表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒門海戦録 新・松前レンジャーズ ―幕末、北の海に黒い門が開く―  作者: 月白 航


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/2

プロローグ

幕末の松前を舞台にした、和風歴史バトルファンタジーです。

すべての異変の始まりとなる、北の海辺の夜から物語は始まります。

慶応四年の秋、松前の海は、夜になると人の名を呼ぶようになった。

北前船「宝寿丸」の船頭、源蔵は、その声を最初に聞いた者のひとりだった。海辺の鳥居の下、風は止まっていた。波も静かだった。だが、足もとの砂だけが、呼吸するように黒く濡れていた。

源蔵は懐に入れた小さな木箱を握りしめた。箱の中には、松前藩の古い鍔が入っている。黒瀬家の紋が刻まれた鍔。二十年前、海で消えた男が、最後に船倉へ残していったものだ。

「返さねばならん」

源蔵はそうつぶやき、鳥居の向こうに立つ少女を見た。白銀の髪。白い小袖。赤い袴。神代白羽は、祠の前で弓を抱き、夜の海を見つめていた。

その瞬間、海面が裂けた。

波ではない。闇そのものが、縦に割れた。割れ目の向こうには、海より深い黒があった。そこから、いくつもの手のようなものが伸び、源蔵の足首をつかんだ。

「黒い門が、戻ってくる」

白羽の声は震えていなかった。だが、その瞳は、源蔵が見たどの海よりも悲しかった。

源蔵は木箱を投げた。白羽はそれを受け止めた。次の瞬間、黒い水が源蔵の腰まで這い上がる。声が聞こえた。置いていくな。帰してくれ。お前だけが陸へ上がるのか。

源蔵は答えなかった。答えれば、海に名を奪われると知っていた。

遠く、松前城下の一角で、若き藩士・黒瀬迅之介は眠りから跳ね起きた。床の間に置かれた古刀「潮断ち」が、抜いてもいないのに低く鳴っていた。

まるで、海の底から誰かが刃を叩いているようだった。

夜明け前、白羽は濡れた砂の上に膝をつき、木箱を開いた。黒瀬家の鍔は、淡く紫黒い光を帯びていた。

祠の奥で、古い石板がひび割れる。

松前の海は静かに見えた。

だがその奥で、黒い門は、確かに目を覚ましていた。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

面白いと感じていただけたら、ブックマークで続きを追っていただけると励みになります。

次回、若き松前藩士・黒瀬迅之介が、黒い水の跡を追います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ