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加護詐欺王子とは言わせない〜実は超絶チートの七転八起人生〜  作者: 如月 玲
第3章 策謀、紛争、ついでに縁談

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(7)内偵の成果

「それにしてもあの雨具、本当に優れものですよね。雨の中出歩いても、全くと良いほど濡れませんし。向こうに持って行った時、当初は周りから眉唾物に見られていましたが、僕が平気で雨の日も歩き回っていたら噂が広がって売れに売れました」

「そうか。確かに領内で使い出した時も皆にかなり怪しまれたが、どうしても雨の日にしなくてはいけない農作業や土木工事の時に、重宝されているようだな」

 背負っていた荷物を下ろしながら、ディロスがしみじみとした口調で報告する。それにカイルも頷いてみせた。


「本当にダレンさんの判断は凄いですよね。物質に水をはじく性質をつけさせる加護なんて浴室とか厨房とかの他にどこで使うんだと思ったら、まさか布にその性質をつけて、防水布にしてしまうなんて。僕は考え付きませんでしたよ」

「それで?」

 そのまま延々と続きそうなディロスの話を遮るように、ダレンが短く話の続きを促す。するとディロスは、何故か薄笑いの表情で思わせぶりに告げた。


「本当に、重宝しますよね。雨の中での農作業とか、土木工事とか……、行軍とかの時に」

「……なるほど」

「ほう?」

 それを聞いた途端、カイルは笑みを消して考え込む。しかしダレンはある程度予想していたのか、冷静に目線だけで詳細について尋ねた。それにディロスは真顔で応じる。


「僕がこの見た目ですから、『お前のような子供は下請けの行商だから大した量は準備できないだろうが、上の元締めに話を持ちかけたら五百着くらい準備できるか?』と役人っぽい男が気安く声をかけてきました。だから子供らしく『う~ん、無理じゃないですかね~。原材料は大してかかっていないのでこの値段で売っていますが、布に特殊な加工をしているのでなかなか作れないんですよ』と言ってやりました」

「相手はそれで諦めたのか?」

「そこですんなり諦めれば話は終わりですが、『加工する技術者や作業場を増やせば良いだろう? 必要なものはこちらで準備すると言ったらどうだ?』とか食い下がりましてね」

「それはそれは熱心な事だな。それでどう答えたんだ?」

 苦笑気味にダレンが感想を述べると、ディロスが白々しく言ってのける。


「『誰が作っているか詳しい事は知りませんが、元締めの知り合いが家族単位でこつこつ作っているみたいです。加工法は自分達で見つけたから他に知られたくないし、どうしても縫い目から水がしみ出して完全な防水とは言えないから、作れる分だけ作って安い値段で売るって。要はどうしようもない偏屈で頑固な人って事でしょうね。ですからこっちに移住なんて無理だと思いますよ?』と言っておきました」

「それで引き下がったと?」

「少々悪態を吐きましたがね。取り敢えず、その場で僕が持っていたのを全部買い上げていきました。その他にも、それまでに僕がムスタ領内で売った物を、見つけ次第強引に買い上げているみたいですね。何度も行き来しているうちに、以前買ってくれた人から『騎士達に力づくで取り上げられた』と何度か聞きました」

「随分、なりふり構わなくなってきたな」

「そうなると向こうは、雨が多い時期の侵攻を狙っているのか?」

 ダレンの呆れ気味の口調に続き、カイルが真剣な表情で問いを発する。ディロスは難しい顔になりながらも、正直に報告した。


「収穫期ではないだけマシですが、足場は悪くなりますよね。一応トルファンとムスカ間の経路はあらかた踏破して、周囲の状態を含めて頭に入れておきました」

「ご苦労。当然、それだけではあるまいな?」

 すかさず突っ込みを入れてきたダレンに、ディロスは若干うんざりした様子で報告を続ける。


「ダレンさん、本当に人使いが荒いですよね……。ちゃんと防水雨具の売り込みに、ムスタ城まで出向きましたよ。例の役人と繋ぎをつけて取り敢えず五十着持ち込んで、しっかり代金を貰いました。幸運な事に、そこで遠目にマークス・デルモナを確認しました。あの騒動の時、僕は表には出ていないかったので向こうはこちらを知らないでしょうが、城から追放される時にあの人の顔はしっかり確認していましたので間違いありません」

「他には?」

「マークス同様、見覚えのある顔が幾つか。その彼らが、ムスタ領主のクレート伯爵と歩きながら談笑していました」

「…………そうか。ご苦労だった」

 短い期間、形式上の部下にすぎなかったにせよ、れっきとしたこの城の防衛責任者であった人物があっさりと敵対国に寝返っていた事実に、カイルは憮然とした表情で短くディロスの労をねぎらった。するとダレンが、冷静に確認を入れてくる。


「どうしてその人物が、クレート伯爵その人だと分かった?」

「一緒にいた役人に『あの気品と貫禄を併せ持った方は誰ですか? うちのトルファンのご領主様は、王族からつまはじきになっただけに貧相この上なくて。あんな立派な方がうちのご領主様でしたら、他のところで自慢できるんですけどね』としみじみとした口調で言ってやったら、『あれはうちのご領主様だ』と嬉々として教えてくれました」

「…………」

「言いたいことが幾つかあるが、取り敢えず置いておこう。それで?」

 カイルは思わず無言になったが、ダレンは素っ気なく話の続きを促した。


「その役人が『そう悲観するな。そう時間がかからずに、お前も立派なご領主様が持てるさ』とほざきまして。分かっていない子供のふりで『そうなんですか。そうだった嬉しいです』と愛想を振りまいて、追加注文を受けてきました」

「そうか……。どうやら連中の頭の中では、近々トルファンはクレート伯爵の領地になることになっているらしいな」

「こちらに攻め込んでも、周辺領主や王家からの増援はないだろうと判断したとみえる」

 カイルが苦々しく独り言のように呟き、ダレンはどこまでも冷静に判断する。するとここでディロスが、ダレンにお伺いを立ててきた。


「城内の奥までは無理ですが、正門、通用門の構造と、重要と思われる箇所の配置は確認して来ました。僕の他にも何人もムスタ領内に潜り込ませている筈ですから、どうとでもできますよね?」

 その問いかけに、ダレンが僅かに片眉を上げてから問い返す。


「因みに、お前はどうしたいと?」

「せっかくですからムスタの人々に、現領主よりもっと立派なご領主様を与えてさしあげようかなと思いまして」

「それはカイル様が判断することだ。お前が口を挟むことではない」

「そうですね。カイル様、大変失礼しました。取り敢えず、これがこの間の報告書です。内容をお確かめください」

 ディロスはいつの間にか、荷物から書類の束を取り出していた。差し出されたそれを受け取り、カイルが真顔で頷く。


「分かった。ご苦労だった」

「ディロス。今日はもう休んで良い。明日から普通に業務に入るように」

「分かりました。それでは失礼します」

 ダレンから指示を受け、ディロスは再び荷物を背負い直して退出していった。再び二人きりになった室内で、カイルが溜め息まじりに告げる。


「忙しくなりそうだが……、できるだけ民の暮らしに支障が出ないようにしたい」

「心得ております。まずは準備だけは怠りなく、進めておきます」

「ああ。頼む」

 そこで今後の方針を確認してから、二人は通常業務に戻った。





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