祭りへ出陣
そんな話をしているうちに、母親コンビも帰ってきた。
コンビニ袋の中身を整理しながら、ふたりが補足してくれる。
「今日はこの近くでお祭りがあるんですって。出店も出るし、花火も上がるって話なのよ」
「そうそう。コンビニの店員さんが教えてくれたの」
「お祭りかあ。いいね、夏らしくて」
朔夜もすこしワクワクしたように声を弾ませる。
すでにドライフルーツの大袋を朝から半分ほど食べきってしまっているというのに、出店で何を食べるか考えているようだった。
そして小雪の方も期待を隠しきれないようで、そわそわしながら直哉の顔をうかがってくる。
「地元のお祭りだからガイドブックにも載っていなかったみたいなの。ね、ね。一緒に行きましょ」
「もちろんだよ。今から楽しみだな」
直哉もにこやかにうなずいてみせる。
小雪と一緒に夏祭りに行くなんて楽しいに決まっている。
それに何より、直哉の野望を叶える大きなチャンスに違いなかった。直哉はぐっと拳を握る。
(夏祭りで彼女と一緒に花火を見る……お手本みたいなラブコメのシチュエーションじゃん!)
ここでキスしなければ、いったいいつ決めるというのか。
そういうわけで直哉は意気揚々と――小雪の母親に頭を下げる。
「それじゃあ小雪のお母さん! よろしくお願いします!」
「えっ、何でうちのママ?」
小雪は不思議そうに小首をかしげ、それからムッと眉を寄せてみせる。
「ちょっと直哉くん。ひょっとしてうちのママとお祭りに行きたいっていうわけ? 彼女の私を差し置いて? 堂々と浮気宣言なの?」
「お義兄様、私もそういう修羅場はちょっと解釈違いかも」
「ち、違うって! お祭りといったらあれだろ、あれ!」
「あれ……?」
怪訝そうな姉妹をよそに、小雪たちの母親は頬に片手を添えて苦笑をこぼす。
「やっぱり笹原くんにはバレバレなのねえ。こんなこともあるかと思って、一応一式持ってきていたのよ」
「ありがとうございます、お義母さん!」
「ほんとに何……?」
「さあ?」
「ごめんなさいねえ、うちの子が変で……」
やはり首をかしげる姉妹に、直哉の母親はひどく申し訳なさそうにため息をついてみせるのだった。
そしてその日の夕方。
「準備できたわよー」
「待ってました!」
母親らの呼びかけに応じ、直哉は別荘の扉を開く。
支度をのぞくわけにもいかなかったので、屋外待機を受け入れたのだ。
六時前だというのに辺りはまだ明るくて、西の空が燃えるような紅蓮色に染まっていた。窓から差し込む日差しもまばゆい。
そしてそんな光に照らされて――浴衣姿の小雪が立っていた。
直哉はごくりと喉を鳴らしてから、万感の思いを口にする。
「すっごく綺麗だ……!」
「ううう……恥ずかしげもなくよく言えるわよね、ほんと……」
小雪は顔を真っ赤にしてつま先を睨む。
白を基調とした浴衣には、小雪の瞳と同じ青色をした朝顔がいくつもいくつも咲き乱れていた。髪もアップにして、かんざしで大人っぽくまとめている。
いつもと違う出で立ちだし、首元があらわになる分色っぽい。
「いやだって、綺麗なものを綺麗だって言って何が悪いんだよ。っていうか、まず一枚写真撮ってもいいかな?」
「だっ、ダメに決まってるでしょ!? あなたそれ待ち受けにするだけじゃ飽き足らず、プリントして部屋に飾るつもりじゃない!」
「おっ、小雪もなかなか鋭いなあ。そりゃまあこんな可愛い姿、残しときたいって思うのが普通だし……あ、このアングルもいいな」
「こら! 待ちなさい! 誰も撮っていいなんて言ってないし何枚撮る気よ……!」
浴衣を着ているせいで動きが緩慢なため、連写しながら逃げる直哉を捕まえることはかなり難易度が高いらしい。
リビングのソファーのまわりを追いかけっこするふたりをよそに、母親コンビはほのぼのする。
「やっぱり持ってきて正解だったわね。仕立て直しておいてよかったわ」
「ほんとによく似合うっているわねえ。朔夜ちゃんも綺麗よ」
「ありがとうございます、お義兄様のお母さん」
朔夜は小雪と色違いの、黒基調で赤い朝顔の咲き乱れる浴衣姿だ。無表情のままピースして、母親らに写真を撮ってもらっている。あとで桐彦に送りつけるつもりらしい。
そんな話をしながらも出立準備は整って、五人そろって出かけることになった。
ちなみに法介とハワードはまだ帰ってきていない。全員口には出さないが『また何かに巻き込まれているんだろうなあ』という確信を抱いていた。
「ほら、直哉たちも早く出てちょうだいな」
「はーい」
母親に出るよう促され、直哉はその場で立ち止まる。
そこでとうとう小雪にがしっと手を掴まれた。
「捕まえた! もう写真はダメだからね!」
「わかったわかった。でも小雪がこんなに可愛いと、また撮りたくなるだろなあ」
「うぐっ……! じゃ、じゃあどうしたらいいって言うのよ!」
「そんなの簡単な話だよ」
小雪の手をぐっと握り返して、直哉はにっこりと笑う。
「ずーっとこのまま手を握っていてくれたら、写真を撮る余裕なんてないと思う」
「……まったく仕方のない人ね。手綱をつないでおかなきゃいけないなんて」
小雪は心底呆れたとばかりにため息をこぼし、ぎゅっと直哉の手を握り返した。
続きは明日更新します。
早いところでは本日あたりから書籍が発売されている模様!どうかよろしくお願いいたします。ふーみ先生が手掛けられた小雪のかわいいイラスト満載です!






