第百四十五話「師匠と弟子」
はい、朝でございます!
というかもう昼って感じ!
え、あの後の話?
なんたって最年長の利休の話や、ケミナの勇者学校時代の女子達の話、ラーナ2000年の歴史等々、色々話したからこっちとしてはお腹一杯過ぎて話し切れないっすよ!
あぁデューク?
パックがあの後、部屋に酒を持ってきてな?
デュークと2人で飲み始めてな?
デュークは酒入ると喋らなくなるのは前に言ったが……延々喋るパックと、頷いたり首を振ったりのみで返事をするデュークは中々に秀逸だったな。
あぁそう言えば、頑張ってエルフの里を探してるレイヴンと舞虎なんだが、全然連絡がとれなくてな。
未だ探してるみたいだ。
……まぁいつか帰ってくんだろ。
さて、今回同行する面子はと言うと……。
俺、デューク、利休、パックの4人という異色パーティ!
ラーナとケミナは……まぁ人質だな。
つまりこちら側で預かってる人質はパックになるわけだ。
まぁあくまで形式上の人質って感じだな。
やはりならず者が多い土地ではあるが、トップの連中達はしっかりしているようだ。
こいつらをまとめられるっていうのはやはり凄い。
テンダーに通じたアレがあるのか、俺には無理なんじゃないかなーって事が多くて、万能に動く事の難しさを改めて知ったわ。
恐怖政治に似たモノもあるんだろうが、それでも付いて来る人間がいるのはやべえわ。
ここが今より豊かになったらまた変わるんだろうが、それは今の問題じゃないし、今のうちからは対応しきれないからな。
予想できる問題と起きてからじゃないと対応できない問題もある。
上に立つ人ってホント大変だわ。
あ、現場というか、下の人がそれに振りまわされて大変なのも勿論わかってるぞ?
いかに早く的確に対応できるかってのも重要なんだろうな。
あぁやだやだ。
そろそろ隠居編でいいべ?
「ケント君、行くよっ♪」
「あ、はい」
「どうせのんびり暮らしたいとか思ってたんだろう」
「これから一騒動あるかもしれねぇのに呑気な奴だな」
相手が元神ってのはやりづらいもんだな。
「あははははっ」
プライバシーって知ってる?
「「知ってる知ってる」」
にゃろめ。
「あぁん?」
「さ、パックさん、案内をお願いします」
「そういやレウスとデュークは飛べないんだろ?」
「あぁ、俺は武器に飛行魔石が入ってます……って事は?」
「何だ、レウスも持ってるのかい」
リュウリュウ以外のもう1人の所有者がパックだったか。
しかし、トップの連中に行きわたるってのは偶然にしても都合が良いんじゃないか?
金や権力の力で手に入れるったってかなり難しいだろう。
どこかの村人が手に入れちゃってるとかの日常も用意して欲しいものだね!
強運の持ち主に集まる仕様なのか?
そうなると俺が強運だったと自慢してる様に聞こえてしまうが……まぁ前から自分で「魔石運は良い」って言ってたから今更でもあるか。
「飛ばなきゃ行けない場所にあるんですか?」
「あぁ実はな、エルフの里は魔界にないんだ」
「そりゃ見つからないわけだ……」
「それではどこにあるのかね?」
「魔界になければ人界っ?」
「ならばすぐに見つかっているはずだろう」
「そうっすね、神者ギルドが把握してそうですけど」
「魔人門は崖と崖に挟まれてるだろ?」
「あー、その崖の先にあるのか」
「崖の上にあるのか……」
「あはははは、流石に調べない場所だねっ」
「それじゃ行くぞ、お前達!」
「へい」
「はいっ」
「なるほど、求心力はあるようだな」
はい、エルフの里過疎地バージョンでございます!
荒野にある部族の集落って感じだな。
地面が岩で、岩で出来た家が多数。
こりゃ上手いカモフラージュだわ……空からでも見つからないだろうな。
「さぁ、里の場所は教えたぜ。
こっからはレウスの仕事次第だ!」
「あれ、ここで待つんすか?」
「俺は里から飛び出して来たからな、これ以上入って見つかったらお偉いさん方に怒られちまうよ」
「これはテンプレというよりベタだな?」
「まぁベタですが……何かこれ里に入れ無さそうな雰囲気満載ですけど?」
門番みたいなのが4人も立っていらっしゃる。
「エルフの里の入り方を知らんのか?」
「そんなのありましたっけ?」
「おいデューク、剣人に教えてやれ」
「はいっ」
「そんな方法が……?」
「勇者ランキング1位のデュークだっ!」
おいおい今でも通じる訳が――
「「「「はっ、お疲れ様です!」」」」
あったわ。
「デュークさん死んだ後、順位が変動されたでしょうに……」
「死んだ時の順位が墓に彫られるのだぞ?
ならば死んだ時の順位を申告すれば通るのが道理だ。
ほれ、剣人もやってみるがいい」
あれ、俺何位だったっけ?
「ケント君は36位だったよねっ」
「勇者ランキング36位のレウスです!」
「「「「はっ、お疲れ様です!」」」」
「魔王ランキング1位の利休だ」
「「「「はっ、お疲れ様です!」」」」
「あれ、1位になったんすか?」
「剣人が死んで10年後位にジージが引退したからな」
「ほえー」
「この決まりがまだ生きてたとは驚きましたねっ」
「エルフの里は絶対中立……これは古からの決まりだ。
そもそも両ギルドの存在がなくなってしまった事が異常だからな」
「やっぱりそれはあの変神が?」
「そう、あの変神が世界の法を定めた……のにもかかわらず自分でぶち壊した……」
「馬鹿ですね」
「あぁ、馬鹿なやつだ」
「あははは、やっぱりケント君が死んじゃったせいかなっ?」
「そうだ……理から外れていても、剣人はこの世界の大きな歯車の一つとして動いていた。
それをあの変神は、くだらない不始末で外してしまったのだ」
「馬鹿ですね」
「あぁ、馬鹿なやつだ」
「それで副神さんって人が修正する為に頑張っているって事かなっ?」
「良い人ですね」
「あぁ、あの人は……神に対して言うのもアレだがかなりの人格者だと思う」
「好感持てますね」
「あぁ、変神とは大違いだ」
【そろそろやめときましょうよ】
【…………】
【あ、天界に戻ったらより一層努力します】
【…………】
【あ、はい】
「ところで適当に歩いてますけど……エルフの長ってどこで会えるんですかね?」
「エルフの長の家は、門番が立つ位置から最奥と決まっている。
門番から対角線に進んで行けばそのうち着くだろう」
「今更ですけど博識っすよね」
「神にとって、知識は威張れるものではない。
知っていて当然だからな」
「なんか変神の奴、「検索しないと」って連呼してましたよ?」
「無論、主神まで上り詰めるとその知識量は膨大だが、その知識を吸収出来るだけの能力が身に付いているはずなんだが……クソ爺めっ」
「怠けてた証拠って事ですね」
「この分だと、剣人と再会するまでの十数年間忙しかったっていうのが怪しくなってきたな」
「降格処分とかできないんですかね?」
「1つだけ方法があるんだが……」
「どんな?」
「人界や魔界もそうだったからわかると思うが、天界も実力主義でな」
「ガキ大将を決めるんじゃないんですから……」
「副神に上り詰めた者が主神を倒せば、立場が入れ替わる」
「見込みはあるんですかっ?」
「たしかに副神も強いが、あのクソ爺は文字通り神の領域だからな。
そうだな……今のデューク10人分というところか」
インフレが……。
まぁ俺の関係ない話だしいいか。
「しかし今回の事が原因で……なかなかに面白い結末になりそうだな」
「へぇ?」
「副神が2000年の差を埋めれたのは大きいな」
「おぉ、クライマックスに神々の戦いが!?」
「あははは、それは見てみたいねっ!」
「もしかしたらお前達は見れるかもしれないな」
「「おぉっ!」」
「その戦いに巻き込まれて死んでも、お前達なら神格化くらいさせてくれるだろう」
…………。
「ほれ、ここがそうじゃないか?」
「入口に1人いますし、そうなんじゃないすかね?」
「彼、結構強いねっ」
2メートルはある大柄なエルフが、番犬の様に腕を組んで立ってるな。
確かに……リュウリュウ並の強さはあるんじゃないか?
「門番より連絡は受けている。
長が中でお待ちだ、入れ」
「意外だな?」
「もっと会うのを躊躇うと思ってたんですけどね」
「私もそう思っていた」
「ワクワクするねっ」
また似合わないセリフを……。
あれ、この匂いは……鉄?
鍛冶屋の匂いか?
「やぁ待ってたよ3人共!」
エメラルドグリーンの髪でお団子頭……口元の黒子。
服は白い作業服に藍色っぽいエプロン……。
おっとりした30代の女性で、このガラガラ声……と言えば。
「アイさん……?」
「はっはっは、まさか坊やに会えるとはねぇ」
「なるほど、レイヴンが開いていた勇者塾に、エルフの里に縁がある者がいたとしてもおかしくないか」
「そ、入口にいたのが私の息子の「ライ」。
あの子が私に召喚術を教えてくれたんだよ」
「お久しぶりですっ」
「なんか緑髪のデューク坊やも新鮮だねぇ!」
「ははは、相変わらず元気ですね」
「やっぱり私にはこれだけが取り柄さね。
それで今日は何しに来たんだい?
もう鍛冶屋はやってないけど、皆がご希望なら臨時でやっちゃうよ!」
「ふふふ、これは話が早そうだな」
「本日はエルフの里の長にお話があり、ここまで来ました」
「……へぇ、この世界をなんとかしようって腹かい?」
「黒いですがそういう腹です」
「ははは、面白そうじゃないか!」
「――って感じですね。
引っ越しに掛かる費用は全て南の国持ち、アイさん達には魔人門に住んで頂くだけ。
そして、その安全度は、おそらくここより快適……いかがでしょう?」
「うまい話には裏があるのが付き物だけど、そこんとこがわかんないね?」
「実は、一番の狙いとしてはエルフの里の中立の立場、それを最大限使いたいと思ってます」
「……なるほどね、魔人門をエルフの里で文字通り「塞げば」、人界からジャコールへ行く手段が、エルフの里を通る他無くなるって事だね?」
「そう、勿論飛べる人や魔物は別ですが、地上の交通手段さえ封じてしまえばエルフの里を挟んででしか睨めなくなる。
……勿論、睨まない様にするのが一番なんですけど、根付いてるものをすぐに……ってのは簡単に割り切れるものじゃないですからね。
そこのフィルター役としてエルフの里に白羽の矢が立った訳です」
「……もし私達が断ったらどうするつもりなんだい?」
「簡単です」
「「「?」」」
「俺達が魔人門に住みますから」
「「「プッ……アッハッハッハッハッハ!」」」
「いや、それは想像してなかったな」
「僕達が魔人門に住む……かっ!」
「面白いアイディアだねぇ!」
「幸いデュークさんは東の国の王子、その守護者を俺達の家族が守れば東の国は豊かになれます」
「確かにこれが形になれば、私達の利益は想像できない。
……坊やの利益は考えなくていいのかい?」
「ウィンウィンの関係が良いんです。
お金なら頑張れば貯められます。
それにこの話が成れば俺達にもメリットがあるんです」
「へぇ、そりゃなんだい?」
「お休みがもらえます」
「はっはっはっは、相変わらず面白い坊やだ!
ジャコールの奴ら……って言うと、パックの奴は元気にしてるかい?」
「里の外で大人しくしてますよ」
「あの子も成長したんだね、落ち着いたら顔を出させておくれ」
「へい、師匠!」
「鍛冶はまだ初歩的な事しか教えてないよ、覚えたかったらいつでもおいで!
この提案、私の方からお願いさせてもらうよ!」
「ありがとうございます!」