雨の中の無人駅にて
海岸から駅までは徒歩十分ほどだったが、全力ダッシュのおかげで五分足らずでたどり着けた。
無人の駅に、他に電車を待つ人影は見当たらない。
公園には他にも親子連れがいたはずだが、彼らもどこかで雨宿りしているのだろう。
ざあざあと降りしきる雨は横降りだ。
あたりは霧が出たようにかすんでしまい、駅のすぐ目の前にあった自販機ですら薄ぼんやりとしか見えなかった。
「ううう……酷い目にあった……」
小雪はがっくりうなだれてため息をこぼす。
全身ぐっしょり濡れていて、髪からは大粒の雫が後から後からこぼれ落ちる。
帽子も意味をなさなかったらしい。そんな彼女に、直哉は頬をかいて頭を下げる。
「ごめんな、俺が早めに気付けりゃよかったんだけど……」
「な、直哉くんのせいじゃないわ。気にしないでちょうだい」
小雪はくるっとこちらを向いて、慌てたように言う。
「暑いからすぐ乾くと思うし。電車が来るまでにはなんとかなるでしょ」
「うっ、うーん、まあ……そうだな、うん」
「なに……?」
直哉はさっと目線を逸らして、あいまいな返事を返すことしかできなかった。
いぶかしげな小雪をひとまず置いて、自分のスーツケースをがさごそ漁る。
目当ての物はすぐに出てきた。大きめのバスタオルだ。それを小雪にずいっと突き出す。
「とりあえずこれ。使ってくれ」
「えっ、なんでそんなの持ってるの? 別荘にタオルとか全部あるって言ってたのに」
法介の知人が貸してくれるという別荘では、管理人が人数分の日用品をすべて準備してくれる。女性はあれこれ物が必要かもしれないが、男の直哉は最低限の着替えだけで事足りるのだ。
それなのにバスタオルを持ってきた理由なんて、ひとつしかない。
「テンション上がった小雪が、水たまりで転んだりするかなーって……一応準備しておいたんだ」
「直哉くんは未就学児童の保護者か何か……?」
小雪がジト目を向けて、ついでにバスタオルを押し返してくる。
「いいわよ、直哉くんが先に拭きなさいな。帽子がなかった分、私より濡れちゃったでしょ」
「俺は大丈夫だから。小雪は、ほら……さ」
直哉はそれをまた押し返す。
なおも視線はしっかり逸らしたままだ。
不思議そうに首をかしげる小雪に、とうとう直哉は真実を打ち明けてしまう。
「服……透けてるから」
「へ」
小雪がぴしりと凍りつく。
そのまま視線がゆっくりと下に落ちていった。
薄手の白いトップスは雨に濡れ、素肌にぺったりと貼り付いてしまっていた。おかげで体の線と、薄ピンクのブラジャーの細かな花模様が完全に透けていて――。
「きゃあああああああ!?」
雨音にも負けないくらいの悲鳴が駅のホームに響き渡った。
直哉からバスタオルをひったくって、小雪は自分の体にぐるぐると巻き付ける。
おかげでようやく直哉はほっと胸を撫で下ろすのだが……小雪からは射殺さんばかりの鋭い視線(涙目)が飛んできた。
「み、見た……?」
「……ばっちり見ました」
嘘をついても無駄なので、そこは正直に白状していく。
おかげで小雪の顔がぼんっと音を立てて真っ赤に染まった。
そのままぷるぷると震え始めるので、直哉は慌てて慰める。
「いやほら、こないだ水着見せてもらっただろ。あれと似たようなものじゃん! な!?」
「全然違うでしょ!」
「そうですね……はい」
ぴしゃっと切り捨てられたし、直哉自身もそう思ったので二の句が継げなかった。
水着の時の方が布面積は小さいし、もちろん肌の露出も大きい。
それでも透けた下着の方が、何倍もエロかった。ブラジャーが扇情的なデザインではなく、どちらかといえばシンプルなタイプなのが、またエロさに拍車をかけているような気もする。
わりとしっかり見てしまったので、おそらく一生脳内メモリに保存されることだろう。
「なんか……えっちなこと考えてるでしょ」
「あはは、なんのことだか……」
小雪がじとっとした目で睨んでくるので、直哉はさっと目をそらしておいた。
察しの良さがうつったらしい。
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