第一話 暗闇の中で
私は生まれたときから暗闇の中にいた。
どれほど目を凝らしても、何も見えない。
もっとも、私には目がない。
だから「見えない」という表現が正しいのかどうかも分からなかった。
ただ、そこに暗闇があることだけは知っていた。
周りには同じような仲間たちがいた。
互いの姿は分からない。
けれど近くにいることは感じられる。
狭い場所だった。
身体が少し伸びるたびに、誰かと触れ合う。
押し合いながら、支え合いながら、私たちは少しずつ成長していった。
不思議なことがある。
私は光を見たことがない。
それなのに、身体の奥底で何かが囁くのだ。
上へ行け。
もっと上へ。
と。
誰が言っているのか分からない。
なぜ上なのかも分からない。
そもそも「上」とは何なのだろう。
だが身体は迷わない。
私が考えるより先に、少しずつ伸びていく。
周りの仲間たちも同じだった。
みんな同じ方向へ向かっていた。
誰も命令していない。
誰も見たことがない。
それなのに。
「なあ。」
ある日、隣から声がした。
「光って、本当にあると思うか?」
私は答えられなかった。
光という言葉は知っている。
だが、それが何なのかは知らない。
「みんな光を目指してるって言うけどさ。」
その声は続けた。
「誰も見たことないんやろ?」
私は少し考えた。
確かにその通りだった。
ここにいる誰一人として、光を見たことがない。
それでも誰も疑わずに伸び続けている。
それはなぜなのだろう。
「分からない。」
私は正直に答えた。
「でも。」
「でも?」
「身体が知ってる気がする。」
隣のもやしはしばらく黙った。
やがて小さく笑う。
「変なやつやな。」
そう言って、また少しだけ伸びた。
私も伸びた。
暗闇は相変わらずだった。
何も見えない。
何も分からない。
けれど身体の奥では、あの声が今も囁いている。
上へ。
もっと上へ。
その先に何があるのかは知らない。
光が本当にあるのかも知らない。
それでも私は伸びる。
知らないからこそ。
信じるしかないからこそ。
暗闇の中で、私は今日も少しだけ上を目指していた。




