夜祭り
高台に建つ、地域の小さな神社。
そこから伸びる緩やかな階段を降りた先に、祭りの会場が広がっていた。
車両が通行止めで歩行者天国となっており、道路の脇にはずらっと左右に屋台や休憩スペース、ステージなどが並んでいる。
観光ガイドブックにも載っていないようなお祭りだが、それでも規模としてはかなりのものだ。
多くの人が詰めかけて、子供たちのはしゃぎ声なども聞こえてくる。
直哉たちが到着したころにはすっかり日も暮れており、遠くからでもきらびやかな屋台の明かりが見えるほどだった。
祭り会場を見渡して、小雪はぱあっと顔を輝かせる。
「お祭りだわ!」
「お祭りだなあ」
直哉もにこにことそれに相づちを打った。
別荘から祭り会場の道中ずっと手を握ったままだし、今ももちろんぎゅっとつないでいる。
だから小雪のワクワクがより一層強く伝わってきた。
計画も忘れてついつい相好を崩してしまう。
そんなふたりをよそに、母親コンビと朔夜はそろって手を上げてみせる。
「それじゃ、私たちは適当に見ているから。お姉ちゃんは、お義兄様と一緒に行ってらっしゃい」
「えっ!? みんなで一緒に回るんじゃないの!?」
「それでもいいんだけど、ねえ……」
「ねえ……」
母親コンビは目配せし合い、ちらっと視線を祭り会場の奥へ向ける。
そこでは顔を赤らめた大人たちが何人もいて――。
「地酒の飲み比べかあ……」
「たまにはこういうのもいいわよねえ。ねえ、美空さん」
「ねえ、愛理さん」
母親コンビはにこにこと頷き合う。
明日で帰る予定になっているため、全力で旅行を満喫しようとする気概がひしひしと伝わってきた。朔夜も朔夜でギラリと目を光らせて屋台を見やる。
「私はお母さんたちと一緒に屋台飯を堪能するついで、いちゃつくカップルを観察して先生に提供できるネタを探そうと思う。だからお姉ちゃんたちとは別行動」
「それはいいけど……通報されないようにな、朔夜ちゃん」
「あんた、もっと他にちゃんとした趣味を探した方がいいわよ」
「本命の趣味はお姉ちゃんたちだけど、今回は配慮して席を外すの。ファイトだよ、お義兄様」
「何で直哉くんを応援するわけ……?」
「こっちの話だから。小雪は気にしなくていいから」
ともあれ方針は決定した。
母親らは地酒の飲み比べコーナー周辺で待機して、直哉と小雪はぶらっとあたりを回ることになった。
すでに臨戦態勢の三人に別れを告げて、直哉は小雪の手を引いて歩き出す。
「大丈夫か、足が痛くなったら言えよ。草履なんて履き慣れてないだろ」
「平気よ。それに、直哉くんなら私が言う前にわかるでしょ」
「そりゃまあ分かるけどさあ。やっぱり言ってもらいたいじゃん?」
「はいはい。そのときになったらね」
小雪はすました顔をするものの、ご機嫌なのは丸わかりだ。
下駄がアスファルトを蹴る音は軽快で、ずっと聞いていたくなるほどだった。
日が落ちたとはいえ、夏まっただ中のこの時期だ。アスファルトの道路は昼間にため込んだ熱を容赦なく放出しており、ただ歩くだけでも後から後から汗が湧き出してくる。
それでも直哉と小雪は、つないだ手を放そうとはしなかった。
どちらのものとも分からない汗で手のひらがぐっしょり濡れていることが分かっていながら、ぎゅっと力を入れた。
そこで小雪が空いた手で一軒の屋台を指し示す。
「あっ、わたあめだわ! ねえねえ、あれ一緒に食べましょうよ!」
「定番だな。いいじゃん、行こう」
「うん!」
顔を輝かせる小雪とともに、わたあめの屋台に向かう。
しかも普通の真っ白なわたあめではなく、カラフルな色つきのわたあめだ。おかげで小雪はますます期待に目を輝かせ――その横顔を見つめて、直哉はごくりと喉を鳴らす。
(よし、このままいい雰囲気を作って……決めるぞ、ファーストキスのリベンジ!)
続きは明日更新。
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