保護担当
第2話 保護担当
翌日
俺の人生において、ろくでもない予感は大体当たる。
そして今も当たっていた。
「断ります」
「却下だ」
「断ります」
「却下だ」
「断り――」
「永瀬」
課長が眼鏡を外した。
あ、これ駄目なやつだ。
「いい加減にしろ」
「はい」
俺は素直に黙った。
権力には勝てない。
特に給料を握っている相手には。
「保護対象の担当はお前だ」
「他に適任いるでしょう」
「いない」
「ヒーロー課とか」
「逃げた」
「研究部門とか」
「三日で泣いた」
「精神科医とか」
「紬君が会わない」
思ったより深刻だった。
課長は机の上の資料を指で叩く。
「施設職員とも最低限しか話さない」
「へぇ」
「面会に来る能力者は全員拒絶」
「なるほど」
「お前だけ例外だ」
「なんでです?」
「知らん」
課長も知らなかった。
国家権力とは意外と適当である。
「とにかく」
資料を押し付けられる。
「今日から担当だ」
「残業代は?」
「出る」
「やります」
現金だった。
◇
保護施設へ着いたのは昼過ぎだった。
職員に案内され、昨日と同じ部屋へ向かう。
「様子は?」
歩きながら尋ねる。
「少し機嫌が良いようです」
「へぇ」
「朝食も完食しました」
「良かったじゃないですか」
職員は少しだけ複雑そうな顔をした。
「昨日までは半分ほどしか食べませんでしたので」
なるほど。
それは確かに変化だ。
部屋の前で足を止める。
ノック。
「入るぞ」
返事はない。
構わず開けた。
窓際。
本。
昨日と同じ。
ただし、
こちらを見る速度が明らかに速かった。
「あ」
小さな声。
昨日ならなかった反応だ。
「よう」
俺は手を上げる。
「昼飯食った?」
我ながら会話の引き出しが少ない。
「……食べた」
「偉い」
「子供じゃないもん」
「十二歳だろ」
「むぅ」
少し膨れた。
年相応の反応だった。
なんだ。
普通の子供じゃないか。
職員が危険能力者だなんだと言うから警戒していたが、拍子抜けである。
いや能力は危険なんだろうけど。
「学校は?」
聞いた瞬間だった。
紬の顔が固まる。
しまった、地雷か。
「……行ってない」
「そっか」
「……」
「俺も行きたくなかった」
紬が顔を上げる。
「え?」
「毎朝サボる理由考えてた」
「本当に?」
「本当に」
半分くらい。
すると紬は少しだけ笑った。
昨日より自然な笑顔だった。
その時。
ぐぅぅぅ。
俺の腹が鳴った。
最悪である。
紬が目を丸くした。
「……食べてないの?」
「昼飯まだ」
「……」
「コンビニ行きたい」
紬はしばらく考えていた。
やがて。
「コンビニ……」
ぽつりと呟く。
「最後に行ったの、覚えてない」
その一言で。
俺はなんとなく察してしまった。
この子はずっと閉じ込められていたのだ。
守るために。
でも、それだけじゃない。
みんな怖かったんだろう。
能力が。
そして本人も。
「行くか」
気付けばそう言っていた。
紬がきょとんとする。
「……へ?」
「コンビニ」
今度は俺が首を傾げる。
「行きたいんだろ?」
少女はしばらく固まっていた。
そして。
本当に小さな声で言った。
「……行きたい」




