

 全員エレベーターに乗り込んだ時

「お前、外の矢印ボタンでも開放延長できるんだぜ」

 やや黒髪の男の子が茶髪の彼に言った。

「マジ?・・・先に言ってくれよ、ヒロト」

 茶髪の彼は、テレ笑いを浮かべ、もう一人も笑った。

 その光景に綾香とその母親も笑いを堪えるのが大変だった。

 3人の男の子達も3階で降りるようだったが、勿論、綾香と母親を先に降ろしてくれた。


「ほんと、人は見かけによらないのね」

 病室の近くまで来て、母親が笑って言った。

「そんな事言ったら悪いよ」

 綾香も少し笑っていた。

「窓開けないと、ここは暑いわね」

 母は病室に入ると、直ぐに窓を開けて「ああ、いい風」

 お年よりの患者などは、裏山から吹く風が寒く感じるらしく、何時もは気を使っている。

 しかし、同室に他の患者がいない今は、好きなだけ窓を開けられるのだ。

「夜、寝苦しくない?」

「もう慣れた」

 綾香が笑うと、母親も笑った。

「お母さん、お店戻って。お父さん、一人できっと大変よ」

 綾香は気を使ってそう言った。

「そうね・・・・」

 綾香の母親は、少し笑って、それでも、それから20分は綾香のベッドの横に腰掛けていた。

 4人部屋にいるのは自分一人、そんな病室はこの時期珍しくない。

 母が帰って行くと、再び病室は静けさに包まれた。

 日中だと言うのに、看護婦の歩く、パタパタという足音が、やけに廊下で響いている。

「来年、百武彗星が・・・」

 何となく点けっぱなしのテレビから、そんな言葉が流れていた。

「ヤッホ!」

 母親が帰って間も無く、病室の入り口から、ゆかりの笑顔が覗いていた。



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