溺死
あんまりエグイ表現はないです!・・・多分。
有罪とみなされるまでにまずは水に沈められる。
360度見渡せる透明の巨大な水槽に、手足を縛られ足首に重い石を結ばれる。
たいていの人は生きられないだろうが、わざと生かしたり、かろうじて生き延びた人は次の拷問に行く。
その光景を見てきたから、溺たことのない私でも苦しいことは安易に想像できた。
震えが止まらない。
見つけ次第捕まえ拷問しようとする大人が何人もうろついていた。
私は家のカーテンの中に隠れていた。
誰かが家に入ってきたとき、とっさに近くにあったものがそれしかなかった。
震えが止まらない…。カーテンの布が揺れてばれてしまう…。
必死で震えを止めようと自分の身体を抱え込むが止まることはなかった。
声を出さないように指を噛んでいるが、歯が刺さって血が出てきた。
やっぱり震えていたのだろうか。
勢いよくカーテンがあけられた。
30代くらいの大柄の男だった。
立ち上がって走りだしたが首をつかまれた。
なんとか逃げようと試みて蹴ってはみたが、必死の抵抗もむなしく地面にたたきつけられて気を失ってしまった。
意識を手放しちゃだめだと思っていたのだが、どうせ子供。
どうしよう私は…魔女狩りの対象の魔法使い。
試したことはないが、きっとみんなの言うとおり死ぬことはないのだろう。
でも、水の中にずっといたら苦しい。
ずっと苦しくて痛いより、途中で死ぬ方が楽だと思う。
だったらこれは私にとって限りなく恐ろしいものに違いはなかった。
逃げたい、生きたい。でも、死にたい…。
…
……
………
「おい、起きろ!」
乱暴に揺すられて目が覚めた。
揺すっていたのはあの大柄の男でひどく驚いたが、手足を拘束されていて後ろに下がることすらできなかった。
「お前は今からその面を歪めて可哀そうな姿で死ぬんだ」
男はそういって大きな声で笑ったが、あまり聞いてはいなかった。
でも、この人の笑い声はかつて殺された人と似ていて、
ああ、この人もいつか死ぬんだな。とは思ったが、
私…魔法使いが捕まったとあればこの魔女狩りは終わるのだろうか。
それならそれで幸せだ。
男は私の髪を雑につかみ寝かせられていた小屋からひきづっていった。
外にはいつもいた場所よりは高い位置にあった。
足元は木でつくられた広い足場、周りにはたくさんの人たち。
その目が見つめる先には大きな大きな水槽。
ここは、いつも遠目から見ていた処刑場だった。
唖然として抵抗することを忘れてしまった。梯子のようなところに上って狭い飛び込み台に立たされた。
そして…私の足首に重い重い、石が結ばれた…。
足ががくがくして、とても立てる状況じゃなかった。
膝立ちのまま、なんとかバランスを保っていた。
…大人たちは。私の怯える姿を見せもののように。楽しそうに見ていた。
「早く落とせ」歓喜の声。
「こいつは死ぬと思うか?」「死ぬに10万円。」賭けをする声。
この声が私にとっては救いのようにも思えた。
まだ、生きてる。まだ、生きてる。まだ…
男が後ろから私を押そうとした。しかし、それよりも少し早く私がバランスをくずして落ちる。
それに気づいて、落ちるほんの少し前に「ざまあみろ」と言ってみた。
じゃぶん。大きな音を立てて水面が揺れたが、私の身体ではその揺れは水槽の端っこまで届かなかった。
大きく息を吸ってから水槽に落ちたつもりだが、1分もしないうちに苦しくなってきた。いつもは吸えば入ってきた空気が、今は水しか入ってこない。
口を開けるとゴボゴボと酸素が泡となってでていく。
息がd気ないことがこんなに苦しいなんて思いもしなかった。
苦しい、頭が痛い、死んでしまいたい。
それに、もう感覚はないのだけれど…
水が、とってもとっても冷たかった…。
浮遊感に身を任せて私は眠った。
この眠るというのが永遠のものなのかわからなかった。
寒い、冷たい、苦しい…?
今は眠気の方が強かった。
もし今、死んでしまえるとすれば。
幸せなのかはわからないけど。
きっとこれから続く拷問に耐えるよりも、ずっと楽な世界に逝けるんだろう。
そう、思った。




