【第10話】藤島綾香編・3
(藤島綾香編・3)
朝から降り続く雨は、午後になっても止まなかった。
学期末考査が間近な為、今日から一週間部活は休みになった。
「部活が休みの時くらい晴れてくれりゃいいのにね」
ゆかりが愚痴る。
雨の日は、ゆかりは電車を利用する。
帰りの駅まで付き合って、綾香も駅のひさしの前で立ち話。
綾香は雨でも自転車で来るので、ゆかりを見送ったら自転車に乗って帰るのだ。
「しょうがないよ」
綾香は笑って応えた。
「ねぇ、アヤ。映画でも観に行こうか」
「これから?」
「うん。今から」
「試験、明後日からだよ。あたしは、いいけど・・・」
と、ゆかりを見つめる。
「だって、アヤとはなかなか遊ぶ時間ないし。大丈夫、別に、赤点取ったからって死ぬわけじゃあるまいし」
突然、ドンッと、綾香に誰かがぶつかってきた。
「キャッ」
「あ、ごめん、大丈夫?」
ふざけ合っていた詰め襟の男子学生が、綾香にぶつかったのだ。
「あ、平気」
綾香は、よろけた自転車を抑えて言った。
「ごめん、見てなくて。何処も汚れなかった?」
「うん、大丈夫よ」
意外と素直に謝る相手に、綾香は何となく微笑んだ。
男の子は綾香から離れると、
「お前、こんな所で押すなよ」
一緒にいた連れを睨んだ。
「あれ、工業高校でしょ。なんか、危険だよね」
ゆかりが、駅へ入っていく男子高校生を目で追って言った。
「そう?何か、優しそうだったよ」
綾香はそう言って微笑む。
それを見たゆかりは
「アヤ・・・・あんた、男に餓えてんじゃない?」