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海色の瞳  作者: 徳次郎
14/21

【第14話】藤島綾香編・7

(藤島綾香編・7)


「木村慎二くん?」

「キミは・・・・」

「大崎ゆかりです。前に一度」

「ああ、綾香の友達の」

 ゆかりは、以前の綾香の彼氏だった、慎二の学校の前に来ていた。

 男子高の為、校門を出て来る生徒は、みんな彼女と慎二を視界に収めて行く。

 それが、少し鬱陶しいように慎二は

「どうしたの?」

「アヤが、入院してるんです」

「あぁ・・・・噂で聞いた。春からずっとなんだって」

「一度くらい、お見舞いに行ってあげてください」

 ゆかりは、慎二の目を真剣に見つめた。

「でも、俺、もう関係ないし・・・・別れて一年も経つんだぜ」

 ゆかりの視線から慎二は目をそらした。

 綾香が好きだった男。それが、今、こんな態度を見せる事が、ゆかりは悲しかった。

「そんな・・・中学からの付き合いだったんでしょ。お見舞いくらい」

 ゆかりは、唇をかみ締めた。

「俺が行ったからって、どうにもならないんだろ」

 慎二は俯き加減で言った。

「どうにもって、どう言う意味?」

 ゆかりはキッと睨んだ。

「いや、とにかく・・・関わりたくないんだ。じゃぁ、俺、約束があるから」 

 慎二はそう言って、自転車のペダルを踏んで、ゆかりの前から消えて行った。


     * * * * * * *



 何もしない、何処にも行かない夏は足早に通り過ぎようとしていた。

 それが、綾香にとって、長いのか、短いのか、それすら測る目安は無かった。

 毎日同じ時間に起きて、決まった時間に3食の食事をとって、同じ時間に眠る。

 検査の時間意外は、ほとんど自由だったが、出来るだけ立ち上がって動き回る事はせず、安静にするよう言われていた。

 花火大会の日、空気を振るわせる打ち上げ花火の音だけが病室に聞こえてきて、余計に切ない気持ちになった。

「去年の夏は、ゆかりと浴衣を着て、花火を観に行ったっけ」

 何となく、呟いた。

 綾香は、静かに目を閉じて、ドンッ、ドンッと胸に響く音を聞きながら、些細な想い出に浸っていた。

「アヤ」

 小さな声に呼ばれたが、最初、綾香は空耳だと思った。

 就寝時間ではないが、隣のベッドのカーテンは閉められていて、綾香のベッドも、半分カーテンを引いていた。

「アヤ」

 その小さな声は、気のせいではないようだ。

 綾香はゆっくりと頭を持ち上げた。

 ゆかりが立っていた。

「面会時間終わっちゃったよ」

 綾香は言った。

「大丈夫でしょ、少しくらい」

 ゆかりは、手に持っていた小さなビニール袋を見せて笑った。

「何?」

 それは、縁日で取ってきた小さな金魚だった。

「今年はあたしも取れたよ」

 ゆかりは子供のような笑みで言った。

 綾香は、ゆっくりと起き上がると、ゆかりと一緒に近くの休憩ロビーまで歩いた。

「病室じゃ、金魚なんて飼えないよ」

「それぐらい判ってるよ」

「花火、観に行ったんじゃないの?」

「観たよ。途中まで」と、ゆかりは笑って

「アヤに金魚見せてやろうと思ってさ」

 ゆかりは、彼氏を外に待たせて、お祭りの夜に一人でいる綾香に会いに来たのだった。

 花火のラストを飾る、ナイアガラとスペシャルスターマインを観れずに、ゆかりの彼氏は少しだけ不機嫌になったが、ゆかりにとって、今は綾香の方が大切だった。

 それに、彼氏自身も、そんな友達思いのゆかりが好きなのだ。

「今年は浴衣着なかったの?」

「一人で着てもつまんない」

 ゆかりはそう言って「はい、差し入れ」

 もう一方の手に持っていたコンビニの袋からハーゲンダッツのアイスを取り出して、綾香に渡した。

「なんか、溶けかけてる・・・」

 二人で、アイスを食べながら笑った。

 スペシャルスターマインの連続して打ち上げられる音が、窓の外に見える暗闇を震わせていた。

 綾香は、ゆかりの持って来た金魚の入ったビニール袋を指で突いて

「ありがとう、ゆかり」

 ゆかりは、スプーンを咥えたまま、少しだけ照れた笑いを浮かべた。

 涙が込み上げて来たが、うまく堪える事ができた。



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