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JACK+ グローバルネットワークへの反抗   作者: sungen
異能編(最終章)
134/151

第14羽 MD ⑥ラストステージ(前編) -4/6-

「……ぐ…」

速水は身じろぎをした。


今彼は歯医者で使うような椅子に座わっているのだが……悲しい事に両手、両足には枷がはめられている。自由な感覚は聴覚と、嗅覚だ。指も動かせるが手首はしっかり固定されている。


速水は冷や汗をかいていた。もちろん、恐怖からだ。速水だって怖い物は怖い。

……今朝は食事抜きだったので、嫌な予感はしていた。

暇なので筋トレをしていたらここに連れて来られ、拘束され、目隠しをされ三十分以上の放置が続き、現在だ。いい加減疲れたし、訳が分からなくなってきた。


周囲に鳥は……いないようだ。

研究者の話し声が聞こえる。


速水の側には二名くらい?研究者がいて事務会話をしている。少し離れて機械を操作する者が三名か四名?

ベス……主任はどこに?いないのだろうか。


速水は歯ぎしりした。

「外せ…!!」

口は塞がれていないので、喋ることは出来る。


「それはできないな」

誰かが言った。こつ、こつ、と何か堅い音がする。


急に頭を掴まれ、引っ張られた。

「!?」

速水の頭が左横を向く。


「元気そうだな」

その声には覚えがあった。

……この声は、ノアと速水を攫ったオッサンだ。


「お前は。そうだ、ノア……!ノアは何処だ?」

速水は口に出した。


「おい、ノアは?」

「私はチャスだ。そう呼べ」

一方的に言って来た。

速水は自分に名前を明かすなんて相当なバカだと思った。

絶対、後で報復してやる……と思ったが。そう言えば既にアンダーで殴った後だった。

目は結構重傷だったはずだ。だがそれとこれとは話が別だ。これから速水が何をされるかによって、どの程度のダメージを追加するかが決まる。

というか、何かするならさっさと始めろ。待つなら部屋でも良かっただろうに。

準備ができたら自分の身が危ないのだが――段取りの悪さに辟易した。


「チャス……か、分かった。あんた。ノアを何処へやった?」

試しに名前を呼んでみる。あえて名を明かすと言う事は呼んで欲しいのだろう。名前で呼んだ方がノアの事を聞けるかもしれない。

速水は、白い部屋に押し込められて以来、ノアに会っていない。ここに来て三日程か。


「始めろ」

ゴールディングはノアに関しては答えず、指示を出した。


数人がかりで、頭に何かをかぶせられた。

コードの付いたヘルメット??鉄製なのか、やたらでかくて頭が重たい。

幾つか配線がつながっているようだ。その後で耳を塞がれた。


周囲の音が聞こえなくなった途端、突然聞こえて来たのは、大きな音だった。

「!!!うあっ!!?」

速水は飛び跳ねた。


「!!?????」

速水は突然の事に混乱した。

ヘルメットじゃなくて―ヘッドセッド――!?ゴツイやつ!?そこから音が聞こえる。

「なんだコレ!!おい?」

耳を塞ぎたいが、手も足もしっかりと固定されていて動かせない。速水は頭を振った。

音が大きいが――これは何かの音楽だ。


「ぅ……ぐっ」

耳と、脳みそがむずがゆい。口を押さえたいが手は動かない。

音楽――速水は歯をくいしばり吐き気にそなえた。


……速水は、幻聴に加え、おかしな音感の持ち主だった。


なぜか楽曲限定で、余計な音が重ね合わさり響きが変に聞こえる。

速水が曲を聴くと、どれも曲と呼べない多重の不協和音に聞こえてしまうのだ。


声は普通。アラームなども至って普通。

日常生活に支障は無いが、グラスを叩き合わせた音が微妙に変に感じたり、クラクションが変に聞こえたり。電車の到着音は普通に変だったりする。


ダンスに関しては拍やリズムは取れる。曲の出だしも、終わりもズレない。

ノートに楽譜を書き出し、タイミングを予習をすればほぼ完璧。

ジャックと練習しまくったおかげで、苦手だった即興もなんとかコツを掴んだし、今では全く外れてはいないと思う。


歌や声は普通に聞こえるし、歌の上手い下手もちゃんと分かる。

だがその上手い歌には、『それでいいのか?』と言う酷い伴奏が付いている。


――昔はこんな風じゃなかったのに。速水は良くそう思った。

エリックは治ると言った。だから薬を飲んだのに!治らなかった。


初めは、雑音が時折混じる程度だった。元々、速水は音楽が好きだった。

小学四年、三ヶ月ほどの入院の後から一気に悪化し全ておかしくなった。

……速水は踊れくなり、ダンススクールを辞めた。

音が歪んでしまう、そういう病気はあるらしいし、これも幻聴の一種だろうと思ってあきらめていた。


「っ……ぐ……」

――がんがんと大きな、曲と呼べない、歪んだ高音、低音。全くかみ合わないクソッタレなハーモニーが続いている。

幼児か何かが、自分は出来ると言ってめちゃくちゃに弾いたみたいだ。一人や二人じゃない。百人、千人――?


……気分が悪い……。

頭が痛い……。めまいがする。耳がずきずき痛む。吐きそうだ。

ひどい音って暴力だよな。


速水には今流行っている曲がどんなメロディーなのか、何故流行っているのか、本当に良い曲なのか。

これが曲なのか。それも、もう分からない。


その状態が十分以上続き、十五分経った頃には速水はグッタリし始めた。

「……うるさい!ボリュームを下げろ」

何度も言ったが、大音量でひたすら続く。気が狂いそうだ。

そして、どうやらこれは『マイナスの曲』だ。とても嫌な気分になってくる。

急に世界が回り、速水は意識を失った。


「――おいちょっと音がでかい!こんなにでかくなくていい!」


えっ?と速水は思った。


今の声は誰だ?


速水ははっとして、意識を取り戻した。

……今のは俺か?

気絶していたのかもしれない。うわごとだったのだろう。


「おい!なんでこんなの聞かせるんだ?酷い音だ……!」

速水は言った。若干ボリュームが小さくなっている。

それでも、気分は最悪で、嫌になってきた。


……嫌だ、嫌なんだ。

……もうこんな酷い音、聞きたくない。頼むから。やめてくれ。

……まともな曲を返してくれ。

何年もずっと。幾度も思っていた事を繰り返す。


――でないと、踊れない。


「頼む、やめろ……」


「そろそろか」

白衣を着た、研究員の一人が言った。


研究員が速水の右腕を消毒し、腕を押さえ、注射した。

速水は一瞬、身じろぎをした。

「このまま維持して、薬を投与。慎重に」

「椅子を倒すぞ」

ゆっくりと椅子が倒される。研究員は速水の左腕を消毒し、静脈留置針を刺して、血管内にカテーテルを挿入後、点滴のチューブに接続。点滴チューブのつまみを調整し、時間をかけ、少しずつ安定剤を投与する。


――速水はぐったりとしている。

速水は一度気絶して、意識を取り戻した。その時の脳派はジグザグに揺れていた。

今の波形を見る。順調だ。

一瞬シャドーが現れたが……他の数値を見ても、今はサク・ハヤミがメインになっている。


ゆっくりと数値の変化を見守りながら、頃合いを見計らって、別のパックを接続し、投薬を開始する。直後にグラフが大きく弧を描く。誰もが息を潜め、言葉を発しない。


その後、点滴チューブの投薬部分に一本目の濃縮薬を注射をする。

じりじりしながら辛抱強く待つと、画面の振れ幅が小さくなり、微弱なまま安定する。

ここで二本目の投与に入る。二本目は一本目の注射器よりもさらに細く、投薬量も少ない。

テーブルには同じ物があと五本用意されていた。


程なく、別の画面の数値が高くなり、そのまま維持される。他の数値も全て非常に高いレベルで並んだ。

研究員はほっと息を付いた。

「……よし、一旦止めろ。もう十分だ。間に合に合いそうだ。本当に良かった……。装置につなげ」


研究員達が、わっと、会話を始める。

「やはり。この音を使えば、シャドーは力を抑えられるようですね」

「半信半疑でしたが、こんな方法が」「実に興味深い」


速水はぴくりとも動かない。


「よし、運ぶぞ」

「慎重に移せ」

ストレッチャーが用意され、速水はそちらに移された。


「ゴールディングさん、準備が整うまでは時間がかかりますが、どうされますか?」

指示役の研究員が言った。

「どのくらいかかるんだ?」

ゴールディングが尋ねた。

指示役の研究員は作業をしていた研究員に「どうだ?三日くらいか」と尋ねた。

作業をしていた研究員がチャスの方を向く。

「ええ、それくらいはかかります。我々は交代で現状を維持します」

「やはり――だ、そうです。ですがこの様子でしたら、期日には間に合うでしょう。ノアも見て行かれます?」

「ああ」

ゴールディングは頷き、運ばれる速水や研究員と共に部屋から出て行った。


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