第9話【ファイル1】さまよう死霊事件 その7
「さて、収穫と言える収穫はなかったわけですが、どうしましょうねぇ」
ユリアはあっけらかんとした様子で言う。ユリアとレオンはスコット教授の研究室を後にし、公用車に戻ってきた。
「そうですね…。一旦、リシェルさんに報告します」
レオンは携帯電話でリシェルに連絡すると、すぐに出た。
「お疲れ様~。なにか収穫はあったかい?」
レオンはスコット教授から聞いた話をかいつまんで報告すると、リシェル「うーん」と少し考えこんだ様子を見せてから話し始めた。
「とりあえずコルン・トーナーのことは一旦、保留にしようか。次にオルフェ・ドームスに関してだけど、イーストフォレストの法務局に行って戸籍と家系図を調べてくれないかい? オルフェには配偶者や子供はいなかったけど、親戚筋に死霊術に関わりがある者がいるかもしれないからね。戸籍の閲覧には捜査関係事項照会書が必要だし、今から送るからそこで待っててよ」
「え、そこって…」
レオンが聞き返すも、リシェルはすでに電話を切ったあとだった。
「どうかしましたか?」
電話を耳から離し、困った顔をするレオンの顔をユリアは覗き込む。
「いえ、イーストフォレストの法務局でオルフェ・ドームスの戸籍と家系図を調べるように言われて、そのためには捜査関係事項照会書という書類が必要なのですが…」
レオンがそこまで言ったところで、こつんと何者かが公用車の運転席側の窓ガラスを叩く音がした。
レオンは振り返ってみて見ると、サイドミラーに一羽の真っ白なハヤブサが止まっていた。そのハヤブサは、窓を開けろというように、くちばしで窓ガラスをコツコツと叩く。
レオンは訝しく思いながら窓を開けると、ハヤブサはいそいそと入ってきたかと思うと、レオンの腕に乗るなり流体のようにドロリと融けた。
「うわっ!」
レオンは驚いて腕を振ると、ハヤブサだったものはレオンの膝に落ちる頃には「捜査関係事項照会書」と書かれた書類に変わっていた。
「おぉ。これはすごいですねぇ」
ユリアは感心したように声をあげた。一方、レオンはバクバクとなる心臓に静まるように自分に言い聞かせながら、膝に落ちた書類を拾いあげる。
「で、では法務局に行きましょうか」
*
レオンたちはソルボン大学から三十分ほど車を走らせたところにある法務局で、捜査関係事項照会書を見せて事情を説明すると、職員は丁寧に資料を探し始めた。
しばらくして、応接室に通されたレオンたちのところに分厚い戸籍簿を持った職員が戻ってきた。
「オルフェ・ドームスさんの戸籍ですが、この方は成人後に分籍しています」
レオンは身を乗り出した。
「分籍…。元の戸籍も確認させていただくことはできますか?」
「はい、もちろんです。オルフェ・ドームスと関連する戸籍の照会とのことでしたので、ご確認いただけます」
職員は戸籍簿をめくりながら、さらに説明を続けた。
「分籍元は、イーストフォレストのブレストという街ですね。記録によると、分籍したのは五十年前、オルフェ・ドームスさんが事件を起こした直後ですね。その時期に分籍と同時に姓をドームスから母方の姓へ変更しています」
ユリアは目を細めた。
「事件の直後に姓を変えたんですね」
「えぇ。戸籍には姓を変更した事実しか記載されませんので、理由までは分かりませんが、時期的に見て、弟の事件をきっかけに戸籍を分けた可能性は高いでしょう」
職員はさらにページをめくったところで、レオンは戸籍簿を見て息を飲んだ。
「改姓後の姓は…。トーナー?!」
「えぇ、分籍と同時に姓を変更することは珍しくありません。特に、家族内でトラブルが起きた場合は家を分けるために姓を変える場合があります」
ユリアは目を細め、静かに言った。
「オルフェ・ドームスのお兄さんの孫にあたる方に、コルン・トーナーの名前もありますね。つまり…」
「コルン・トーナーさんの祖父はオルフェ・ドームスの兄、戸籍は分かれていますが、続柄としては兄弟ということになります。つまり、オルフェ・ドームスはコルン・トーナーさんの大叔父にあたります」
職員の言葉にユリアは腕を組んで満足そうに頷いた。
「やっぱり彼らは繋がっていましたねぇ」
レオンは表情を引き締めた。
「血縁関係があるなら、コルンさんにも死霊術の適性が出るかもしれません、参考人として話を聞けないかリシェルさんに確認してみます」




