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海色の瞳  作者: 徳次郎
12/21

【第12話】藤島綾香編・5

(藤島綾香編・5)


 初めてその症状が現れたのは、夏の合宿の時だった。

 朝からがむしゃらに照りつける太陽は、あっという間に真夏日の気温へと大気を熱していた。

 晴れ渡る空の彼方には、入道雲が背伸びをしている。

 校舎の外れに、合宿や会合?の為の会館が在る。

 シャワーやキッチン、布団も常備している為、寝泊りはそこで行うが、練習は音楽室と空き教室を使う。

 春、秋ごろは屋上で練習する事もあるが、この炎天下では忽ち全員がダウンするだろう。

 教室の窓を全開にしても、生温い風が吹き抜けるだけで、いっこうに涼しさは感じられない。

 綾香は、この日、朝から体調が良くなかったが、初めての合宿の疲れだろうと思っていた。

 暑いのはみんな同じ。自分だけ、休んで涼む訳にはいかない。

 しかし、合宿の疲れにしては、彼女の血圧は下がりすぎていた。

 この頃になると、合奏のパートも在る程度決められ、一年生も混ざって演奏をする曲がある。

 肺活量を要して息を吐き続ける楽器の演奏は、綾香の体調を悪化させていた。

 綾香は、目の前がグラグラと揺れるのを感じた。

 おそらく、揺れているのは景色ではなく、綾香本人だったのだろう。

 既に譜面は読み取れなかった。

 視界が狭まり、目に映るものが白黒写真のように色を失った。

 そして突然真っ暗な闇に包まれた。

 ダンッ!

「きゃっ」ガラガラッ・・・

 腰掛けていたにも関わらず、綾香は前のめりに倒れた。

 彼女はフルートを担当していた為、持ち物は小さかったが、綾香が前のめりに倒れた時、前に座っていたトロンボーン奏者の娘もいっしょにひっくり返ったのだ。

 声をあげたのは、トロンボーン奏者の娘だった。

 演奏に夢中だったみんなは、何が起きたのか一瞬、判らなかった。




「アヤ!」

 バタバタと保健室に駆け込んできたのは、ゆかりだった。

「ああ、ゆかり。学校、来てたの?」

 綾香は保健室のベッドでおっとりと微笑んだ。

「うん。英文のレポート出しに来た所。アヤ、平気?」

 ゆかりは、何時に無く、心配そうな顔だ。

「大丈夫。多分、貧血ね。この暑い中、そんなに走って、顔が汗だくよ」

 綾香の笑顔は穏やかだった。

 とりあえず、ゆかりは一息ついて、ハンカチで汗を拭った。

 校舎の影に位置する保健室の窓からは、心地よいそよ風が流れ込んで、白いカーテンを揺らしていた。


 綾香は、結局、合宿を途中で断念し、自宅へ帰る事になった。

 そして、翌日になっても起き上がれなかった彼女は、母親の勧めで病院へ検査に行った。



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