第百四十三話「確率変動」
「……では、このまま別の話をしよう」
「別の話……ですか?」
……お、スナイパー達が消えてったわ。
こんな王らしい王、初めて見たなおい。
「あぁ、まずは君に謝罪をしたい。
ラーナ殿の所在をこちらでも捜索していたが、我が国にはその様な事を実現出来る実力者がいないのも事実だ」
そうですねとか言えない状況でおじゃる。
「レウス殿、先祖の愚行とはいえ、これも私の血の一部……本当に申し訳ないと思う」
「いえ、そのような事は……」
「先祖はそなたの国を壊したのだぞ?」
「……確かにそうかも……あっ」
「くくくく、よいよい。
なるほど、それが真のそなたか……。
私によく似ているかもしれないな?」
「陛下に……ですか?」
「そなた、世界を損得で見る事が多いだろう?」
「言われてみればそうかもしれません」
「かの賢王ダイムもそうだったと聞いている。
良いものを受け継いだな」
俺の感性って、転生以外の遺伝って本当にあるのかって思った事も確かにあるが……どうなんじゃろう?
いや、あるんだとは思う。
事実身体的特徴の髪の毛が遺伝してるからな。
思想や思考はともかく人間的な能力が遺伝していてもおかしくはないか?
しかしこれは思考になるのか?
むー……わからんもんだな。
「時には苦渋の決断をせねばならん時もある。
その時、どちらに利があるのかを見極め、そして意思を強く持ち決断する力こそ、王には必要なのだよ」
「私にそれがあると?」
「普通の人間ならば仇である国に、利を運んでは来ないであろう?」
「包み隠さず言うのであれば、もっと大きな狙いがあるからです」
「ほぉ……しかし王はそうでなくてはいかん。
その狙いとやら、私にも一つ噛ませたまえ」
貪欲な王だ事……ってそうか。
確かに似てるかもしれんな。
「最初からこの策は南の国がないと成り立ちません」
「ほぉ……ふむ、相わかった。
リー、下がってよいぞ」
「し、しかし……」
「では私と陛下のみでお話させて頂きます」
「リー」
「……かしこまりました」
「皆を別室に案内してくれ」
「はっ」
「すみません皆さん、少々お待ちを……」
「相わかったっ」
それ言ってみたかっただけだろ?
「……さて、人払いは済んだ。
ここへ掛けたまえ」
「そこは陛下の――」
「構わぬ、そなたは私と対等の地位の人間だ。
そしてここは……」
「ここは?」
「私には大きすぎる椅子だとは思わないかね?」
ジョークも王っぽいな。
「ははは、仰る通りで……」
「くくくく、では掛けたまえ」
「はい」
「ではその大層な狙いとやらを聞こうか?」
人払いまでさせちゃったし、ここで通信ケーブルというのはなんか味気ないな。
そして、このおっちゃんの話を俺も聞いてみたいんだよな。
「まずはこの同盟の話、どう思われますか?」
「無論、良い方向で返事をしたいと思っている」
「この同盟が成す利益で少し投資をして頂きたく思います」
「そなたがそう言うという事は、その投資の見返りが莫大なものであると推測するが?」
「素晴らしいご慧眼ですね」
「くくく、「鼻が利く」と言ったであろう」
目の話をした事は黙っておこう。
……わかってて突っ込んでるからな?
「東の国の北東の魔人門、これが閉じた事はご存知ですか?」
「うむ、リア王より知らせがあった。
閉じたのは息子と、その友人である第9剣士部隊の部隊長ドン……なるほど、やはりそなたで間違いなかったか」
「これをまた開く予定でございます」
「ほぉ?」
「開いた魔人門にエルフの里を作りたいと思っています」
「里づくりの援助か……発見の目処は?」
「有能な知り合いがいます」
「……続きがありそうだな?」
「現在、ほぼアンチさん以外で、ジャコールとの休戦協定を結ぶ話が出ています」
「なるほど、エルフの里の用心棒をさせるわけだな?」
「この相互作用により、中央、南、東のパイプからどの国にも利が発生します」
「ジャコールの人間が従わなかった場合は?」
「こう見えても顔が利きまして、実力者の当ては多数ございます」
「北の国の話が出てこないが……?」
「小さいながらも国が2つ増えるのです。
輸出先が増えただけで相当の利になるはずですよ。
北の国からでしか輸出できないものも多数あるでしょう。
より堅固になる東の国とも交易が盛んになるはずです」
「…………」
「いかがでしょうか?」
「……人との繋がりは斯くあるべきなのかも知れぬな」
「ここから人の欲が出れば、こっちがマイナス、あっちがプラスになっていきますけどね……」
「いや、レウス殿……見事だ」
「ありがとうございます」
「投資した額に応じて輸出物の優先権はあるのだろう?」
根っからの商人キングだなこの人。
「細かい話になると思いますが、その交渉権が優位になるとだけ言わせて頂きます」
「くくく、それで十分だ」
「あ、遅くなりましたが、これを陛下に……」
「……直剣?」
「宮廷鍛冶師のチャム、渾身の一作です」
「……このカードはもっと早く切るべきだったのではないか?」
「こちらの不勉強でした」
「よい、そなたは全てのカードを切らずとも、この戦に勝ってみせた。
余力を残して勝てるのだ。
やはり私とは格が違ったようだな」
「ご謙遜です」
「…………これは私のヒューマンコードだ。
何かあれば利用してくれたまえ」
「よろしいんですか?」
「これはレウス殿に対する先行投資だよ」
「見返りなんて――」
「期待しているぞ」
ホントすげぇわこの人……。
はい、城から出て来ました!
「ケント君お疲れ様っ」
「着替えるのメッチャ速いですね……」
「あははは、動きにくくてねっ」
「レウス、この後どうするんだ?」
「チャムさんはどうします?」
「人質となる可能性があるなら、しばらくそちらの厄介になろうと思ってる」
「助かります」
「……頑張れよ」
「はい、頑張ってます」
「ふんっ」
チーン!
《件名:呼び出し》
《パックが剣人と会いたいそうだ》
ふむ、こういうパターンか……。
「この後の予定が決まりました」
「どうするんだいっ?」
「デュークさんは俺とジャコールへ、ビアンカはチャムさんをアジトへ」
「わかった」
「わかったわっ♪」
「そしてビーナスはビアンカ達と一緒にアジトへ行った後、ハティーを連れてエヴァンスへ行ってくれ」
「あいつと一緒に……エヴァンスへ?」
「そろそろアンチさんを発見しておかないといかんからな。
ハティーの鼻が役に立つと思うのだ」
「第2剣士部隊の部隊長室からアンチの物を何かしら持ってくれば……という事か」
「場所だけ特定してくれれば良い。
危ない行動をしたら罰ゲームだからな」
「ふっ、私は大事にされてるな」
そこじゃねぇだろ。
いや、まぁ気を付けてくれるなら良いんだけどさ。
「それじゃ行こうかっ」
「へいおやぶん」
はい、というわけでジャコールにやってまいりました!
メンバーはデューク、ケミナ、テレス、アーク、ラーナ、利休、そしてガラードだな。
現在はジャコールの外でお話中でございます。
「デュークが来たなら私はもう用済みだな」
「あら、そんな事ございませんわ?」
「ははは、利休さんは別件でこき使いますからね。
手は足りますか?」
「多少なりとも厄介だからな、誰か借りてくか」
「そんじゃまずガラードだな」
「何故だレウス」
「そのお腹、ひっ込ませないと一生美味しい物が食べられなくなるぞ?」
「ガラードは身命を賭して利休に付いて行こう」
「後は……テレス、行ってくれるか?」
「勿論ですわ」
「レウス、テレスのお腹も出てるのか」
「何言ってんだ、テレスのくびれは素晴らしいぞ。
魔物言語の扱える交渉術に長けた人選なだけだ」
「では行ってくる」
「行って参りますわ、お兄様」
「気を付けてください」
「ほれガラード、さっさと飛べ」
「待て、助走が必要だ」
いつアホウドリになったんだお前は。
「行くぞ」
「さっさと行け」
ダッダッダッダッダッダッ
「合点承知之助、確・率・変・動!」
走る度お腹が揺れるのはどうかと思うぞ。
バサッバサッバサッ
「あの掛け声、何パターンあるんだろうねっ?」
「あ、私前に聞いた事があります」
「へぇ、何だって?」
「いんふぃにてぃがどうとか言ってましたよ!」
可能性は無限大。
「パパ、そろそろ行きましょうよっ」
「へーい」
「師匠、ご案内しますっ!」
「弟子、お願いしますっ!」
「こちらでございますっ」
「ところでアーク」
「はい?」
「今更だがテレスとはうまくいってるのか?」
「な、何を言われるのですかっ!?」
「あれ、ダメだったのか?」
「なななな何のお話をされてるかわかりませんっ」
「そうか、アークはこういうのは慣れないのか」
「私全然知らなかったわっ♪」
「2000年の恋のレクチャーなら私が出来ますよ!」
「あははは、懐かしいねぇっ。
アークが一目惚れだったんだよねっ」
「ち、父上までっ!?」
「僕とケント君だけが気付いてたよっ」
「マカオも後から気付いてたっすね」
「か、からかわないで頂きたいですっ」
「相手は女王、難しい恋よね~っ♪」
「ラーナ……覚えてろよっ」
「で、ラーナはどうなんだ?」
「え、私に振るのっ!?」
「娘の成長を2000年後でしか知らないからな、結婚してないまでも相手の1人や2人いたんじゃないのか?」
「い、いませんよーだっ」
「どうなんだアーク?
お父さん心配で涙がいつか出る」
「いつかって何よっ!」
「私とラーナは、偉大な親を超える為の修行で、そこまでの余暇はなかったと思いますっ」
「ケント君聞いたっ!?」
「分不相応なアレですね」
「到着でありますっ」
「み、皆さんここは昔のジャコールじゃないんですよ!?」
「まったく……ここは敵地だという自覚をして欲しいものだな?」
「あ、ツーダンさん」
「お久しぶりですっ」
「相変わらずとぼけた奴等だ。
遠くからでもお前達の声が聞こえたぞ……」
ここは昔の勇者ギルド「やしうゆ」だった場所だな。
やしうゆって覚えてる?
俺はギリギリ覚えてるぞ。
確かに中に……お強い方が3人程いらっしゃる。
「ちゃんと行動で示しましたからね」
「かなり違う話になってなかったか?」
「ははは、そうですね。
ちょっと問題が起きまして、今は神者ギルドの孤立化を図っています」
「簡単にやってのけられる事じゃないのはここの皆もわかっている事だ。
パック達が待っている……入れ」
ざ、交渉たいむ!