リベンジへの布石
「困った……やることがない」
リビングのソファーで、直哉はぼやく。
法介たちを見送って一時間あまりが経過して、小雪は今もすやすや眠っている。
おかげで直哉は完全に手持ち無沙汰だった。
別荘はもとから管理人によってピカピカに掃除されていたし、洗濯物は女性物が多いため、母親たちが帰ってきてから取り込んでもらう約束だった。
よって家の中では、今のところ何もすることがない。
かと言って小雪を放って、外を出歩くこともできなくて……直哉は携帯をいじったりして暇を潰していたものの、気もそぞろになってすぐに飽きた。
「何か本でも持ってくりゃよかったな……お?」
暇潰しを探して視線をさまよわせたところで、ローテーブルの上に一冊の雑誌があるのに気付く。
付箋まみれのそれは、昨日小雪が持ち出してきた観光ガイドブックだ。
「あ、昨日から置きっぱなしだったのか。ちょっと借りるかな……」
小雪の風邪が完治したら、行きたいところに連れて行ってあげよう。
下調べもかねて、直哉はガイドブックに手を伸ばす。
そうして付箋のついた箇所をぱらぱらとめくった。
大きなレジャー施設から、隠れ家的な古民家カフェ、大きな自然公園などなど……ガイドブックには数多くのスポットと、それらの楽しみ方などが書かれていた。
小雪がチェックを付けておいた箇所にざっと目を通し……直哉は本を閉じて天井を仰ぐ。自然と口からこぼれ出るのは、感嘆のようなため息だった。
「完全にこれ……雰囲気重視のデートスポットだな」
小雪がピックアップしていたのは、プラネタリウムや静かな湖、夜景が見える高台……などなど。
それなりにひと目を避けて、ふたりっきりの世界に浸れる場所ばかりだった。
その目的は、たぶん直哉と一緒だろう。
(やっぱり小雪もファーストキスのリベンジを狙ってたんだな……知ってたけど)
先日、色んな偶然が重なった結果お流れになってしまったファーストキス。
小雪もそれを気にしていることは知っていたが……実際こうした物証を目の当たりにすると、ちょっとくるものがあった。
(そうなると……この中のどれかに連れてって、勝負をかけるか?)
昨日、勇気が出ずに見送った機会を、必ず次は物にする。
そんな決意を胸に抱き、小雪のチョイスしたデートスポットを精査していく。
わりとどこもかしこも雰囲気抜群で、小雪は何処に連れて行ってもよろこびそうだった。だからこそ直哉は大いに悩んだ。すべては最高のファーストキスのために。
しかしそこでふと、先日巽に言われた台詞が脳裏をよぎった。
『おまえががっついて、大失敗するっていうパターンも見てみたくはあるんだよな』
そのニヤニヤ笑いも脳内再生されて……すっ、と直哉は冷静さを取り戻す。
「うん……焦っちゃダメだな……」
笑いのネタを提供するのは出来るだけ避けたかった。
水でも飲んで頭でも冷やそうかと、立ち上がったそのときだ――。
「直哉くん……?」
「はい!?」
小声で名前を呼ばれて、おもわず飛び上がってしまった。
見れば小雪が目を覚まし、ソファーベッドに横になったまま直哉のことをじーっと見つめていた。
その目は先ほどよりもとろんとしていて……直哉はその額に、そっと触れてみる。
「うわっ、熱上がってるじゃん」
「んー……」
もぞもぞと小雪が丸くなる。
寝起きと熱のせいでずいぶん朦朧としているらしい。
ファーストキスの計画なんて一瞬で頭から吹き飛んだ。直哉はソファーベッドのそばにしゃがみこみ、小雪の顔をのぞき込む。
「小雪、しんどくないか。何か欲しいものとかあれば持ってくるぞ」
「……ほしいものー?」
小雪はぽやーっと考えこんでから、直哉の服をちょこんと摘まむ。
「直哉くんが、ほしいかなあ……」
「ぐっ、う……! そういうことじゃなくってな!?」
小悪魔じみたジョークとかではなく、本気で言っているのが分かるので心臓に悪かった。
続きは明日更新します。
早いところだと今週末には書籍一巻が書店に並ぶことかと思います。お見かけの際はよろしくお願いいたします!表紙の小雪ちゃんが連れ帰って欲しそうに見ている!






