前途多難な計画
ファーストキスの仕切り直しを図る。
新たな目標を打ち立てた直哉の行動は早かった。
小雪とふたりきりになろうとしたり、ロマンチックな雰囲気を作り出そうとしたり……旅行を楽しむのをそっちのけで尽力した。
その結果――目標達成がならないままに旅行最終日、前日の朝を迎えていた。リビングのソファーに腰を落とし、頭を抱えて叫ぶ。
「意外とチャンスがない……!」
「そりゃまあ、これって家族旅行だし」
それに相槌を打つのは、アドバイザーこと朔夜だった。
昨日道の駅で買い求めたドライフルーツをもぐもぐしながらまったりしている。追い詰められている直哉とは対照的にリラックスモードだ。
「常識的に考えて、親も交えた旅行中に彼女とキスするとか無理だと思う」
「焚きつけた朔夜ちゃんがそれを言うのか!? まあ俺もちょっと『無謀だったかなあ……』って思わなくもないけど……!」
ふた家族の合同家族旅行は極めて盛り上がった。
父親コンビはもともと仲がいい(?)し、母親同士も気が合ったのかどこへ行くにも一緒にきゃっきゃとはしゃいでいた。
朔夜は朔夜でマイペースに旅行を楽しみ、小雪も直哉と一緒なのでご機嫌だ。
そういうわけで、全員そろっての行動が多かった。
巨大アスレチック施設やらウィンドウショッピング、バーベキューにマリンスポーツ……たしかにどれも楽しかったし思い出にもなったものの、そんなシチュエーションで小雪とキスするなどあまりにも難易度が高すぎた。
「でもほら、お義兄様のお父さんは応援してくれてるっぽいじゃない」
「それはそれで腹が立つというか、居た堪れないんだよなあ……」
法介は何かというと直哉と小雪をふたりきりにしようとしてくれて、それとなーく気を使われているのを感じて目眩がした。
もちろん向こうには直哉の野望が筒抜けなのだ。気にしないように心がけてはいたものの、さすがにキツいものがある。
ちなみに今日、法介とハワードの父親コンビは、先日ひょんなことから知り合った未亡人(かなりの大金持ち)が、夫の一周忌に際して知人らを集めたささやかなパーティを開くというので朝から隣町に呼ばれている。
たぶん二時間サスペンスドラマくらいの事件に巻き込まれることだろう。ハワードもそれが分かるのか、心底辟易したような顔で随行していった。
まあ、それはそれとして――。
「それじゃ、もう家に帰ってから作戦を立て直したら?」
「そっちの方がいい気がするけど……でもなあ……」
朔夜のまっとうな提案に直哉は渋る。
親との旅行中に彼女とキスをする。その難易度は並ではない。
だがしかし、こうした非日常だからこそより一層特別な思い出となることだろうという確信があった。それに、あまりこれ以上の時間をかけたくなかったのだ。
(これ以上、俺だけがあの記憶を抱えているのは心臓に悪い……!)
意識してしまうのは相変わらずで、一緒にいると異様にドキドキする。何より小雪はキスしたことをすっぱり忘れているため自然体で接してくるので余計である。
母親ふたりとコンビニまで出かけた小雪に付き添わなかったのも、ちょっと小休止を挟みたかったからに他ならない。
早いところ小雪にも『キスをした』という経験を刻み付けて、お互い平等にもだもだしないと心臓に悪い。
「うーん……何かうってつけのイベントがあればいいんだけどなあ」
近辺のガイドブックを手に取って、ぱらぱらとめくる。とはいえこの旅行中何度も開いた本なので、目新しい情報は載ってはいなかった。ややくたびれたそれをぼんやりめくっていた、そのときだ。
「ただいま!」
「あ、おかえり。お姉ちゃん」
小雪がばたばたと足音を響かせて帰ってきた。
そのままキラキラと目を輝かせて直哉の顔をのぞきこんでくる。
「ねえねえ、直哉くん! あのね、夜って時間ある?」
「は? そりゃまあ暇だけど……あっ!」
一瞬だけきょとんと目を丸くした直哉だが、すぐに言いたいことを察する。
ガタッと腰を浮かして小雪の手をがしっと握った。
「なるほど、乗った! 一緒に行こう!」
「うふふ、話が早くて助かるわ!」
「ちゃんと一般人のために解説も挟んで欲しい」
朔夜がまっとうなツッコミをぼやいた。
続きは明日更新します。
早いところでは、明日くらいから書籍が出回りはじめるかと思います。
どうかよろしくお願いいたします!
発売を記念して、こちらの更新はあと二週間ほどは毎日更新予定です。お楽しみいただければ幸いです。






