第10羽 追徴 ②ダンスパーティ /全員美形 -1/5-
「あれ?」
速水はそちらを見た。
年が明けて四日目。今宵もまたパーティパーティ。
速水はまたうんざりして、何処かの空き部屋にでも避難しようとしていた所だ。
そもそも今日は完全にサボろうと思っていたのだ。
しかしレオンに、『俺だって退屈なんだ!お前、昨日勝手に抜け出して海見に行っただろ、せこいぞ!』などと言われ、彼は渋々参加した。
今日の舞台は金持ちの俳優、アランの邸宅。
日が暮れ、そろそろ終わり掛け。面倒事はレオンに任せ、速水は顔見せ程度で、それにも飽きて、外の空気でも吸うかとレオンを残し玄関に続く、長すぎる廊下へと出て来た。
…速水はサロンに対する興味をすっかり無くしていた。
初めから興味を持ってもいなかったが…。
そろそろホームに帰っても良いんじゃ無いかと思う。
クリスマス。ウルフレッドが追加で衣装を持って来たのには腹が立った。
折角来たのだから、暫く観光すると言い出したときはもっと腹が立った。
今日の正装は、すっかりおなじみの黒タキシードに白いシャツ。
蝶ネクタイでなく、黒い長いネクタイ。まともだ。変な色あわせの物を速水が着ないせいでもあるが。初日に比べやや格式は落としてある…。
そんな速水は、目に留めた人物に声を掛けた。
「ウィル!」
無駄に豪華な廊下の端で…、今到着したばかりらしい。
襟足が長い銀髪。ブルーが入ったダークグレーの正装。
後ろ姿だが、見間違える訳が無い。
「ん?…!!っハヤミか!」
その人物は白い柱の前で振り返り、シャンデリアの下の速水を見て目を見開いた。
年は確か四十三。鋭い紫の目。
かなり整った顔立ち。実際よりかなり若く見える。
「ああ、久しぶり!」
速水は笑って近づいた。本当に久しぶりだ。
「ハヤミ、無事で良かった!お前!心配してたんだぞ?またでかくなったな!」
ウィルと呼ばれた男が破顔する。額に掛かった前髪が揺れた。
「身長はもう打ち止めかな。ウィルは…やっぱり俺の事知ってたのか?」
速水は尋ねた。
噂になっていたらしいとレオンから聞いたし、自分でも少し調べた。
そうしたら、様々な憶測が出て来た。中にはかなり当たっている物もあった。
「ああ。奴らに連れ去られたって、噂で聞いて…しまったって何度思ったか。フランスで引き留めておけば良かったって思った──とにかく、無事で良かった…」
ウィルは涙ぐんで速水の両肩を叩いた。軽くハグする。
「ありがとう。俺は無事だったけど…。ウィルはやっぱりネットワークに詳しいのか?」
速水は無事だったが、ベスは死んでしまった。
それを話しても大丈夫だろうか?
「ああ。俺もジャックも反活動家。どっちかって言うとサロンとは別で、自由にやってる方だ」
ウィルの言葉を聞いて、速水はほっとした。
「やっぱりそうだったんだな。…出る時、仲間が死んだんだ」
速水はウィルに打ち明けた。
「そうか…。奴ら、やっぱり最悪だな」
ウィルが舌打ちした。
「ウィル、行こう。アランと知り合いだったのか?」「ああ」
速水は話題を変える為に長い廊下を歩き出し、ウィルとたわいも無い会話を始める。
その後、年末からホテル泊まりで夜会の連続、退屈だと言ったら、だったら俺の別荘にしばらく来ないか、と言われた。
「別荘?」
「ああ。このすぐ近くにあるし、後でどうだ?ダンスホールもあるし踊れる。今日は一人で来たのか?」
速水は今日はガードマンを付けていない。レオンが運転手として片方連れている。
もう一人は犬の散歩がてら観光だ。ボスに手土産を買う気らしい…。
「いや、仲間と一緒だ。奥の部屋にいる」
仲間というのはもちろんレオンの事。
レオンは役に立たない速水の代わりに頑張ってくれている。
「そうか、じゃあ一緒に連れ泊まればいい。どんな奴か興味あるしな。そいつも踊るんだろ?」
「ああ。レオンは凄い。けどいいのか?あ、アランに挨拶して来いよ。先に行ってる」
丁度アランとルイーズが出て来たので、速水は促した。
「ああ」
ウィルが片手を上げる。速水は笑った。
そして速水はウィルと別れた。
■ ■ ■
「レオン、知り合いがいた」
速水はレオンに言いに行った。
レオンは男二名、女性一名と、テーブルの近くで何やら真剣に情報交換をしていた。
レオンと話していた黒髪青目の、凄い黒付け睫毛の少女は、確かアビー。
長い黒髪をツインテールにして、赤、白、青のトリコロールのミニハット。
彼女はアメリカ出身で歌手。まだ十代後半らしい。
この格好はゴスロリ?しかし微妙にアメリカナイズされている。
黒い短めの広がったスカートに網タイツ、やたら高い靴。
そして左手におそろいの服を着た白いウサギのぬいぐるみを抱いている。
元々身長が高いので、厚底靴を履くとレオン達とギリギリ目線が合う。
アビーの後ろの男性二名は、ベイジルとクリフと言ったか…。ごく普通の黒いタキシード。
この三人はアンダー出身者だと言う。──ダンスでは無く、歌の方だ。
アビーはボーカル&ギター、ベイジルがベース、クリフはドラム。
「…へえ」
知り合いがいた、と言う速水の言葉にレオンは疑わしげだった。
「知り合いって、知り合いかー?」
レオンは机にもたれ、ワインの入ったグラスをかかげ、だるそうに言った。
「?意味がよく分からない」
速水は聞き返した。
レオンはグラスを白いテーブルクロスに置いた。苦笑する。
「お前に知り合いがいたのかって事だよ。ここに来てるなら、歌手か?」
今日のパーティは、この邸宅の主である俳優のアランと、その友人のルイーズが集めたメンバーが主だ。
この頃になるとレオンも速水も、顔見知りが何人かいる。
しかし速水はワルツ以外では無愛想で通していた。あくまで顔見知りだ。
目つきが悪い。怒っている?近寄ったら殴られそう…。
レオンはそれを見て、ああ、こいつはやっぱり友達居なかったんだなと再認識していたのだが…。
「歌手じゃ無い。それで、この後踊らないかって誘われた。レオンも来い。今日一日くらいすっぽかしても、もう良いだろ」
この後も、実はまだ夜会が控えている。
「まあ、そうだが…」
レオンは少し考えた。確かに、頃合いではあるが…。
「せっかくこの街にダンサーが集まってるんだ。踊らないと損だ。俺はホテルも引き払って、向こうに行こうかな」
速水は呟いた。
「──って、おい、ちょっと待て。そんなに親しい知り合いか?誰だ?隼人か!?」
「…お前、馬鹿だろ。何で隼人がいるんだ?」
速水はお決まりの返しに笑った。
周りにいたアビー達が少し驚いている。こいつ今笑ったぞ。と言わんばかりだ。
「あなた笑うのね。ご一緒してもいい?」
アビーはいきなりそう言った。
「アビー、いきなり失礼だ」
ベイジルが理性的な、無機質な声で止めた。
「あら笑うってことは、恐い人じゃ無いんでしょう?」
アビーは一つずれた美しい声で言った。
レオンは速水を見た。
レオンの今日の目的は、アビー達に会ってほぼ終わった。
どこのダンスコミュニティと手を組むか考えていたが、この家では歌手コミュニティとの繋がりしか取れなさそうだ。それでもそこそこ十分な収穫ではある…。
「別にこれから抜けても良いが、紹介しろ。と言うか泊まりはどうなんだ?お前またすっぽかしするつもりか?」
レオンは言った。速水はこのまま放っておいたら、残りの日程を確実にばっくれる。
「どうって。近くに別荘があるらしいから、レオンもそこから行けばいいって」
「別荘?ここらの金持ちか」
「…ああ。ここらの金持ちだ」
と、声がしてレオンが振り返ると。そこには男がいた。
「──まあ、ヒルトン!?」
アビーが驚いた。
「君は?」
姓を呼ばれ、男がアビーを見た。
「私、歌手のアビゲイルです。ミスターヒルトン、あなたの曲にお歌をつけましょうか?」
「アビー、失礼だ」「あら、そうかしら。クリフ?」「失礼だよ」「あらそうかしら」
アビー達は延々と繰り返し始めた。
「って、まさか、W・Jヒルトン!?──あ!そうか、お前」
レオンが驚いて、速水を見て納得した。
そう言えば知り合いのPVに出たと言っていた。名前も聞いた。
W・J・ヒルトン。彼はEDM系の曲を手がける超有名なクラブのDJだ。
「ああ。前、…ヒルトンのブレイクビーツのPVに出た。ウィル、そう言えばあれってもう発売したのか?」
速水はウィルに尋ねた。
「ん?ああ、出てる。もう一年以上前だが。何なら見るか?」
「ならいい。今更見てもな」
速水は言った。
スクール、アンダーを経て自分のダンスはかなり変わったと思う。
あの時のダンスが悪かったと言う訳でも無いが、今はまだ見る気になれない…。
「それでレオンどうする?」
「じゃあ、皆で行きましょう」
レオンの代わりにアビーが答えた。
「アビー」
ベイジルが窘めた。
「いいかしら。笑うジャック?」
言われた速水は驚いた。スマイルジャックって。
「…、オーケー」
咄嗟に気の利いた言葉も浮かばないので、速水はそう答えた。




