お隣さん
働いていた頃は気にもしなかったことだ。
僕はマンションの二階の角部屋に住んでいる。
お隣に住んでいるのは、外国人の若い夫婦だ。
夫は朝早くから出かけ、夜遅くに帰ってくる。
妻は買い物に行く以外、ほとんど外に出ない。
子どももいないので比較的静かで、しかし面識のない夫婦である。
何でそんなに分かるかって?
無職ですから。
ご近所付き合いなんて、このご時世あってないようなものだ。
回覧板も回ってこないし、話したこともない。
それでもケンカしている声を聞いたことは一度もないあたり、仲の良い夫婦なんだろうと思っていた。
どう思われているんだろうか。
やはり無職の身からすれば、他人にどう思われているのかは常日頃から気になるところだ。
奥さんなんていつも家にいるから、僕が働いていないことくらい薄々気づいているのかもしれない。
「ちゃんと暮らしていけてるのかしら」
「お金の心配はないのかしら」
そんなふうに、赤の他人から勝手に心配されているかもしれないと思うと、何だか情けない気持ちになる。
それでも無職を貫ける精神こそ、無職であり続けるために必要な資質なんだと、最近知った。
日本語じゃないから何を話しているのかはわからない。
それでも、窓を開ければかすかに聞こえてくる二人の会話は、いつも穏やかだった。
普通に働いていたら。
普通に結婚していたら。
僕もあんな家庭を築けたのだろうか。
そんなことを考えてしまうくらいには、少しだけ羨ましかった。
つい最近、その声が聞こえなくなった。
外から様子をうかがってみると、どうやら引っ越してしまったらしい。
今度来る人はどんな人だろうか。
ちょっとした楽しみができた今日この頃。
入居者募集中。




