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加護詐欺王子とは言わせない〜実は超絶チートの七転八起人生〜  作者: 如月 玲
第3章 策謀、紛争、ついでに縁談

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(17)内通

「やっぱりだな……。当たって欲しくない予感ほど、当たるものですよねぇ……」

「ディロス? なにか気になる事があるのか?」

 嫌な予感を覚えながら、カイルが声をかける。するとディロスはうんざりした表情で言葉を継いだ。


「この二人、どちらも知っています。以前、ムスタ城内に商品を持ち込んで備品担当者と世間話をしている時、クレート伯爵とマークス・デルモナを目撃した報告をしましたが、覚えていらっしゃいますよね?」

「ああ、覚えている」

「その時にこの二人が、クレート伯爵の周辺にいました。さり気なく担当者に聞いてみたら、あそこの騎士団の団長と、あそこの城の運営管理責任者でしたよ」

 そこでカイルが何か口にする前に、部屋中の列席者から一斉に驚愕の叫び声が上がった。


「何だと!?」

「ディロス! お前それ、本当か!?」

「事は重大だぞ! 後で間違えただなんて言わないよな!?」

「間違いないと断言できます。そんな二人が雁首揃えて、ヴォール男爵領訪問ですか。きな臭さしか感じませんねぇ」

「…………」

 皮肉っぽくディロスが告げると、その深刻さにその場に居合わせた殆どの者が顔色をなくして黙り込んだ。その気まずい沈黙の中、カイルが冷静に推測を口にする。


「順当に考えれば、クレート伯爵とヴォール男爵が手を組んで、ここを挟み撃ちにでもするつもりか」

「そんな物騒な話ではなく、単にお二人の趣味嗜好があって意気投合して、純粋に交流を深めているだけかもしれませんけど」

 全く信じていない口調でそんな事を言い放ったディロスに対し、アスランが苦々しげに苦言を呈する。


「ディロス。くだらん冗談は止めろ」

「冗談の一つも口にしないと、やってられませんよ。連中は嬉々として、このトルファンを二分割する試案を練っているんじゃないですか?」

「身も蓋もないな」

「冗談を止めろと言ったのはアスランさんです」

 ディロスが素っ気なく言い返すと、ここで普段冷静沈着なダレンが、珍しく苛立った口調で愚痴を零す。


「タイミングが悪いな。バルザック帝国相手に一揉めしそうな気配だから、仮に王都に応援を要請しても一蹴されるだろうし」

「なんですか、それは?」

「欲の皮の突っ張ったリステアード侯爵が、帝国内のマイラン伯爵領にちょっかいを出す気満々で、国王陛下も水面下で後押しするらしい」

「正気ですか?」

「そんなの、宰相閣下が許可する筈がない」

 寝耳に水の列席者が戸惑いの声を上げると、ここでダレンが予想外過ぎる事を告げた。


「昨日知らせが来たが、ルーファス様は宰相位を降りた。もっと正確に言えば、罷免させられたそうだ。今現在、屋敷に軟禁状態になっておられるはずだ」

「なんですって!?」

「ダレン!! それは私も聞いていないぞ!!」

「…………」

 室内で最も狼狽した叫びを上げたのはカイルであり、他の者は一様に押し黙って主君の様子を見守った。その場に緊張感が満ちる中、ダレンが淡々と説明を続ける。


「カイル様には頃合いを見て、詳細を手紙で知らせるとのことでした」

「それまで黙っていろと!? ダレン‼︎ お前は誰の家臣だ!!」

「……申し訳ありません」

 基本的に温厚なカイルの、滅多に見せない激昂ぶりを目の当たりにした列席者は、どうなる事かと固唾を飲んだ。そこでダレンが自らの非を認めて謝罪すると、まだ憤慨している気配を醸し出しながらも、カイルが怒りを鎮めつつ命じる。


「もういい。今後は勝手に情報を止めるな。必ず、私に上げろ」

「了解いたしました」

 そんなやり取りをしている二人を眺めつつ、そこから一番離れた席でエディとディロスが囁き合った。


「普段穏やかな人がキレると、並の人間よりはるかに怖いな」

「穏やかなだけの人間なんて、いるはずありませんしね……」

「やれやれ。本格的に、二正面作戦を考慮しないといけなくなりそうですな。これは骨が折れる」

 ここでサーディンが目下の懸案事項を口にしたことで、一気に室内が騒がしくなった。


「俺達がエンバスタとの国境付近で揉めてる間に、向こうと示し合わせて攻め込んで来るって腹積もりか……」

「そして上手く事が済んだら、王都には『侵攻を受けたフェロール伯爵の要請を受けて応援に駆け付けましたが、あまりにも早くフェロール伯爵麾下の騎士達が壊滅し、トルファンの半分を保護するだけで精一杯でした』とか報告して、和平交渉に持ち込むつもりだな」

「どこまで虫の良い事を考えていやがる」

「もっと腹が立つのは、そんな荒唐無稽な話を王都の馬鹿どもが鵜呑みにするだろうって事だがな」

「皆さんがお腹立ちになるのは尤もですが、そこまで深刻に考えなくても良いと思います」

 軽い口調で議論に加わったディロスに、その場の武官達が苛立たしげな視線を向ける。


「なんだと? お前、他人事みたいに言うな」

「ちゃんと自分事として捉えていますし、その上で、二正面作戦というほどヴォール男爵領側に兵力を割かなくても良いと思います。エンバスタ側でもこの国の領土を楽にもぎ取れる絶好の機会として、王都からムスタに援軍を送り込む筈です。できるだけそちらに兵を動員しないと駄目でしょう?」

「それは確かにそうだがな」

「だから、頭を抱えているんじゃないか」

「だ か ら 、この城に騎士を三百人残しておくだけで十分だろうと言っているんです」

「…………」

 ディロスが真顔で断言した内容を聞いた者達は、一瞬何を聞かされたのか分からないような表情になった。しかし次の瞬間、一斉に怒りの声が湧き上がる。


「おまっ!」 

「馬鹿も休み休み言え!」

「戦場は子供の遊び場じゃ!」

「黙れ‼︎」

「…………」

 収拾がつかなくなりかけた喧騒を、サーディンが一喝して黙らせた。そして殺気さえ漂わせながら、ディロスに問いかける。


「ディロス。今の発言の意図を確認したい。騎士を三百人のみでは、攻め込まれた場合にこの城を防御するのが精々だ。反転攻勢をするのは勿論、援軍を期待できないなら早々に陥落する可能性もある。幾ら本職ではないとはいえ、それくらいの判断ができない君ではないと思うが」

 流石にこの場で軽口など叩けないと理解しているディロスは、真剣な面持ちで話を続けた。


「勿論、僕も分かっています。その人数で、真っ当な攻防戦に持ち込むつもりはありません。不可能です」

「そうだな。そうなると、どういう事だ?」

「非常時ですから、使えるものはとことん使おうかと思います」

「使えるものとは?」

 サーディンが怪訝な顔になったが、ディロスはそんな彼から、この間全く発言せずに事の成り行きを見守っていた人物に視線を向ける。


「というわけだから、シーラ姉さん。今回、色々面倒かけると思うけど、非常時だからよろしく頼むよ」

 直前の深刻極まる会話からは一転し、どこか気楽ささえ感じる物言いに、他の面々は唖然としながらディロスに指名されたシーラに視線を向けた。







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