トンとことこ♪ 10話
なんと俺とモモに指定依頼が舞い込んで来た。突然のことに戸惑ったが、話を聞くと領主の奥様からのご祝儀クエストなんだとか。
あの誘拐事件の後、お礼をと言われ、金貨を渡されそうになったのだが、俺とモモは受け取らなかった。
お金の為にやったことではないし、ルウさんが暴れたせいでお屋敷の修理代も掛かるのは見れば分かったので逃げるように退散した。
だがこの依頼、実は娘のルーシーちゃんが俺に会いたがっているので、口実を作りたいと側面もあったのだった。
そういう訳で俺達は目的の者を探して森の中で捜索をしていた。
今いる場所はなんと、俺が転生した時に彷徨いていた、あの森である。
「しかし、なんて名前のモンスターなんだよ……」
「まだ言ってるのイベリコ。ロリ狐って名前がそんなにおかしいの?」
「それだけでも破壊力があるけど、ショタ狐までいるなんて訳が分からないよ!」
「割りとメジャーなペットよ。小さな獣で人に見えるけど立派なモンスターよ。オスがショタ狐で、メスがロリ狐ね。」
つまり、俺らは幼い子に見えるモンスターを拐わないといけない訳だ……
「で、それをこれから捕獲しなくてはいけないんだね。」
「だね。領主様の奥様がわざわざ指定依頼で頼んでくれた位だし、断ることなんて無理よ。」
指定依頼とは通常依頼の5倍以上の依頼料を掛け、冒険者を指定するものである。
ギルドとしては利益も勿論大事だが、指定依頼を頼む側は貴族や大商人等の身分の高い者が例外なく多い。
そんな彼等からの依頼を迅速にこなすことで信頼と言うパイプを強化し、何かと口利きをしてもらいたいが為に、ギルドは必死に冒険者に依頼を受けさせる。
冒険者も依頼主から信用を頂くと言うことは、確実なリピーターを生み出し、更に依頼主の口コミで聞き付けた上客からの依頼がくれば、更なる報酬が見込めるので断ることはまず無かった。
それに今回は奥様の感謝の善意による依頼任務、10級冒険者に指定依頼なんてまず有り得ない。
「夢の為よイベリコ。相手はモンスター……人じゃないわ。」
「でも、俺もモンスターだよ?」
「体はね。私が言ってるのは中身のことよ。この依頼はイベリコにとっていい試練だわ。もし、保育園にロリ狐クイーンやショタ狐キングが現れて子供達を襲っても貴方は見てるだけなの?」
「おうふ……モモさんや~~俺の左脳と右脳が悲鳴をあげてるよ……少し落ち着かせる時間を下さい……」
女王様に王様が来ちゃったよ……
「その間、子供達は殺されてしまいました。おしまい。」
「あーーーーーー! モモのいじわる。」
クイーンにキングって……異世界は容赦がないよ……未来の園児の為にも俺は鬼になる。
ガサガサ……前方の茂みから物音が聞こえた。
「…………しっ……イベリコ……ほら、あそこ……」
「……おうふ……普通に幼児が二人……このクエストは俺にとって本当にヘビー過ぎる……」
低学年の小学生にしか見えないツインテールのロリ狐にツンツン髪のショタ狐がなか仲睦まじく、日向ぼっこをしている。
モンスターの毛皮を貫頭衣のようにしてブカブカに着ているのが愛らしい。
「イベリコ……ここなら背後だから狙えるわ。トリモチで動けなくして……」
「………………はぁ~……(出来ることなら気がついて逃げてくれ……)発射!」
トリモチは幼児二人に向かって放物線を描きながら飛んで行く。
その間、俺の中では世界の時の流れが非常にゆっくりとなり、BGMにアヴェマリアが流れていた。
「ロリコン!?」
「ショタコン!?」
あああああああ……一発のトリモチは、会心の一撃の如く見事、両者にまとわり付き動きを封じてしまっていた。
「ひょっとしたらワザと外すかと思ったけど杞憂だったわね。それでいいのよイベリコ。」
「……ごめん……今、色々と複雑なんだ……」
「おまわりさ~~~ん……しくしくしく……」
「おまわりさ~~~ん……えぐえぐえぐ……」
「この『おまわりさん』って何だろうね? 昔からこれ言うんだよね……」
……保育士としての俺が内部崩壊していく……トリモチで顔中ベトベトになった幼児がお巡りさんと助けを呼び……モモが猿ぐつわを噛ませながら……ズタ袋に二匹を詰め込む。
袋から幼児のすすり泣く言葉が聞こえて来る。
「……………………」
「帰ろうかイベリコ。これで小銀貨50枚よ。」
引き返すならここが最後の線だ……今ならまだ……
「ずばんぼぼ(すまんモモ)!……だっばし、びがぢであげぼう(やっぱり、逃がしてあげよう)。ぼれにば(俺には)……ぼれにば(俺には)……うわぁ~~~~ん!」
「…………もう、やっぱりこうなるのね……分かったわ。一緒に奥様の所に謝りに行きましょ。」
ズタ袋から二匹を出してあげようとするが、余計に暴れて袋の中でくっついてしまう。
顔をズタ袋からひっこりと出した二匹は、ポロポロと泣いているので困った俺は、お菓子を二匹に与えて餌付けをした。
匂いを嗅いで目を輝かせて食べ始めてからやっと大人しくなった。
大きめのキャンディーを口に放り込み、その間に鍋に水と熱湯で割った適温のお湯で二匹のトリモチを剥がしていく。
多少残ってしまったが、二匹はこれで自由だ。お詫びも兼ねてお菓子の箱(家)を出してあげると孤児院の子達と変わらないように見えた。
ある程度食べ終わった時点でお菓子の箱(家)をしまいお別れをする。
「もう、捕まるんじゃないぞ。俺の心の平穏の為にもな。」
「ペロペロ。」
「ペロペロ。」
「気が済んだでしょ。帰ろうかイベリコ。」
「おう。またな~♪」
「ロリコン?」
「ショタコン?」
「違うわぁ~!……保育士に向かってその2つはファッ○・ユーって、言ってるのと同じたからな……ぜぇ~はぁ~……」
多分、種族特有の鳴き方なんだろうけど、酷すぎたので久々に切れた……見た目が幼児じゃなければ熱湯を掛けてたよ。
「イベリコが何で怒っているのか、私にはさっぱり分からないわ……」
「もう……嫌だ……この森嫌い……お家に帰る……グスッ……」
俺はもう無視をして歩き始めた……物凄く疲れた……
「元気出して……あらら~……イベリコ死んでる。」
「スタスタ……」
「スタスタ……」
……あ~~まさかとは思うが……嘘だろ……
「ね~イベリコ……」
「モモ! お願いじゃがら(だから)……ぼうがんべんじて(もう勘弁して)~」
「ロリコン♪」
「ショタコン♪」
二匹のモンスターをモンスターがテイムしてしまったと言うオチがついた。




