第3章 遠き理想 -3-
暗い闇の中で、柊は目を覚ました。
「ここは……?」
辺りを見渡せど、あるのは冷たいコンクリの壁と剥き出しの地面、それと工事用の外壁ばかりだ。他に何もなければ、何か今の自分の状況を探るものも見当たらない。
「……確か、あのとき――」
思い出そうとしたとき、こめかみに鈍い痛みが戻る。それでようやく、自分があのとき気絶させられたのだと思い出した。自分の身体に視線を落とせば、鎖でがんじがらめにされた挙句に、その鎖をテントでも張るように杭で地面に打ちつけられている。これでは柊の電気は全てアースとなった杭に流されてしまう上に、逃げ出すには昨日の鐵戦のような無茶をしなければいけない。
だが、あれはその怪我を負ってでも勝てる確証があったから出来ることだ。今の状況で同じようなことをするのはただの自殺行為。
つまり、今の柊にはこの拘束を解く手段がない。
「……目を、覚ましたんですか?」
そんな柊の目の前に少年が現れて、覗きこんできた。
間違いない。
昨日、柊の一撃を受けても平然と立っていた少年だ。
「見ての通りよ。――で、アンタの目的は何? 鐵みたいに、今度は私を含めた発電能力者に恨みでもあるわけ?」
「ち、違います。ぼくはそんな……」
おどおどとした様子で、ただ彼は首を横に振っていた。
「じゃあ何?」
そんな弱々しい人間に自分が負けて、こうして束縛されているのかと思うといら立ちもするだろう。柊の声は、少なからず彼を脅していた。
「……ぼ、ぼくは別にこんなことをしたくてしてるわけじゃないんです。でも、こうしないとぼくが酷い目に合うから……」
「あっそ。アルカナのくせに随分とひ弱なこと言うのね」
柊の吐いた毒に肩をびくりと震わせ怯えながらも、彼は無言のままにそこを去ろうとした。
「ちょっと待って。どこに行く気?」
「あ、あの人を呼びに行くんです。め、目を覚ましたらそうするように言われてますから」
その言葉は、柊にとって不可解なものだった。
柊はレベルSの発電能力者だ。彼女を傷つけることが目的なのなら、拘束するなど愚の骨頂。目覚める前に仕留めなければ、アルカナ級の能力者ですら返り討ちに遭う可能性もある。
「ちょっと、待って。まさかアイツが私を無傷で私を生かしてる理由って――っ!」
そこで柊は気付く。
最悪の可能性と、それに必要なピースの全てに。
そして、残っているのはあとたった一つのピースしかないことにも。
(ダメだ! このまま大輝が来ちゃアイツの計画が完成する!)
電磁波を使ってポケットの中のケータイを直接操作し、拘束された状態でも東城に通話をかけようとする。
が。
そこに、その男の影は降りる。
動き出したポケットの中の柊のケータイを乱暴に取り出し、踏み潰し、あの粘ついた笑みを浮かべていた。
「残念」
そう言って笑う姿は、もう何かが決定的に壊れ、歪んでしまっているように見えた。
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