第四話 選定
彼と彼女は、恒星系の誕生に手を加え、いくつもの星々を“候補”として整え始めた。
それは遊びのようでいて、やがて一つの世界を決めるための準備でもあった。
そして今、
星々の中から、ただ一つが選ばれようとしている――。
「どう?お気に召した候補は見つかったかしら?」
彼女が中空に並ぶ候補へ視線を滑らせながら選定を進めると、彼は膨大な候補を前に問い返した。
「情報が多すぎるな……お前ならどう選ぶ?」
膨大な情報は中空に粒として浮かび、彼女がその中から必要なものを整理していく。
CUTBEによる機械的な選別を経た後の候補。
どれもが成立しうる恒星系であり、数はすでに数百にまで絞られていた。
彼女はその一つひとつに意識を向け、簡潔で理解しやすい形へとまとめ直していく。
「……確かに、この段階だと誤差みたいなものね」
そう言いながら、彼女はいくつかを選び出す。
表示が切り替わり、候補はさらに絞り込まれていった。
「ざっと、このくらいかしら」
操作が止まり、中空には拡大表示された四つの恒星系だけが残った。
彼はそれらを一瞥し、短く問いかける。
「……候補は四種か。違いは?」
「大前提として――生命が生まれる可能性は、どれも高いわ」
その言葉を待っていたかのように彼女は視線を戻し、一拍置いて、わずかに言葉を選びながら続けた。
「確定とは言わないけど、ほんの少し、方向性を持たせたら、まず間違いない」
そして、ようやく個々の差異へと踏み込み、彼女は表示された惑星を一瞥する。
「これがCUTBEも即座に候補に入れた惑星よ」
彼女の指先に応じて、惑星の拡大投影が安定する。
陸地は全体の三割、残り七割は海。
海は塩分を含み、循環は安定している。
陸地には山脈があり、河川が走り、湖沼も点在していた。
淡水は確保され、気候帯も極端な偏りはない。
初期状態に大きな手を加えずとも、生態系は成立し、
知的生命へと発展する可能性を十分に内包している――
そう評価される、いわば理想的な惑星だった。
彼はその光景をしばらく見つめ、静かに口を開く。
「……我々の母星をモデルにしているのか?」
彼女は小さく肩をすくめる。
「そうかもしれないわね。前例があるからこそ、無難ということよ」
少しの間を置いて、彼女は指先を滑らせ、次の候補へと表示を切り替えた。
空間に浮かび上がった惑星は、先ほどのものと大きく変わらない印象を与える。
「次の惑星はこれね。陸地がさっきより少し多いくらいで、あとはほぼ一緒よ」
表示されたデータには、陸と海がほぼ均等に分布している様子が示されていた。
大陸は分断されすぎず、かといって一つにまとまりすぎてもいない。
淡水も十分に存在し、河川や湖が各地に広がっている。
気候も安定しており、極端な環境は少ない。
生命が生まれ、進化し、知性へと至る。
その過程を阻む要素は、ほとんど見当たらなかった。
彼は惑星を見つめたまま、静かに言う。
「……さっきとほとんど変わらんな。あえて選んだ理由は?」
彼女は一瞬だけ視線を彼から外し、表示された惑星を眺めてから、
少しだけ口元を緩めた。
「さっきのが母星モデルだとしたら——」
「そこからほんの僅かな差が、何を見せてくれるのか。面白そうじゃない?」
彼は答えなかった。
彼女はその沈黙を肯定と受け取り、次の候補を表示する。
中空に浮かび上がった惑星は、先ほどのものとほとんど変わらないように見え、彼は数秒それを眺めた後、無言のまま彼女へ視線を移した。
「これは、二つ目のモデルとほぼ同じよ」
彼女は一拍置き、表示の一部を強調する。河川や湖は極端に少ない。
「違いは――淡水がほとんど無いわ。限られた条件で、いったいどんな変化が起きるのか」
彼女は軽く肩をすくめる。
「そういう候補よ」
「……なかなか面白い候補だな」
彼が表示されたデータから視線を離さず短く言うと、彼女はその言葉を待っていたかのように、わずかに笑う。
「でしょ。思いがけない変化が見られるかもしれないわね」
「だが……まだ、もう一つ残っているな?」
その言葉を聞いて、彼女はすぐには動かなかった。
十分な間を取ってから、彼女は静かに告げる。
「これは——CUTBEが除外した候補の中から、あえて拾ってきた惑星よ」
最後の候補を表示すると、中空に浮かび上がった惑星は、それまでの三つとは明らかに異なる様相をしていた。
圧倒的な青。
表面のほとんどを海が覆い、陸地はわずかに存在するだけだった。
彼女はその反応を確かめるように一瞬彼を見てから、どこか楽しそうに説明を始めた。
「ほぼ海よ。陸は二割程度」
「大陸が一つと、小島がいくつか点在しているだけね」
表示が切り替わり、海洋データが強調される。
「海はもちろん塩分を含んでいるわ」
「でも――大陸の中央には、かなり大きめの淡水湖がある」
「陸は少ないけれど、淡水湖や河川が集中している分、淡水の総量としてはこちらの方がむしろ豊富ね」
「気候も安定しているし、生物が生まれたとしても適応はしやすい」
「条件だけ見れば、決して悪い惑星じゃないわ」
彼女はそこで一度言葉を切り、笑みを浮かべる。
「——それでも、CUTBEは除外した」
「だからこそ、面白そうだと思わない?」
彼は、最後に表示された惑星から目を離さずに言った。
「……なるほど。お前が気になっているのは、これということだな?」
彼女は一瞬だけ言葉に詰まり、それから、わずかに視線を逸らした。
「……さて、どうかしら」
冗談めかした口調だったが、その仕草は、答えそのものだった。
「これで決まりだな。四つ目の候補にする」
「……本当に、それでいいの?」
彼女が期待を込めて確かめるように問いかけると、彼は惑星から目を離さないまま答える。
「何が起こるか分からない」
「……いい暇つぶしになるさ」
遊ぶ惑星がようやく決まりました。
全くの素人が思い付きで書き始めて、ここまで形になってきたんだなぁ、と自分でもちょっと驚いてます。
本当は下書き段階では、普通の惑星で普通の環境になるはずだったんですが、気づいたら海洋惑星になっていました…( ̄∇ ̄;)ハッハッハ
この先もある程度構想はあるんですが、思いがけない生命体まで誕生してしまって、私自身ちょっと戸惑ってます(;´・ω・`)
蟻の巣観察気分で楽しんでいる二人が、この惑星の知的生命体を見つけたら、果たしてどんな反応をするんでしょうね…。
続きも頑張って書いていきますので、よろしくお願いしますm(__)m
次にどんな発見があるのか、私も楽しみです。




