【第13話】藤島綾香編・6
(藤島綾香編・6)
年が明け、季節は冬を通り抜け、春までも追い越そうとしていた。
「ゆかり」
「何?何か、欲しいものある?」
「あたし、卒業できないかもしれない・・・・」
その言葉、その表情はあまりにも無機質で、ゆかりは一瞬、血の気が引いた。
「何言ってるの?半年や一年学校休んだって平気だよ。一緒に大学行こう」
綾香は病室のベッドで小さく肯いた。
その微笑みは、何処か力無いもので、綾香の白い顔を強調させた。
「あたしは、どうせ一浪するから、ちょうどいいかもね」
ゆかりは、わざとおどけるように言って笑うと、綾香もつられて笑った。
昨年の夏以降、通院を続けていた綾香だったが、貧血や眩暈の症状は悪化する一方で、学校でも何度も倒れた。
日常生活に支障をきたした為、二年生になって直ぐ、彼女は総合病院に入院する事になった。
少し、長い治療になりそうだ。そう医師からは伝えられた。
やはり、殆どをベッドで過ごすのがいいのか、学校へ通っている時よりは身体の調子は回復していった。
最初の頃は、クラスの友達や、部活の仲間など、毎日のように見舞いの客が来て、病室は賑やかだったが、月日が経つと、まるで忘れられたかのように、来客は減っていった。
定期的に来るゆかり意外は、時々クラスメイトが訪れるだけだった。
入院が長いと、そんなものなのだろうが、一日中の殆どをベッドで過ごし、建物からも殆ど出ない 綾香の生活は、体調の良し悪しに関わらず、気力を奪い去った。
月に一回、外泊許可を受けて、一時帰宅する事があるが、長い時間立って歩き回ると、途端に動悸と眩暈に襲われた。
春から夏の陽気に、季節は変わろうとしていて、窓から入る風は、日に日に暖かくなってゆく。
そんな季節の移り変わりが、こんなに切なく感じたのは、綾香にとって初めての事だった。
それでも、励ましてくれるゆかりの為にも負けたくない。そんな気持ちが綾香の中にはあって、それは、本来の明るい彼女の性格をかろうじで維持する活力になっていた。
「じゃぁ、明日から試験だから、あたし、そろそろ行くね」
「ありがとう、ゆかり。赤点取らないでね」
綾香は穏やかに微笑んでいたが、そこに、生命の気は僅かしか感じられなかった。
自分より少しだけ小さい綾香の身体が、やたらと小さく見える。
「はいはい、一応、頑張るよ」
ゆかりは笑顔で手を振って病室を出ると、階段の所まで足早に歩いた。
走りたかったが病院内だから、そう言う訳にはいかない。
階段まで持ちそうも無かった。
目の前のトイレに駆け込み、個室のドアを閉めて鍵をかけた時、涙は彼女の頬を伝っていた。
「アヤ・・・良くなるよね・・・・・」
ゆかりはドアにもたれ掛り、外に声が漏れないようハンカチで口を抑えて、声を押し殺して涙に咽た。




