第10羽 追徴 ②ダンスパーティ /全員美形 -2/5-
「俺は良いとして、レオンと、皆は今夜どうする?ウィルは大丈夫か?」
そのままアビーが移動しはじめたので、車寄せで話し合う。
「俺の家は広いから、お前等全員泊まっても平気だぜ」
ウィルは苦笑した。
「じゃあ、迷惑でなきゃ俺も泊らせてもらうかな…。悪いな」
レオンはそう言った。速水がばっくれないか見張る気だろう。
「ああ。是非来てくれ。歓迎する!君達もどうだ?ジャックの知り合いだろ」
ウィルはアビー達を見て言った。
「ええ。ミスターヒルトン。私達も折角だし泊まりたいわ。クラブDJ、W・Jヒルトンの『ダンスパーティ』を心ゆくまで楽しみたいの。いいかしら?」
アビーはウィルに聞いた。
「ああ。もちろん良いぜ」
ウィルは答えた。
「ありがとう。ベイジル?」
アビーが目線と共にベイジルに確認する。
「仕方無い」
ベイジルが言った。
「珍しいスマイルジャックが居るしな」
クリフは少し苦笑気味だ。速水を見て何か言いたげに肩をすくめた。
要するに彼は先程自己紹介で速水に握手を求め、完璧に無視されたのだ。
「…」
「キレるなよ」
スマイルジャックと言われ黙った速水に、レオンが言った。
「キレないって。別に良い。クリフだっけ。さっきは無視して悪かった。反省してる」
「あれ?」
クリフは拍子抜けしたようだ。
速水から普通の表情でごく自然に手を差し出され、クリフは何となく握手をする。
…速水は、どうせ縁も無いだろうと適当に接してしまった事を反省していた。
人生何があるか分からない。
速水は友人を増やそうとしていた事を久しぶりに思い出した。
だが隼人と、圭二郎だけじゃ足りないのだろうか?
「お前、ちょっと丸くなったか?」
レオンそう言った時、今日は濃いグリーンのドレス着たルイーズがこちらに来た。
後ろに二名、ラフなスーツ姿の若者が居る。
この二人は確か初日にトランプで速水達に席を譲った…。
「キースとイアンも連れて行って。二人もダンサーなの。ねえウィル、良かったら私も後で行って良い?」
ルイーズが紹介をする。そして彼女も行く気らしい。
キースは黒人で、ドレッド状の黒髪を短く刈り込んだ青年。二十代半ば?
イアンは浅黒い肌に真ん中分けの、短い黒髪──彼はどう見てもアラブ・中東系。
格好は二人とも正装。
窮屈そうなキースと違って、イアンは育ちが良さそうだ。いかにも着慣れた、金持ち特有の雰囲気がある。
イアンの年はおそらく速水と同じくらいか少し下。…確かトランプでは若い彼が負けていた。
イアンはなぜか速水の方を睨むような感じだ。
「どんどん増えるな」
レオンが言った。
「ゴメンね、キング。ウィル、後でアランは直接行くって」
「いいさ。もうまとめてみんな来い!」
ウィルが快活に笑って言った。
「おい、今日泊まりなら、荷物はどうする?取りに帰るか?」
レオンが聞く。
一日くらいなら借りれば良いが、速水はしばらくウィルの別荘にいるつもりに違いない。
「いや。犬に持って来て貰えば良い。ここからならすぐだし──。ホテルは別にそのままでも…」
「まあ!犬を飼ってるの?犬種は?」
「えっ」
アビーに言われ、速水は硬直した。
そうして各々、車で着いた別荘は、海のすぐ近くだった。
速水はアビーと一緒に車に乗った。むしろアビーが勝手に乗って来た。
「ドックってその人の名前なの?」
「…まあ、そう言う」
精一杯濁したが…車から降りた速水は久しぶりに罪悪感を感じていた。
■ ■ ■
「凄いな…!」
速水は驚いた。その別荘はかなりの豪邸だった。
サンフランシスコ湾を望む三階建て。広さで言えばアランの家の方が若干広いが…。
一階のフロアには大勢の人がいて、まるでダンスクラブだ。
音響が整い、音楽が流れ、皆が好きに踊っている。
DJはもちろんウィル。
相変わらずの金持ちだって言うのは良く分かった。
「踊るか?」
レオンが笑った。
「…、踊って来いよ、俺はここで見てる」
速水は言って、壁にもたれる。
「お前、やっぱり具合悪いのか?」
「いいや。大丈夫だけど、こういう風に大勢で踊るの、実は苦手なんだ」
速水は苦笑した。
そのうちにレオンは誘われ、皆の輪の中に消えていく──。
「笑ってないジャック。一緒に、お外に出ましょう。もっとお話がしたいわ」
アビーが話しかけて来た。
速水は苦笑した。
「…じゃあ、誰か連れて行こう。あ、クリフ」
速水は丁度近くにいたクリフを連れ、三人でフロアの外に出た。
ライトアップされた庭には、当然のように酒を運ぶ給仕がいて、長いテーブルがあり、白いテーブルクロスの上に軽食が並んでいる。
ここも賑わっていて、ダンスに疲れた各々が自由に軽食を取ったり、酒を飲んだりしている。
庭の片隅にはステージが、簡易的な、おそらくいつでも出しっぱなしの──があり、舞台の隅で、派手な服装の女性DJが音楽を奏でている。
ステージ上には何人か踊っている人達がいる。どうやら誰でも上がって良いようだ。
今またステージ中央の、三段ほどのステップから数名の男女が舞台に上がっていった。
ステージには背景があって、ストリートっぽい派手な絵が書かれている。
その向こうには暗い海が青く見える。これは舞台を照らすライトのおかげだ。
観客席はそれほど多くなく、横二列。縦は三、三で六列。三列目と四列目の間に若干のスペースがある。皆、ドリンク片手にダンスを見たり、あまり見ずに談笑したりしている。
「クリフ。それにしても、広いお家ね」
白い軒下でアビーが言った。丁度、白いベンチがある。
彼女はそのベンチの上にまずウサギを置き、その隣に腰を下ろした。
「ホントそうだな。プールが普通にある。俺の家にもあったけど、荒れてた」
壁を背に、プールを眺めクリフが答える。クリフは美青年だ。
髪は速水と同じくらいの長さで、髪質は柔らかく、薄茶に近い金髪。
細身で、身長は速水より少しだけ高い。
彼は幾つくらいだろうか?
「スマイルジャック、君は幾つ?」
速水がそう思って見ていると、クリフに年を聞かれた。
「十九になった」
速水は答えた。
「あ、同い年か。…へえ」
「クリフ。私、彼とお話ししたいんだけど…」
アビーが言った。
「ああ。ゴメンゴメン」
「アビー、何か話があるのか?」
速水は尋ねた。
「ええ。私達のジャックを思い出していたの。…私達は一昨年こちらに戻って来たんだけど…良かったら、力を貸してくれないかしら?」
アビーはいきなり流暢に言った。
普通に話され速水は面食らった。
アビー、彼女は車中でも個性的な話し方をしていた。
彼女の外れた話し方は、演技だったのだろうか?
「キング…レオンにはもう言った。俺たちと手を組まないかってな」
クリフが補足した。
アビーが隣のウサギをなでる。
「…仲間を集めて、知名度を上げる。それがエンペラーに会う近道なの。キングはあなたをだしにして返事を保留にしたから、私、あなたと直接話したかったの」
クリフが壁から離れ、速水に向き合う。
「面倒だけど、エンペラーは正体が分からない。正直に言うと、俺達はマフィアの『キング』と違って、サロンにほとんどツテが無いんだ。キングはエンペラーの正体は謎だって言ってたけど」
「…代わりに、歌手のコミュニティとつなぎは取れるわ」
アビーが引き継ぎ言った。
「キングは君次第って言ってた。我が儘だから何て言うか分からないって。一応、先代ジャックの仇なんだろ?…あっと、悪い、キングから聞いた。と言うか、君が地下にいる間に、噂になってたんだ。二代目ジャックが姿を消して、今は地下に居る──、姿を消した理由、それはジャックを殺した仇を探すためだ、ってね。実際に君の契約はそれだったんだろ?」
クリフが言った。レオンが話したらしい。
「ああ…、でも…?」
契約…?
速水は、はっとした。
「?どうしたの、スマイルジャック」
アビーが首を傾げた。
「そうか!それが引っかかってたんだ!!」
速水は言った。
結局、ジャックを殺した犯人は、誰だったんだ?
速水はその情報を受け取っていない。
だから何かが続いている、ずっとそんないやな感じがしていたのだ。
契約。ネットワークはやたらとそれにこだわっていた。
レオンに聞いたが、絵札の内一人が死ぬと言う事は、レオンがスクールに入った当初から契約で決まっていたらしい。レオンがアンダーに移ったとき、別室で同じ契約の引き継ぎを確認されたと言っていた。
スクール、アンダーと長い契約は続いていた?
契約はベスの死によって履行された。
レオンは当初の契約通り、兄の消息を知らされた。ノアは父親の正体。ベスは…分からないが…彼女も含めた三人は同じ内容の契約を共有していた。
だが、速水ははじめからそこに入っていなかった。
だから別室に隔離されたのだ。
…そんな事、レオン達が口止めされていた時点で気が付くべきだった!
その時聞いた、外に出た後は、『ひとまず関与しない』と言うジョーカーの言葉。
外へ出て知った、サロンイコール、裏ネットワークの存在。
…つまり外もネットワークの力の範囲内と言う事だ。
まだ何かが起きようとしている?
ウルフレッドは飼い犬では無いし、エリックは心配だ。
つまりどちらも怪しい。
だが──まさか、そんなにしつこいってあるのか…!?
速水はエリックの言葉を思い出す。
『…計画については、継続中なので…お話出来ないんです』
そうだ、彼は精一杯、何かを伝えようとしていた…!
「くそ。エリックに会わないと。サラはどこに居る!?アビー、クリフ、悪い、返事は保留で!」
速水はその場を立ち去った。
廊下を駆け出す。
さっぱり働いてなかった思考が動き始める。
…ノアがジョーカーの息子なら、多少なりとも特別待遇だったはず。
レオンがキングで俺がジャックなら、俺たちは集められた?──ノアの為に?
下手したら、ウルフレッドもノアのため?サラも、エリックも?
早くノアを探さなければ…。ノアはこちらの切り札だった。
ジョーカーになり得る絵札、いや、次の…特別なジョーカー…!
「くそ…」
速水は自分の情けなさに歯がみする思いだった。
俺はベスの死を悼みすぎてた。馬鹿だ──嫌な事は、もう繰り返したくない!!
誰かが死ぬのは、もう嫌だ!!
速水はホールの扉を押し開けた。
「レオン!!」
丁度その時、曲のつなぎ目だった。
その声はフロアに良く響いた。
「何だ?」「誰」「…ジャックだ!」「うそ」
「レオン何処だ!?」
速水は人の間を縫って、レオンを呼んだ。
「どうした?」
「レオン、帰るぞ!」
速水はレオンを見つけ彼の手を引いた。
「何だ?何かあったのか?」
「何も分からない!けど、とりあえず帰る!」
「な、おい?何言ってる?」
速水はレオンを引きずるようにして、ダンスホールを後にした。




