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第三話 中空の光

観測者である彼と彼女は、新たな遊び場として一つの恒星系に辿り着いた。

同期を終えた二人は、静かに、だが確かに動き出す。


まだ何も始まっていないようで、

けれど、すでに何かが“始まってしまった”場所で――。


※補足:1話で「アンドロイド」と呼んでいた存在、2話で「彼女」と表記されていたのは同一人物です。

読者の混乱を避けるため、2話の表記はすでに「アンドロイド」に修正済みです。

『COSMOS-ARIAは、マスターの制御下に入ります。

恒星系介入フェーズへ移行可能です』


完全同期の報告を受け、彼は淡々と告げた。

「了解、展開した環を起動。恒星系の分析を開始する」


普段なら余分な思考が介在し、思考だけでの操作は不完全だった。

だが、完全同期によって、彼女は本来の補助役として十全に機能する。

その結果、無駄のない処理が可能になっていた。

彼の意識を補助する彼女の思考が重なり合い、CUTBEに反映される。


椅子に腰かけた彼の視界に、中空へと投影された情報の粒が現れる。

光はまだ弱く、分析は始まったばかりの段階だ。

微かな揺らぎは、情報の流れがまだ粗く、完全に整っていないことを示していた。


そして、環の内部で情報の流れが活性化する。

光は徐々に強さを増し、中空に仮定と可能性の波紋が形を取り始める。

まだ小さな動きに過ぎないが、これから数百万年分の未来の候補が、徐々に現実の候補として可視化されていく。


二人は無言で、その動きを見守る。

ここから、恒星系介入の本格的なフェーズが始まるのだ。


もし、この質量がここにあったなら。

もし、この運動が続いたなら。


数百万年、数千万年、

さらに数億年先までの変化が、

重なり合う可能性として展開されていく。


解像度は、

思考が進むにつれて引き上げられる。


彼が描く構図が定まるほど、

光は粗さを失い、

構造として振る舞い始めた。


それでも、現実は動かない。

ここにあるのは、まだ選ばれていない未来だけだ。


——接続。


CUTBE。

Cosmic Universal Truth Boundary Explorer。


外宇宙の存在を前提に設計されたそれは、

未来を予測するための装置ではない。

すでに想定され続けてきたものを、

把握するための道具だった。


重なり合った意識の中で、彼は思考を巡らせる。

同じく、彼女は補助を行い、解析を進める。

装置を介して作用する二つの流れは、

個を超え、一つの過程として進行していく。


恒星系は、

個々の天体の集合ではなく、

一つのまとまりとして捉えられた。


詳細は、まだ細分化されていない。

だが、それで十分だった。

今必要なのは、すべてを知ることではない。

全体を見渡すことだ。


静かな間の後、

彼女が告げる。


「同期完了」

「恒星系の把握を確認しました」

「現在の把握は、細分化を行わない範囲での統合情報です」

「詳細解析は、必要に応じて随時実行されます」


彼は短く応じた。

「了解」


それは命令ではなく、

次へ進むための合図だった。


果てしない時間のシミュレーションが、複数、同時に走る。

数え切れない仮定が次々と処理される。

岩石やガスの分布、軌道の揺らぎ、外部天体の影響。

その中には、生命が誕生する可能性を持つ仮定も含まれる。

しかし大半は、惑星同士の衝突や衛星の落下、離脱などで、生命が成熟する前に消滅してしまう。


彼らは探す。

外的要因で消えない、生命が成熟する未来を持つ惑星候補を。


二つの方向性――

保持して安定させる構成と、余分を排して精緻に作る構成――

そのどちらも、光の粒の揺らぎの中で同時に展開される。


中空には、いくつもの仮定が成立と消滅を繰り返していた。

可能性の海が、泡のように弾け、また生まれる。


目立たない、微細なずれ。

整いすぎた秩序は、自然の中には存在しない。

気にしなければ快適で、ほとんどの者は疑問を抱かない。

だが注意を向ければ、それは大きな違和感として現れる。


その安定という違和感も、彼らは確認しながら候補を選んでいた。

秩序を保ちつつ、余白や揺らぎを残すこと。

それが、現実に反映される可能性として最も望ましい形だった。


CUTBEとCOSMOS-ARIAは、彼の意識の延長として解析を繰り返す。

成立と消滅を繰り返す仮定の海の中で、

ほんのわずかな、未来として浮かび上がる候補を拾い上げる。


現実はまだ動かない。

ここにあるのは、選ばれる前の未来だけだった。


荒い計算の段階を経た候補の中で、介入開始後でも修正可能なものだけが残った。

一体となった彼らの情報は、一度切り離され、CUTBEに集約される。

意識自体はそのまま残り、機械的な選別は純粋に条件に基づいて進む。


それは、主導権を持つ彼の偏りを排除するための過程でもあった。

個の思考を超えた条件のみでふるいにかけられ、残ったものが次の段階へ進む。


CUTBEによる機械的な選別の結果、候補は次第に減っていった。

最終的に残ったのは、数百に届かない程度の惑星構成。

それらは、安定性と微細な違和感を兼ね備えた、次の段階へ進むべき候補だった。


彼女はゆっくりと覚醒し、アンドロイドとは思えないぎこちなさでカプセルから起き上がり、彼の横へ向かう。

「……これが、生命体で言うところの疲れというものなのかしら?」

「…ねぇ、建前で一時的とはいえ、ここまで生命体に近い再現性って必要だったのかしら?」


彼も覚醒し、椅子に座りなおしながら淡々と応じる。

「科学者によれば、安易な同期進言を抑えるセーフティ機能らしいからな」


彼女は軽く鼻で笑った。

「ふ~ん。科学者たちの悪ふざけってデータ、見たことある気がするんだけど?」

と彼を見る。


暫くの沈黙が流れる。

彼は無言で候補の一つを拡大する。

中空には、最終候補が縮小表示で整然と並ぶ。

拡大された候補は、惑星や軌道、微細な違和感までもが可視化され、二人の意識で確認できる状態となっていた。


その後、二人は順番に候補を精査し、意識を向けたものを拡大しながら、より快適で安定した恒星系の候補を選び出していった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


恒星系の誕生に手を加える――

想い描くのは、整った作りの恒星系。

砂場遊びや、海岸の砂で何かを作るような感覚で進む、彼らのお遊びです。


そして科学者の悪戯心で、

「リミッター付けたらいいだけの所を疲弊させられる彼女」。

セーフティだからしゃーなしだよね、うん。


さて、彼と彼女が思い描いた恒星系――

CUTBEはどんな候補を準備したのか。

彼らはどんな星々を選ぶのか……。

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