予期せぬプチ修羅場
しかし相手は攻めの手をゆるめようとはしなかった。
真っ赤になった小雪のことをじっと見据えて、夕菜は淡々と宣戦布告する。
「直哉おにーちゃんのことが好きなら、夕菜のライバルだよ。どうなの?」
「うっ、ぐ、そ、それはぁ……」
小雪は視線をさまよわせてうろたえる。
しかしそれでも、ぷるぷると震えながら言葉を絞り出した。
「す、好きか嫌いかで言ったら、嫌いじゃないっていうか、その……」
「つまり好きなの?」
「そ、そーよ! 好きよ! 大好きよ! 悪い!?」
やけくそ気味に叫ぶ小雪だった。
好きな子からのダイレクトアタックである。普通に嬉しいところなのだが、ちょっと場所が不味かった。
「あの、小雪。そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、すこし声を落とした方がいいんじゃないかな……」
ここはショッピングモールのど真ん中である。
小雪の大声での宣言は、当然ながら多くの人目を引いてしまった。
微笑ましそうな目や、呆れたような目、「あっ、あれうちの学校で有名なバカップルだ」といった感慨深そうな目がいくつも突き刺さる。
そうしたものに晒されて、さすがの直哉もふたりをなだめようとする。
しかし、そのときだった。
「あーら、そこにいらっしゃるのは夕菜さんじゃなくって?」
「うん……?」
宝石を転がすような澄んだ声が、三人の背後から降りかかった。
振り返れば、ひとりの女の子が立っている。
年の頃は夕菜と同じくらい。
長い金髪の一部をロールにして頭に赤いリボンを飾っており、瞳の色は鮮やかなワインレッド。着ているワンピースもふりふりで、まるで絵本に出てくるお姫様のような見た目だ。
そんな美少女が両手を腰に当てて、不敵な笑みを浮かべている。
まっすぐ見据えるのはもちろん夕菜だ。
「うっ……エリスちゃん」
そんな少女を見て、夕菜は気まずそうに目をそらす。
「……エリスちゃんもお買いもの?」
「ええ。お母様からおつかいを頼まれましたの。それにしても……」
エリス、と呼ばれた女の子はすっと目を細める。
視線の先にあるのは、お客に手を振るにゃんじろーの着ぐるみで――。
「夕菜さんったら、まだそんな不細工な猫なんかに夢中ですのね。まったく、学校の他の子たちと同じで幼稚なこと」
「なっ……!」
小馬鹿にするようなその台詞に、夕菜がばっと顔を上げる。
何かを言おうとして口を開くものの、すぐには言葉が浮かばなかったらしい。
酸素の足りない金魚のように口を開いて閉じたりして……やがて夕菜はぷいっとそっぽを向いて、冷たく言い放った。
「エリスちゃんにはかんけーないでしょ! 早くどっかいって!」
「はあ!? せっかくこの私が声をかけてあげたっていうのに……ふんだ! そんなのこちらの台詞ですわ!」
エリスの方もすぐにきびすを返してしまう。
それを夕菜は、そっぽを向いたままちらちらと視線をやって見送った。やがてその後ろ姿が見えなくなって、盛大なため息をこぼしてみせる。
「えっ、これってひょっとして修羅場……?」
「そうみたいだな」
直哉も小雪も、顔を見合わせることしかできなかった。
続きは明日更新します。
書籍版もまだまだ絶賛発売中!書店にない場合は店員さんに言ってお取り寄せしてもらってください!
そしてコメント返信遅れております。申し訳ない……夏バテから復活したと思ったら季節性アレルギーでダウンしております。薬飲んだので明日には良くなってるとは思いますのでお待ち下さい!