ヒーロー
ヒーローになりたい。
それが僕の幼い頃の夢だった。
物語に出てくるような派手なヒーローなんかじゃなく、困っている人を見かけたら一緒に手伝ってあげられる、今思えば先生のような存在になりたかった。
ついでに超能力か何かも欲しかった。
学生、と言っても小学生の頃の話だから、今はそんな夢が叶わないことくらい分かっている。
金にならないし、お礼も結局は口だけ。
物語を現実風に捉えればそんなものだ。
それでも誰かを助けられる人間に、僕はなりたかった。
なんてことを考えながら授業を受けている。
給食の後の授業なんてすごく眠くて退屈だけど、一応優等生で通しているからサボりはしない。
話半分に聞きながら、あれやこれやと妄想を膨らませていた。
そんな時、静寂を切り裂くような叫び声が廊下にこだました。
一瞬で教室はパニックになり、僕が密かに思いを寄せていた田中さんも怯えている。
何が起きたのか分からないまま数分が経ち、廊下を走る誰かの足音が聞こえてきた。
ガラガラと教室のドアが開かれ、その奥に包丁を持った黒いフードの男が見える。
「そんなことさせません!」
いつもは頼りない担任の正野先生が大声を上げながら、その男に飛び掛かる。
勇気は立派だが、それでは無謀だ。
先生が男の凶刃に敗れ倒れるのを、僕は冷静な目で見ていた。
普段は見ることのない大量の血に、誰もが怯え立ちすくむ中、この僕が立ち塞がる。
「次はお前だ!」
そうテンプレみたいなセリフを吐きながら包丁を手に突進してくる男をひらりとかわし、すれ違いざまに拳を数発腹へ叩き込む。
「この程度か……」
呆気のなさに少々驚きながらも、そこらにあった縄で男を縛り上げる。
後ろを見ると、クラスメートが歓声を上げ、互いの無事を喜び合って泣いていた。
田中さんも、尊敬の眼差しでこちらを見ている。
今ならいける。
そんな下心を抱きながら、田中さんに話しかけようとして...
目を開けると、見慣れた天井があった。
まともになりたい。




