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青少年は大いに悩む

 小雪が熱を出した二日後。

 今日は二家族揃って近くの海に遊びに来ていた。

 

 大人達は海辺のカフェでのんびりしており、直哉らはそろって海に繰り出した。

 今日も雲ひとつない晴天で、夏の日差しが水面に反射してどこもかしこもまぶしいばかりだ。

 そんな海原に、小雪は浮き輪でぷかぷかと浮かんでいた。

 しかしふいにハッとして振り返る。

 

「っ、きゃあああああ!?」


 ざばーーん!

 

 甲高い悲鳴が響き渡った、次の瞬間。

 高波が押し寄せて、小雪を頭から飲み込んだ。

 浮き輪のおかげですぐに海面へと顔を出すものの、手足をばたつかせながら必死の形相で助けを求める。


「たすけて! しぬ! おぼれるううう!」

「お姉ちゃん、その辺はまだ足がつくはずだよ」


 そんな姉へ、朔夜が淡々とツッコミを入れた。

 着ている水着はフリル多めのかわいい系で、スレンダーな体によく似合う。胸は姉より控えめだが、成長の可能性に溢れていた。

 ビーチボールで一人遊びをしながら、心底呆れたような目を姉へと向ける。

 

「っていうか、浮き輪があるんだから溺れるはずないでしょ。少しは落ち着いてほしい」

「わかんないでしょ! 人間は五センチくらいの水があったら溺死できるのよ!」

「そんなに水が怖いなら、海岸で砂のお城でも作っていたらいいのに」

「ふんだ、朔夜と直哉くんが海で遊ぶって言うのなら監督役がいるでしょ。地の果てへでもついてくんだから」

「仲間はずれが嫌なら、素直にそう言えばいいのに」

「そ、そういうのじゃないし! えい! 朔夜なんてこうよ! えい!」

「当たりませーん」


 真っ赤な顔で水をかけてくる姉の攻撃を、朔夜はすいすい泳いで避けていく。

 妹の方は姉と違って、水泳も万能らしい。

 姉妹の後ろの方にいた直哉のもとへと近付いてきて、真顔で小雪を指し示す。


「どうしよう、お義兄様。お姉ちゃんがやっぱり水は無理みたいだし、砂浜に戻る? それで一緒にフナムシでも捕まえて遊ばない?」

「もっと可愛い生き物を探しなさいよ!? ヤドカリさんとかいるでしょ!」

「どっちも甲殻類だし、分類上は似たようなものだよ」

「可愛いか可愛くないかの違いは重要でしょ!?」


 姉妹がやいのやいのと言い合う中――。


「…………はあ」

「お義兄様?」

「直哉くん……?」

「へ……? あ、なに? なんか呼んだ?」


 直哉はそこでハッとして顔を上げる。

 気付けば小雪と朔夜が、心配そうな目でこちらを見ていた。


「お義兄様、おとといくらいから変だよ。いつもぼーっとしてるし、熱でもあるの?」

「やっぱり私の風邪がうつったんじゃ……」

「いやいや。朝も計ってきたけど、大丈夫だっただろ。元気そのものだって」


 直哉はぐっと力こぶを作っておどけてみせる。

 実際のところ、体調は万全そのものだ。反応が遅れたのは、ちょっと考え事に熱中しすぎただけである。

 そう説明するのだが……小雪が近付いてきて、直哉の顔をのぞきこんできた。


「でも無理してるんじゃないの。なんだか顔色も優れないみたいだし」

「えっ、お、おう……」


 距離が近くなり、直哉はさっと小雪から目をそらす。

 そうしなければ、海水で濡れた唇に釘付けになってしまっていたことだろう。

 目をそらしたまま、直哉はぼそぼそと続けてみるのだが――。

 

「ほ、ほんとに大丈夫だって。俺は向こうにいるから、ふたりは遊んで――」

「そういうわけにはいかないわ。ほら、早く来なさい」

「うわわ……!?」

 

 直哉の手をぎゅっと握り、小雪はずんずんと海岸の方へと向かっていく。

 ちらっと振り返り、頬を赤らめて言うことには――。


「もしも私の風邪がうつったのなら、私の責任よ。直哉くんの面倒を見る義務があるの。だから、その……つきっきりで見てあげる。せいぜい感謝しなさいよね」

「わかった、わかったから……ありがとうございます……」

「ふふん、それでいいのよ。今日はずいぶん素直ね!」

「? やっぱりお義兄様、今日は変な感じね」


 小雪は満足そうだが、後ろから追いかけてくる朔夜の方はなんだか釈然としない様子だった。

 その一方で、直哉はこっそりため息をこぼすのだ。


(うん……原因はたしかに小雪なんだけどな……うん)


 直哉の不調の原因は、もちろん先日奪われたファーストキスだった。

 そして、いまだに小雪があの日のことを思い出す気配はない。

 おかげでひとり抱えることしかできず、非常に悶々としているのだ。


(本当どうしようかなあ……言うべきか、言わざるべきか……めちゃくちゃ難しい二択だぞ、これ……)


 言うと、小雪が羞恥心のあまりぶっ壊れることだろう。

 言わなければ、直哉が悶々とするだけで済むのだが……小雪が今後万が一にも思い出したとき、『なんで言ってくれなかったの!?』とめちゃくちゃに怒るのは目に見えていた。


 さてどうしたものか、と直哉はふたたび物思いに沈んでしまう。

 そのせいで注意散漫になって……朔夜がふと気付いたように声を上げても、すぐには対応できなかった。


「あ、お姉ちゃん。そのあたりナマコがいるから気をつけてね」

「なんかぶにっとしたもの踏んだああああああ!」

「ぅぶわっ!?」


 小雪が奇声を上げてすっころび、手をつないでいた直哉も巻き添えをくらって海の中に沈んだ。

続きは明日更新します。

週明け7/14(火)発売になりますが、早いところでは月曜あたりから書籍が並び始めるみたいです。

お見かけの際は是非ともよろしくお願いいたします。特典情報はこちら!


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よろしくお願いいたします!とらのあな限定版もどうぞ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] まだ悩んでたのかw 覚悟を決めてやり直せよw [気になる点] >成長の可能性に溢れている o(´□`o) [一言] 意外にいじいじすんのねw
[一言] 個人的には、ひみつを墓までもっていけば ファーストキス2回できてお得ゥ!と思うんですがね
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