第14羽 MD ⑥ラストステージ(前編) -5/6-
再び目を覚ました速水は、どこかにくくり付けられ横になっていた。
刺すように頭が痛む。
不快音の流れるヘッドセット、さらに色々な物を体中に取り付けられていて、腕、手首は体に沿うように、足も固定されていて、ほとんど動かせない。体が冷たい。
ぎぃぎぃ、というカラスのような鳴き声が聞こえる。
これは本当はあるはずの無い……幻聴?
いや。本当に、鳴き声が聞こえていたんだ……。
だって近くに、カラス?が本当にいる。
速水はその気配を感じていた。
ちゅんちゅん、ケタケタと。鳥のさえずりも聞こえる。
――あ、今、肌に鳥の羽が触れた。
つまりこれは……速水の頭が作り出した幻想では無い?
速水は本当に、普通の人には聞こえない、確かに存在する鳥達の声を聞いていた?
ありえない。と速水はその考えを打ち消した。たぶんコードとか、布が擦った感触だろう。
震えが止まらない。今も見知らぬ鳥が肩に止まっている気がするとか、気のせいだ。
……やっぱり俺は狂ってるんだ。
『大丈夫ですか、速水サン……!』
だって、さっきから、ジャックの声も聞こえる。
――ジャックが速水の耳元で囁き、速水を覗き込んでいる気がする。
ジャック……。
速水は唯一自由な口を動かした。
「俺は、死ぬかもしれない」
視界は……目を開けているのに、真っ暗だ。
女の泣き声が聞こえた。
『大丈夫?ハヤミ……ごめんね、ごめんね』
ベス?
――急に頭の中にドラム缶をぶち込まれたような衝撃が走って、ハヤミは絶叫した。
「いっ…、っう!ぁああああああああ!!」
「シャドーが!」「まずい!」
「薬を――増やせ!早く!!」
『じゃあ、カラスが鳴いたら、帰りましょうね』
『スズメは?鳴いても平気なの?』
「ぎやぁああああああああああああ!!」
速水は叫んだ。
『カッコウが鳴いたら雨が降る…。まあ、助かるわ』
『大丈夫よ。どっちも同じ。どちらも、朔、貴方なの』
――、母さん?
『だからジャック。貴方は安心して、眠っていなさい……』
■ ■ ■
『あ゛ぁああああああああああああ!!あぁああ゛あ゛ぁああ!!』
研究員達が、細長い板の上で暴れる速水に投薬する。
「やめて!おい、やめろよ!!」
ノアはその様子を別室で見せられていた。ぷつ、とそこで映像を切られた。
切ったのはベス――主任だ。
「――ノア、彼はこれで、完全なレシピエントになるわ。貴方はどうする?」
ノアは歯ぎしりをしてベスをにらみつけた。
「……お前等は狂ってる!!いや、エリザベス!お前は狂ってる!!」
自分の前に置かれた薬を投げつけた。
「ハヤミを離せ!ハヤミを自由にしろ!!」
この部屋にあるのはベッドとモニター、机だけだ。
「じゃあ――代わりに貴方が、どうなってもいいのね」
主任が言った。
「っ。ああ、もういい!!――いや、良くない!!……クソッ」
ノアはベッドを叩いた。
主任はクスクスと笑った。
「私は貴方のそういうところが好きよ」
「ふざけるなよ」
ノアは主任を睨みつけ、彼らしからぬ低く強い声で言った。
ギリギリと歯を食いしばる。ノアは強く強く拳を握った。
――ハヤミ。
スクールで出会った、異邦人。
何から何までノアとは違っていて、けれど面白くて。
彼は色々な事を知っていた。曲がまともに聴けないのに、ダンスは凄い。
憧れていたわけではない。実力は互角だ。次は、絶対に勝ちたいと思っている。
「……あいつといて分かった事は、嫌なやつに嫌なまま従ってても、ろくな事にならないって事だ!」
ノアは吐き捨てた。今までの自分を捨てる気で。
「分かったよ。こんな腐った世界、俺が変えてやる。お前等が嫌がる方向にな!!」
「――それでこそノアね」
「……チッ」
ノアは舌打ちした。机に残った薬を手のひらに収める。
「……楽しみだわ」
主任が微笑んだ。
■ ■ ■
気絶と覚醒を何度も繰り返し、速水はもはや自分の意識がどこにあるのか、それすらも分からなくなっていた。
……何もかも、真っ白だ。
これは夢だろうか、現実だろうか。それとも悪夢なのか……?
――急に、真っ暗になった。
「うわっ!」
――突然、速水はその暗闇に放り出された。
暗闇に膝をつく。
暗闇の中を、風が強く吹いている。風は速水を通り越し、吸い込まれるように、速水の向こうへドンドン流れていく。
音はしない。真っ暗だが何かある――視界が生きている気がする。
風が止まり、逆風で速水の髪が乱れた。速水はうるさい髪を押さえた。
ひらめく物があった。
なにかいる。
今、なにか、髪のような物がひらめいた。
とにかくその「何か」を映そうと、速水は暗闇の中で目を凝らした。
大きく開いた速水の目に、同じような物が映った。
「……え」
速水は目を丸くした。少し向こう。赤くて丸い何か。
――瞳だ。
人がいる――?
誰かがこちらを向いて、立っている。




