生存者の少女
「助けるのが遅いじゃない!」
馬車に取り残された少女は、ぷりぷりと文句を言いいつつ壊れた馬車から降りてきて頭を下げた。
歳は俺よりもひとつふたつ若そうな、金髪色白の少女だ。
「私は侯爵令嬢のアイラ・モルタール。モルタール家の名を冠して今回の救助に感謝しますわ」
侯爵令嬢だけあって腹が立っていても礼節だけは欠かさないみたいだ。
するとソニアが空気を読まないことを言い出した。
「そんなお礼はいいから、報酬をくださいよ」
少女は思いっきり視線を逸らした。
これは……謝礼を払わないでバックレる気だな。
俺もソニアに援護射撃だ。
「そうです。俺たちは死ぬ気で頑張ったんです。腹が満たされるぐらいの謝礼は貰っても非礼には当たらないと思います」
アイラは申し訳なさそうにポツリと言った。
「ないわ」
「無いってなにが?」
「謝礼よ」
「謝礼が無いだと?」
少女は声を荒げた。
「だって仕方ないじゃない! 馬車の御者はサイクロプスを見たら金目の物を持ち逃げしちゃうし、専属執事はサイクロプスに立ち向かったら食べられちゃったんだから。使いの者が来るまで待ってなさい」
結局ただ働きかよ。
どうやら、この自称文無しお嬢様が本当にお貴族様の娘なのかも少し怪ししくなってきた。
俺たちは思いっきり肩を落とす。
まあ俺たちの倒したグレートサイクロプスは賞金首で冒険者ギルドから報奨金が僅かでも出るだろうからそれで我慢するしかない。
俺たちは町に戻り、冒険者ギルドでグレートサイクロプスの報奨金が予想以上に出ることを知った。
ライムさん曰く、「Aランクパーティー基準の報酬ですからね」ということだった。
前祝いで酒場で打ち上げをしようとしていたら、少女がついて来ているのに気が付いた。
「なんで俺たちについて来てるんだよ?」
「だってこんなド田舎じゃ知り合いなんてあんたたちしか居ないし、お金も小銭しか持ってないし……ひっく」
少女が泣きそうになると、通行人の視線が痛いほど刺さる。
「なにあの男、女の子を泣かせてなにしたのかしら?」
「あいつはチカンするるの奴じゃないか!」
「衛兵に連絡よ! 衛兵さーん!」
このままじゃ変質者として衛兵に捕まってしまう。
俺は大慌てで少女をなだめた。
「わかった! わかったから泣くな!」
俺は仕方なしに少女の面倒を見ることにした。
取り敢えず宿屋に連れて行く。
馴染みのおかみさんが俺に話し掛けて来た。
「サイクロプスを倒したそうじゃないか。町中で話題になってるよ」
「サイクロプスじゃねーよ。上位種のグレートサイクロプスだよ」
「ほえー!」
おかみさんは驚きのあまり腰を抜かしていた。
ぎっくり腰にならないことを祈るのみ。
俺はアイラに聞いてみた。
「お金は全然持ってないんだろ?」
「小銭を少ししか持ってない」
仕方ない、宿代の足りない分は俺が出すしかないな。
今は懐が温かいからいいけど、早くアイラを親元に届けないと俺の財布の中身がピンチだ。
少女が持っていた奇麗な財布の中身を見たら金貨が20枚入っていた。
なにこの大金!
「大金持ちじゃねーか!」
これが小銭と言うならば俺は小銭未満で暮らしていることになる。
でも少女は当たり前のように言う。
「これじゃなにも買えないわよ」
「いや、なんでも買えるだろう。少なくとも一ヶ月は遊んで暮らせるぞ」
「そうなの?」
アイラの顔が急に明るくなった。
俺はアイラの部屋を取って食堂へ向かう。
もちろんアイラもついてきた。
「おかみさん! 上手いメシを3つ頼む、超大盛でな!」
「はいよ」
アイラが心配そうな顔をする。
「そんなに頼んで大丈夫なのか?」
「大丈夫です。ここの宿屋は大盛で美味しいのに安くていんです」
「ソニアの言うように、金貨1枚で3人分の大盛を食ってもお釣りがくるぞ。しかも宿屋の宿泊付きだ」
「そんなに安いのか?」
「うんうん」
「今日はアルクとソニアに色々世話になったから、私の奢りだ。お前たちも遠慮せずジャンジャン頼むんだ」
「やったー!」
俺たちはアイラの奢りで食いまくった。




