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第11羽 速水 ②レシピエント -3/6-

イアンはアパートメントの一階。階段の手すりにもたれた。

ここからは通りが見える。もう日が沈みかけている…。


「おい!!どういうことだ!!?あいつ等何なんだ!…プロジェクトって…!!」

レオンはイアンの襟首を乱暴に捕まえた。

どう考えても、普通じゃ無い。…速水は大きな何かに巻き込まれているのだ。


はぁ、と溜息が聞こえた。

「お前…こんな噂、聞いたこと無いか?」


「『ネットワークは超能力者を育てている』って」

襟首をつかまれたままイアンは言った。


「――なっ!!?」

レオンは絶句した。



エスパー!?



―いや、――確かに、確かに…!

レオンは噂だけは聞いた事があった。

だがそれは、本当にただの噂に過ぎなかった。

いわゆる都市伝説だ。それが何の―。


「!!…まさか!?」

レオンは先程降りてきた方を振り返った。


「そのまさかなんだよ。…ジョーカーが最近進めてた、『計画』って言うのは、主にハヤミに関する事なんだ。…エリックは生え抜きのエリート研究者でプロジェクトの副主任だ…全く。どいつも狂ってる」


レオンは目を見開いた。

「………マジかよっ…、――冗談だよな?」

勘違いで無いのかと、もう一度イアンを見る。

「…」

イアンは黙ったままだ。

どう見ても、イアンは冗談とか言わなさそうなタイプだ。

思わずオーマイゴッド、と天を仰いだ。


「…っ。くそっ!」

レオンは舌打ちした。

言われてみれば…、確かにおかしな幻聴だとは思っていた。


速水の、鳥の声が聞こえる不思議な力。


「あくまでそうなる可能性があるってだけだ…。お前も知ってる、アビーもそれだよ。…彼女は失敗作だから超能力は使えないけど、もう一つの優れた人格を持ってる。実は、そのくらいなら結構いる。ハヤミが色々おかしかったのは彼が『なりかけ』だったからなんだ」

イアンは階段を少し上がり、段の上に腰を下ろした。


「なっ。アビーもだと!!?…――イアン、お前は内部事情に詳しいのか?」

レオンが聞いた。

「ああ。俺の実家、金があって。プロジェクトに莫大な出資をしてた」

イアンはうつむいて、つぶやいた。彼の眉は潜められたままだ。


そしてイアンは語った。



受給者――レシピエント。

ネットワークはステージ5に到達した超能力者をそう呼んでいる。



「速水は今ステージ4。それが5になる可能性があるって、今プロジェクトは必死なんだよ。――これは俺も良くは知らないけど。どうやら昔…彼とよく似た能力を持つ『受給者』がいたらしいんだ」

イアンは続ける。


ステージ1、三歳から五歳。ここで九割九分が、軽い頭痛くらいの自覚症状で消える。

ステージ2、五歳から、十歳程度。ここでまた残った大半が力を失う。

しかしこの時期から専用の機関で育てば、次のステージに行く可能性が上がる。


ステージ3、ステージ4…。繰り返し、能力は完成されていく。

ステージ5までたどり着けば、めでたく超能力者の完成だ。

だがそうなる途中で死んだり、発狂したり、そう言う例がとにかく多い。


「ネットワークにいれば、普通は十四、五歳くらいでステージ4まで行くけど、ハヤミはキャッチネットの外にいた分、やっぱり進行が遅いな…」

「…キャッチネット?」

「…ジャパンの精神科の医者には報告義務があって。ハヤミは、そうかもしれないって、幼い時、プロジェクトにマークを付けられてた…」


イアン曰く、プロジェクトはステージ1、ステージ2で将来レシピエントとなる可能性のある子供を拾い上げる仕組みを作っているらしい。

サロンの力が弱い日本もこれの例外では無く、むしろ政府が主体の、後ろ暗い国家プロジェクトだ。


日本の医者はそれらしい子供がいたら、一応国に報告する。

そこでプロジェクトは研究者を派遣する。

…と言っても、大半が空振り、もしくは勘違い。あるいは心の病。または発達障害。


「マークされたハヤミは…ただの病気と診断されてうまくネットから抜けた。その後は受診記録が消されてたらしい。子供を何とか守りたいって親と、一部の医者の間では、良くある事だ…」


それを聞いたレオンは、限りなく溜息に近い舌打ちをした。

「子供の頃から!?……くそ……」


だとしたら…速水は、初めから狙われていたのか。

…そもそもがジョーカーの肝いりの計画だ。

ジョーカーはずっと速水に目を付けていて、間違い無く攫うつもりだったのだ。


レオンは歯ぎしりをした。

根が深い――。


速水を何としても、助け出さなければ。


そこでレオンはふと首を傾げた。

「…だが…速水の力って、幻聴?…それが何の役に立つんだ?アイツは言ってたが、たまに癒やしになるとか、たまにうっとうしくて眠れないとか、それくらいじゃ無いのか?」


速水のそれは、通常時、鳥の声が聞こえる位で特に何かの役に立ちそうな力でも無い。


レオンのその言葉に、イアンは呆れたような表情で彼を見た。

その後に溜息。知らないなら無理も無い…、そんな感じだ。


「レオン。…チャネリングって言葉、聞いたこと無いか?…マイナーだし無いか。チャネリングってのは…シャーマニズムの一種で…、例えば、誰も知らない治療法を何故か知って、それで病気を治したりする、そう言う、不思議な力の呼称だ」


宗教を持つ者達は、それこそが自分達の神からの『恩寵』だと言うし、存在の証だと躍起になっているのだが…。

もちろん、真偽は不明だし、現代科学では全く説明が付かない。


「速水の持ってる力は、それじゃ無いかって言われてる。『グローバル・ネットワーク・プロジェクト』の目的はアカシックレコードの解明。…これは人類にとって有益な、素晴らしい研究だ。投資する価値は十分ある」


イアンは真剣だった。

真剣にこの話をしている。


…開いた口がふさがらない。

そんなレオンを余所に、イアンは上を見た。


「このくらいか…レオン。ノアはどこにいる?俺のエンペラーはノアを次のジョーカーに推すと決めた。お前との契約に従って、ハヤミの一生の安全は保証される。最も、ノアを確保する代わりに、ハヤミの待遇に便宜を図る…、って程度だが。後はジョーカーが変な気を起こさない限り」

イアンは言った。


「…おい、ふざけるなよ?」

それは全く安全では無い。レオンは青筋を立てた。

そろそろコイツを締めて、拷問して洗いざらい吐かせようか。

「と言うか、ジョーカー候補って。もうノアで決まりじゃ無いのか」

その前にレオンは尋ねた。

他にも候補がいるような口ぶりだ。

「別にネットワークは世襲って訳じゃない。先代、今のジョーカーと親子で続いてるが、今のジョーカーの『平和的』なやり方に不満を持ってる奴らも多い。候補は他にもいるし、そう言う連中はノアを認めないだろうな」


それにしても、イアンは良く内情を話す…。


「…イアン、おまえやたらペラペラ喋ってるが、良いのか?」

「ああ。礼のつもりだ。速水のおかげで、俺の妹が助かったからな。俺は…本当は、ずっと礼が言いたかったんだ」

イアンは言った。


「…何だって?」

レオンは耳を疑った。


イアンはうつむいて、つぶやいた。

「…去年、プロジェクトから連絡があった。父さんがずっと探していた力を持つ『受給者』が見つかったってな。それがアンダーに居たハヤミだ」


…イアンの妹、ターへレフは難病を患い、生まれてこの方一歩も病院から出た事が無かった。

彼の父はプロジェクトに関わり、金を油の様に使い、順番待ち一番だったらしい。

代金は馬鹿高くて、上手く行く保証も無かった。賭だったが…。


「結果は、劇的だった」

イアンは、青い夕日の差す外を眺めた。


モニターとなったイアンの妹は、現在はリハビリ中。遅くとも夏には退院できる。

それを語るイアンの口元は微笑んでいた。


「家族では、父さんが一番プロジェクトに入れ込んでたんだけど、正直眉唾だと思ってた、こんな、夢のような力があったなんて、未だに信じられない。親父も母さんも、奇跡が起きたんだって!…本当に、この事は隠さず、もっと世界に発信するべきだ!その為に、ノアが次世代のジョーカーになるべきだ!」

イアンは興奮している様子だ。


「おい!!ハヤミはどうなる!!?」

その話が事実なら、この先速水はかなり不味い事になる!

…最悪の場合、研究対象としてこのまま一生どこかに隔離…!?


イアンは少し冷静になり、咳払いをした。


「言っただろう。まだ分からないって。速水は今ステージ4。ステージ4までは希少と言ってもいくらでもいる。けど、ステージ5まで行った例が何件だと思う?…たった3件だ。もしそうなったら彼に自由は無い。もう…しばらくは面会も出来ないだろうから、…いま、会っておけよ」


イアンは最後に、と言いかけて止めたらしい。


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